毒の翼

+1話+

漆黒の艶やかな髪。

スラリとした長身。

彼はまさしく女の理想の男であった。

付き合えるのならきっと誰もがどんな楽しみごとでも投げ出すだろう。

…そんな彼は。

なぜか今、私の側にいる。

小鳥のように小さく、人ごみにまぎれたら絶対に見つからない、存在感の薄さ。

お祭りでは泣いている思い出しかない悲しい私の側に。


彼はいつもいてくれる。




「ヘボバード。起きろ。」

「ううっ…嫌だぁ…」

「…起きろって言ってるのが聞こえないのか。」

「もうやだよ…朝なんていらないよぉ…」

私が布団の中でぐずぐずしていると。

彼は私の耳にささやいた。



「お前はキスのお目覚めが必要か?」


その言葉に私は驚いて跳ね起きた。

「やっと起きたか。ヘボバード。」

「うっ…うるさぁぁぁぁいっ!!」

私の声は家中に響き渡った。

すると…

「うるさいのはアンタでしょ!」

というお母さんの声が。

「ほら見ろ。怒られたぞ?ヘボバード。」

「アンタのせいでしょ?!ふざけるのもたいがいにして!!」


私の朝は…いつもこんな感じに騒がしいです。

+2話+

「小さいくせに…本当によくわめくバードだ。」

「アンタこそ…そんな容姿なのに毒舌とか…残念な人ね。」

私が言うと彼は私の頬を引っ張る。

「いだたっ…!ちょぉっ…!」

「そうかそうか。そんなに俺の容姿が気に入ったか?」

「ちがっ……ったぁいっ!!」

私が口答えしようとするとより一層、引っ張る力を強める。


この彼が…こんなに意地悪なのには訳がある。


「ああ…口が裂けるかと思った…」

「そう簡単に口は裂けない。」

「いや。絶対裂けるよ。アンタの力だったら。」



彼は…人一倍、力が強く、毒舌で、冷たい。

はっきり言えば…彼は人間じゃないのだ。



『悪魔』



それが彼の正体。

悪魔のようとかそんなんじゃなくて…

本当に悪魔の血筋を持つ…正真正銘、悪魔。




「腹が減った。」

彼はいきなりそうつぶやく。

「好きにすれば。」

私が突き放すように言うと…

「ヘボバード。俺のために何か買って来い。」

と命令しだす。

「はぁ?!自分で買いに行くくらいしなさい!」

「俺は人間とは違うからな。悪魔はコキを使うのが好きなんだ。」

「そんなの知らないしっ…だだだたっ!!」

また頬を引っ張られた。

そして…私は渋々、彼のごはんを買ってくることにした。



私の扱い本当にひどくない…?



私がそんなことを思いながら売店へ向かっていると。

「ねぇ…悪魔の噂、知ってる?」

「知ってる~…ココ、出るらしいね。」

その話を聞き、私はうつむいた。

彼は整った容姿で人間を装っているが…

本当は誰もに嫌われる悪魔なのだ。

その事実が悲しく…私はうつむいた。

+3話+

そんなある日のことだった。

「あ!お兄ちゃんから手紙だぁぁっ…!!」

私はポストに入っている手紙を見て感激する。

私のお兄ちゃん・朝飛は世界を旅する自由人。

そんなお兄ちゃんのことが私は大好きなのだが。

「なんだ。あのどうしようもない兄貴からか?」

後ろから手紙をのぞく…日影。

「なっ…お兄ちゃんの悪口は言わないでって言ってるでしょ?!」

「はいはい。うるさいぞ。ブラコンバード。」

「ぶ…ブラコンじゃないしーっ!!」


というわけで。

「えっと…はいかい?」

「拝啓だ。」

「う…うるさいっ。」

私はそう言うと読み出した。

「夕飛へ。 日影と仲良くやってるか?まぁあいつのことだからお前に毒を吐いてるだろうが…

まぁそんなわけで本題だ。俺は今、アメリカにいる。そこで仕事をしてるんだけど…

人手が足りないらしくて。若い女が必要みたいだから夕飛。来い。

母さんには許可とってあるから。日影と仲良く来いよ。」



私は読み終わり目を点にした。

…ここに書いてあることは事実?

