おしっこ王子とうんこ大王(5)

五 夕食

「ハヤテ、夕食ですよ。その前に、お風呂に入りなさい」
「ちょっと待って。このテレビが終わるまで」
 塾から帰って来た僕は、今、大好きなアニメ番組を見ている。さっきまで勉強していたから、今度は、頭に休息の時間を与えてあげないといけないからだ。
「あなたは、いつもそうなんだから」
 お母さんにはお母さんの時間配分があるように、僕には僕の時間進行がある。あと五分で全てが解決する。お母さんのお小言を聞き流しながら、本題のテレビに集中する。終わりの主題歌が流れた。さあ、お風呂だ。シャツやパンツを脱ぎ、洗濯機の中に放り込む。同じように、体も湯船の中に放り込む。体を洗うとき、お腹を触る。いつも不思議なことだが、どうしてお腹は減るんだろう。毎日、三食のほかに、三時のおやつ、食後のデザート、計五食以上も食べるのに、いつも決まった時間に元通りに戻る。でも、おかげで、こうして、勉強や遊びのエネルギーをもらっているんだ。よしよし、今、満腹にさせてやるぞ。僕は、少し、ぐうと叫びだしたお腹を撫でてやった。

「ふあわああ。仮眠は終わりだ、皆ども。耳からの報告では、お腹の外では、夕食が準備されているそうだ。ほら、がちゃがちゃと食器をテーブルの上に並べる音が聞こえてくるだろう。じゅうじゅうと何かを焼いている音もしているだろう」
「大王。今、鼻からも、いい匂いがしているという連絡が入りました」
「あっ、ここでも匂うぞ。これは、僕の大好きなステーキの匂いだ」
「王子、それはよかったな。それなら、働きがいもあるものだ。わしは、ひと口のビールで十分だが、今は無理だなあ。まあ、主が大人になるまで後十年を待つか。さあ、今日のメインイベントだ。頑張って、栄養素を吸収するぞ。それ、皆ども、持ち場につけ」
「おー」
 うんこ軍団とおしっこ軍団の家来たちは、消化道具を体中に装備すると、今日一番の大仕事のため臨戦態勢に入った。

 今晩は、僕の大好物のサーロインステーキだ。じゃがいもやにんじん、さやいんげんも添えられている。黒、赤、緑、白の四色だ。彩りもいい。テーブルには、お父さんが座っていて、ビールを飲みながら今日のテレビニュースを観ている。お母さんは、最後の総仕上げで、たまごスープをカップに、ごはんをお茶碗によそっている。さあ、戦闘開始だ。僕は、椅子に座ると、フォークとナイフを持ち、分厚い肉の塊に挑戦する。お腹も、空き空きの状態で、好き好きの御馳走を待っている。両者の意見は一致した。肉を左の端から切ると、口にほうばる、ほうばる。美味しい、美味しい。肉とソースのうまみが絡み合って、唾液がとめどもなく溢れる。
 このまま胃の中に押し流すのはもったいない。口の中で何度も何度も噛みしめる。口の中に肉汁が溢れる、溢れる。この一回、この一回が、僕の体を大きくするなんて不思議だ。美味しい成長。こんな楽しいことはやめられない。二十四時間、三百六十五日、食事を食べ続けたい。でも、そうすれば、口はいいれどい、消化する胃や小腸、大腸などが、たまには休みをくれなんて、ストを起こすかもしれない。その証拠に、食べすぎた後は、必ず、お腹が痛くなる。少しは気をつけなさいというメッセージなんだろう。お腹が文句を言い出したらそれこそ、やかましくていけない。ひょっとしたら、僕が知らない間に、胃や小腸などが、僕の食生活について、会議をしているかもしれない。やっぱり、食べすぎや偏食には気をつけよう。僕は、ゆっくりとお腹を撫で回す。お腹さん、お腹さん、これからもよろしく。

「大王。今晩は、間違いなくステーキです。今、唾液からの連絡が入りました。でも、唾液もステーキが大好物なので、なかなかこちらに回ってきません」
「まあ、慌てるな。一旦、口の中に入った以上、吐きだされることはないだろう。よし、わしも好きな肉だ。みんな、心してかかれ」
「大王。メインディッシュが肉なら、スープも出ますよね」
「もちろんだ、王子。お前の方の仕事も抜かりなく、よろしく頼むぞ」
「はい、わかりました」
 お腹の兵士たちも、フォークとナイフを片方ずつ持ち、いつでもステーキが流れてくるのを待っている。肉やじゃがいも、にんじんなど、歯で小さく砕かれた食べ物が流れてきたら、より一層、細かくして、栄養分と老廃物とに分けるのだ。二十四時間、三百六十五日、いつでも対応可能なように、休みなく見張りを立てている。こんなこと、主は知っているのだろうか。

「ふう、満腹だ。もう食べられない」
 僕は、先ほどまで引っ込んでいたが、今は軽く小山状態のお腹を撫でた。皿は洗わなくてもいいぐらいに白く光っている。
「ごちそうさまでした」
 軽く手を合わせ、あいさつをすると、マンガの本を持ってソファーに寝転んだ。
「すぐに、横になると牛になるぞ」
 お父さんが横目で僕に注意する。
「大丈夫。僕は丑年生まれだから、生まれた時から牛なんだ」
 塾と学校の宿題をしなければならないけれど、しばらくは、休憩タイムだ。今は、お腹の中は、先ほど食べたステーキを消化するため、戦場になっているはずだ。そちらがまずは優先だ。脳とお腹を同時に動かすなんて、そんな器用なことは僕にはできない。でも、ステーキは、本当に、美味しかった。きっと、お腹も十分満足だろう。

おしっこ王子とうんこ大王(5)

おしっこ王子とうんこ大王(5)

五 夕食

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-01

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