怪異探偵空木藜~境界の夢と蝶~

隻眼空虚

「ねぇ、あの噂聞いた?」
「聞いたにきまってるじゃない!あの子、瀕死の状態で運ばれたのに昨日、目を覚ましたんでしょ?」
「そうなのよ。でもねその話には、続きがあってねあの子、消えたらしいわよ。」
「消えた?何それ、だってあの子はほとんどの臓器が駄目になっちゃたんじゃないの?」
「そう、それなのよ!でもね、明け方様子を見にいった看護師の子が見つけたのよ。・・・・・・・血だらけのベッドと病院服をね。」
「何それ本当なの?」
「本当よ!警察とかには話してないみたいだけどね、担当の看護師の子から聞いたもの」
「ご家族の方は?」
「それがね、あの家、なんだか特殊でね”あの方が自らの意思でいなくなったのならそのままにしてください。決して表に知れないように。”だって。」
「はぁ?ちょっとおかしくない?」
「そうなんだけどね、運ばれてきた子えっと・・・・・空木(うつぎ)藜さんだっけ?その子も少し変だったじゃない。」

「だって、女子高生が鉛玉を喰らって運ばれるなんて早々ないわよ。」




怪物と戦う者は自分も怪物にならないように気をつけなければならない。
暗闇の深淵を覗き込むとき暗闇もまたこちらを覗いているのだから。
                                             ニーチェ

玖珂森 湊が自我を持ち自らを確立する頃、日本の制度は大きく変わっていった。
ニュース何かでは海外の財政悪化、テロが頻発し崩壊の一途を辿る海外に比べ日本は平和で幸福な国だと騒いでいたし、国を操っていた無能な政治家たちの集団はすべて「マザーシステム」と呼ばれる世界最高宝の人口知能によって組織解体され、今の日本の政治は全てシステムが管理している。

システムが齎した恩恵は偉大なものであり、今の日本人の生活には欠かせないものになった。
問題視されていた環境問題も、人口知能を積んだアンドロイドを巡回させる事によってゴミを減らし、少子高齢化も同性結婚を認め細胞を変化させる事での受精も可能にした。

けれども幸福の向こう側では問題も起きた。
「幸福すぎる人生をいつまでも続けたい」
そう思う人間が増え、永遠の時間を手にするために違法な手術を受け、自らをアンドロイド化する人間の増加により起こる人口爆発。
それに加えて、最高宝の人口知能を持ってしても、原因不明の現象、怪異の頻発。
システムはこれを「異常」とみなし、「特殊警察」を組織した。

特殊警察には、システムが選出した国民が選ばれる。
湊もその1人だ。
大学4年の時に就職口を探すためにシステムを覗いたら特殊警察への就職を認められた。
当時の湊にとってはあまりにも現実味がなく、悩んだが誰にでも出来る仕事ではない。
自分にしか出来ないものだと感じ就職を決意した。

そこから特殊警察学校で3年学び首席で卒業。めでたく今年「怪奇捜査部2係」への配属が決まった。

出勤当日。
人手不足により新人である湊も現場に呼び出されていた。
現場である廃棄街までのタクシーの中で湊はまだ見ぬ上司から送られてきた事件概要を読み返す。
『大島 実。男性、45歳、住所不定無職。元は管理アンドロイドの制御の仕事をしていたが不祥事によりクビ。その後、怪奇発症の兆しを見せる。』
湊はその他の資料にも目を通し終えると深くため息をつく。
そのため息は大島に対する同情からくるものではなくただ、単純に初の現場でミスをしないか心配になったからだ。
手のひらに何度も『人』を書き飲み込む。
そんな子供騙しをしてなんとか気を紛らわせる。
そして自分に言い聞かせた『絶対大丈夫』だと。


現場である廃棄街の近くまでくると走らせていたタクシーを停め、代金を払い外へでる。

まだ、入り口だというのに酒やドラッグの香りが混ざり合って甘い異臭となり湊を襲う。
その臭いに目眩を覚えるが、これからの事を考えれば多分、目眩だけでは終わらないだろう。