アメリカに…私が行く?

私は日影を見た。

日影は呆れたようにため息をついている。

「…行くしかないだろ。」

日影はそうつぶやいた。


…やっぱりそうだよね…

+4話+

「じゃあ行ってらっしゃい。夕飛。日影。」

「行ってきます…」

私は大きなキャリーバックを片手に。

日影はボストンバックを片手に持っていた。

私はとぼとぼ駅へと向かう。

お兄ちゃんの側にいれるのは嬉しい。

でも…



「バード。元気が無さそうだが?」

日影が私のテンションの低さに気づく。

「あはは…ちょっと新しい場所が恐いというか…さ…」

私はそう言いへなっと笑ってみせる。

すると…日影は私の手をにぎった。


「え…日影…?」


いきなりの日影の行動に戸惑う私。

「…心配ない。俺がいてやる。」

彼はそう言ってくれた。



…悪魔のくせに似合わない言葉。


「ありがと…」

私は笑って日影に言った。



飛行機に乗るのは初めてだった。

「こんな乗り物に乗らなくても飛んでいけば…」

「いやいや。恐いわ。私が。」

私がすかさずつっ込み、決められていた座席にすわった。

やっと落ち着いた気がした。

「…ねぇ。私に手伝ってもらいたい仕事ってなんだろう?」

私が聞くと彼は

「さぁな。」

と言った。


それはそうだろう。

日影が知るわけがない。

「お兄ちゃん…」

私はボソッとつぶやく。

お兄ちゃんには何年ぶりに会うのだろう。

だいぶ…会ってない気がする。



「元気かな。」



私が、また一人つぶやくと


「元気に決まってるだろ。あいつのことだ。」

日影がそう横から言ってくれた。

私はクスッと笑い

「そうだよね。」

と言うと…

アナウンスが流れ、飛行機は飛んだ。



しばらくして…私は眠ってしまった。

+5話+

私はふと目覚めた。

私にしてはめずらしいことだった。

いつも日影にたたき起こされてるからね…

私はそんなことを思いながら日影を見る。


「ね…寝てる…!」

こうして日影が寝ているのをみるのは初めてだった。

「…そうだ。」

私はニヤリと笑った。

いつも意地悪されてるんだ。

仕返ししちゃえ…!

私は何をしようかなと考えながら日影を見つめる。

長いまつげと白い肌。

…美男子の域を超えてるだろというほど綺麗な顔立ちだ。


…でも見てると腹が立つ。

私はマジックを取り出すと口の端を上げ、日影の顔に書こうとする…と。



「仕返しか。なかなかやるな。お前。」

日影は急に起きて私の腕をつかんだ。

「げぇっ!」

「それかなんだ?構ってもらいたかったのか?」

「断固違います!!」



飛行機から降りると…そこは異世界だった。

「すごい…」

「何してんだ。行くぞ。」

「え。あ…うん。」

新しい場所に戸惑う私に比べて日影は冷静だった。


「日影…ここ、来たことあるの?」

「…まぁな。前は…ここに住んでた。」

「…前?」

「お前が初めてなわけないだろ?お前より俺はずっと年上なんだから。」

日影はそう言う。

まぁ…そうなんだけど…

「じゃあここは日影の思い出の場所じゃん。」

「…そうでもない。」

「え?」


そう言う日影の横顔は…どこか切なそうだった。

一体…どうして…?

そう思っていた時だった。

「夕飛!」

私を呼ぶ声が聞こえた。

人ごみを掻き分けて来たのは…


「お兄ちゃぁんっ!!」

大好きなお兄ちゃんだった。

私が飛びつくとお兄ちゃんは優しく抱きとめてくれた。

毒の翼

毒の翼

端整な顔立ちなのに…毎日のように毒を吐く日影。 そんな彼に頭を悩ます夕飛。 そして…ある一通の手紙でアメリカへ行くことになった二人を待ち受けていたのは…!!

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-01

Copyrighted
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