歩道橋の上で
私は考える。
「どうしてこんなことになったのかしら」
彼は言う。
「仕方がないことなんだよ。そうだろう?」
「そうかしら」
私に向けられている、銃口を見る。内心、震えた。
「そうかもしれないわね」
どんなに怯えていても、私は相手を見下したように笑うのを、止められない。
歩道橋の上で
桜木とわ
「どこまでもキミはキミだな」
「どうもありがと」
感動もなく、私は言い放った。ああ。もうどうにでもなってしまえ。
「貴方もよ。冷静で、容赦がない。・・・こんな時ですら」
こんなにも、心の中は怯えているのに、なぜこんな不敵な物言いができるのだろう。
私の意識と、恐怖の心は、繋がっていないのだろうか。
そうでもなくては、斜め上から私に銃口を向ける表情のない恋人に向かって、笑みなど浮かべられるわけがない。
もう一度私は思う。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
真夜中の、銀座。
歩道橋の上で、私たちは何をやっているのだろう。
「とにかく」
彼は一度、前髪をかき上げた。
「運命の歯車は、狂ったのさ」
「・・・そうね」
彼のヴィンテージ物のスニーカーが、私の返り血で汚れていた。
だいぶ血を失った体が、どんどん夜気で冷えていく。
怖い。
次の瞬間にも、私の心臓が弾丸に貫かれるのかもしれない。
救いはない。
私は静かに、絶望した。
それなのにほら、まだ私は、見下したように彼を真っ直ぐ見てる。
「愛してる」
驚きで、私は目を見開いた。
歩道橋に座り込んでいた私。恐怖も、何もかも忘れて、彼を見上げた。
その時彼が引き金を引くのを、スローモーションで見た気がする。
タン―――
衝撃に、思わず私はそのまま後ろに倒れた。
パーッ
すぐ下を、クラクションを鳴らして車が走り抜けていく。
「愛してる」
そっと私の横に跪いて、彼はもう一度言った。
ああ。もう何も考えられない。
「私もよ」
見上げる彼の顔には、やはり表情がない。
どうしてこうなったのか、なんてもうどうでもいい。
視界が、ぼやけていく。
血にまみれて、なお私は呟く。
「愛してる・・・」
星や、月よりもネオンの輝く夜中。
歩道橋の上で。
歩道橋の上で
デジタルデータとして残っているもっとも古い作品です。
2004年のものだと思われます。