「よっし!」
頬を叩き、気合いを注入する湊。
禁止テープの前に立つ同僚に警察手帳を見せ、中へと入る。
中は、緊張という糸が至る所に張り巡らされまるで蜘蛛の巣に絡まった虫の気分だった。
そんな空気に呑まれないように湊は顔を引き締め、辺りを見回しながら上司である倉橋を探すのだが、まだ顔合わせも何もしていない湊には不可能だった。諦めて、近くにいた捜査員に聞く事にした。
「あの、此方に倉橋警部はいらっしゃいますか?」
「倉橋は俺だ。お前か?今日から配属された玖珂杜は……」
湊はギョっとして慌てて敬礼する。
「し、失礼しました!倉橋警部とは存じあげずに!本日付で配属になりました玖珂杜 湊です!」
「すまないな。新人のお前まで現金に来いと言ってしまって」
まるで、ゴリラいや、教科書でみたクロマニョン人にそっくりだ。内心、そう思う湊であったが初日から上司との関係を悪くする程の馬鹿ではない。心の奥深くにしまっておくことにした。
「事件の資料には目を通したな?」
「はい。勿論です。 」
「よし。奴は現在B区の何処かにいる。」
そういいB区の書かれた電子地図を向ける。
「人質は?」
湊は倉橋に聞いた。
けれども返事は別の所から帰ってきた。

「いるよ。」

聞き覚えのない声に身構える湊。
その声は、対策拠点として設置されたテントの中からだった。

「うちの優秀なる部員が人質さ。」

瞬間、テントから現れた3人の人影。
3人とも湊より若く、まだ学生といった風貌だが何処か影を秘めている。

中央に立つ彼女は襟足長めの銀髪に中性的な顔立ち。性格を表すかのような緩めのゴスパンク。
右隣に寄り添うように立つ彼は少年のようにも見えるが、幼さは一切無く騎士や執事のように見える程で男の湊からみてもカッコイイと思える。
左隣の彼女は、学生とは思えない程の顔つきに合わせたような凹凸がはっきりとした体つき。それを強調するかのような服装にゆるふわのパーマが余計に彼女を際立たせる。

これの何処が学生だ。
そう思う湊であったが倉橋はそんな湊に気付かずに話しを続ける。

「今回は二手に別れて捜査をスル!紫苑は俺と!藜と日向は玖珂杜に付いていけ!いいか!太田は殺さずに捕えろ!多少の傷はかまわん!ただ怪異にだけは変異させるなら!させたら始末書だからな!以上!」

そう言うと倉橋はゆるふわパーマ、紫苑と共に闇へと溶けて行く。

「んで、僕達はどうする?玖珂杜さん」
残されたゴスパンクがつまらなそうに湊に指示を仰ぐ。
「うっ、そ、それは」初めての現場でまさかの緊急事態だ。湊は必死に研修の頃由を思い出し、こういった場合どうするか考える。
そんな湊を見てゴスパンクが腹を抱える
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!玖珂杜さんって石頭だねぇ!どうせ、研修で学んだ事とかかんがえてたんだろ?駄目だよ、あそこで学んだ事は忘れた方がいい。役になんかたたないよ!」

「現場の事は実際に体験して学ばなきゃ駄目だよ?その為に僕達がいるんだからさ。」

馬鹿にした笑いから一変、ゴスパンクは妖しく笑う。

「あー、そう言えば自己紹介まだだったね?僕は藜でそっちが日向ね。」
「…………宜しくお願いします。」
ペコリと頭を下げるイケメン、日向。

ゴスパンク、藜は簡単に自己紹介を済ますと端末に表示された時間を見て軽く舌打ちをする。
「さぁ、そろそろヤバイし行こうか。僕達にとって此処の空気は毒だ。」そういいマスクを付ける藜と日向。
そして、3人はゆっくりと闇へと入る。

怪異探偵空木藜~境界の夢と蝶~

やっと、1回目の投稿が終わりました。
初めまして、「怪異探偵空木時雨~境界の夢と蝶~」に目を通して頂きありがとうございます。
凄く、乱雑な文で分かりにくいかと思うのですがどうか許してください。
まだ、プロローグにあたる所ですが、2回目からは本編に突入する予定ですので其方も読んでいただけたら幸いです。
では、今回はこの辺りで。

                      阿部

怪異探偵空木藜~境界の夢と蝶~

理想都市「クロノス」における幸福のすべては、人体解析システム「マザーズシステム」に よるものだ。 医療、教育、人格形成その他、人生において必要とされたものを個人個人把握し記録することによりクロノスに住む人々は、「理想」とされてきた。 玖珂森 湊は「マザーズシステム」により最優良人と格付けされ、首席で警視庁刑事課怪異捜査部に配属になった。 怪異捜査部という部署に疑問を持ちながらも、上司である園崎や、捜査に協力する高校生、藜や日向・紫苑・ルカといったメンバーに囲まれ都市に潜む怪異を 捜査していく。 何故、怪異は生まれるのだろうか。 怪異の謎に迫るうちに彼らは、理想都市の闇へと誘われていく。

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-28

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  1. 隻眼空虚
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