僕の名前は×××××です。(2話)
自分の名前をコンプレックスにもっていた主人公、ある日薄気味悪い店員に襲われ
病院に運ばれていた。
気がつくとそこは白くて広い部屋だった。
部屋が静かなことから誰もいないことがわかる。
左手には点滴。丸い小さな机には果物の詰め合わせが置いてあり、
少し薬品の匂いがする。なるほど、ここは病院か。
確か変な店員に胸に手を当てられてそれから・・・うーん、よく思い出せない。
モヤモヤと俺の心を渦巻く気持ち。それと何か俺は忘れているような・・・
頭を抱えて悩んでいると、扉をノックする音が聞こえた。
声をかけると中に入って来たのはびっくりするほど美人な看護婦さんだった。
純白のナース服に身を包み、少し茶色のかかった髪を後ろで一つ縛りにしている。
胸はナース服からはちきれそうなくらいのいわゆる巨乳であった。
肌は白く頬や膝の部分は薄く桃色で、まるで白桃だった。
看護婦さんは天使のように微笑み俺に声をかけてくれた。
「おはようございます。やっと起きてよかったです・・・かれこれ三日間起きずでしたので、
とても心配でした。」
声も美声だ、これは天使の領域を超えて、女神というべきかもしれない。
こんなに完璧な女性を見たのは初めてかもしれない。
「って!!」
「はい?」
俺は三日間も目を覚まさなかったのか!?
土日を寝て過ごしたりはするが、三日間起きずになったことはない。
一体俺に何があったんだ。
「汗すごいですよ・・・大丈夫ですか?」
看護婦さんが近づいてくる、甘いいい香りのする人だ。
巨乳が___看護婦さんがドンドンと近づく、左胸の名札には(酒井美心)
と書いていた。
「さかい・・・みこさん。」
「あっ、私美しい心とかいてこれで(ミココ)ってよむんです。珍しいですよね。」
みここさん・・・いい名前だ。
「とても綺麗な名前ですね。」
「あっありがとうございます。」
頬が林檎みたいに赤く染まる。
大人っぽい人かと思ったけど、意外と可愛らしい表情もするんだなぁ。
俺ももう少しかっこいい名前だったらなぁ・・・とふと自分の名前のダサさを思い出す。
俺の名前は×××××。
あれ・・・おかしいな、名前が出てこない。
×××××、××が苗字で×××が名前。
名前・・・俺の名前・・・
「あのっ美心さんっ、僕の名前ってなんでした?」
「え・・・?いきなりどうしたんですかぁ?」
くすくすと笑う美心さん。確かにこの質問は意味不明かもしれない。
でも本当に思い出せないのだ。名前だけが。
「あなたの名前はその後ろのプレートに書いてあるじゃぁないですか。」
そういって美心さんが後ろを指す。
俺は自分の後ろを振り返り、プレートを見る。
信じられなかった。頭が真っ白になるということがあるなんて。
その日は確か寒かった。
外はちらほらと雪が降り、アスファルトが白く染まってゆく。
この世にには名前がある。名前がなくては存在は証明できない。
プレートに書いてあるはずの俺の存在証明は、
×が五つならび、存在はなかった。
その日俺は、名前を失った。
「美心さん・・・俺の名前を言っていただけませんか。」
「いきなりどうしたんですか?」
「いいからはやく!」
頭で何も考えられない。今は怒鳴ることでしか言葉が出せなっかた。
「えっと・・・あなたの名前は・・・×××××さんですよね。」
自分の名前のところはまるで黒いマーカーで塗りつぶされたかのように
存在を否定され、聞こえず、見えず、ここにあらず。
一体何が起こっているんだ。
もし記憶喪失だったら、誰か一人は俺の名前を知っているはず。
だが今この部屋、そして美心さんからは俺の名前は消えている。
俺の・・・俺の名前はどこにいってしまったんだ・・・。
僕の名前は×××××です。(2話)