僕の名前は×××××です。(1話)

君は一回でも思ったことがあるだろうか。
自分の名前が嫌い、と。
俺はある。この時代にあまりにも似合わなくて、
中学時代は随分コンプレックスだった。
もっとかっこよかったら・・・と何回も思ったが、
いちお親から頂いたお名前。確かにかっこ悪くて、嫌いだけど
名づけてくれたことには感謝している。
このまま一生名前を変えるつもりはない。
なくすつもりもなかった。なくせるわけがないと思った。
自分が一番解っているつもりだった自分の名前。
でも何故だろう。今はあんなに嫌いだった。コンプレックスだった。
感謝してた自分の名前が出てこない。
何故だろう。

その日は確か特に寒い日だった。
外はあまりに寒すぎて、皆マフラーの中に顔を埋めて歩き寒さに耐えて歩いていた。
学校の帰り道で俺もその寒さの中ポケットに手を入れマフラーの中に埋めトボトボと歩いていたが、
寒さに耐えれず外にいれなくなり、新しく出来た駅前のCDショップに駆け込んでいった。
「あったけー。」
CDショップは暖房がよく効いていて、冷えた指先や、頬に温かさがじわじわと沁みこんできた。
駅前だからかはよく解らないが、店内には人がある程度いて、繁盛している様子だった
今月出た新曲があちらこちらから聴こえてくる。
そういえば、中学校の頃はよくCDを買っていたが、最近はパソコンから音楽プレイヤーに
入れるなどして、あまり買わなくなったなぁ。どうせ店に入ったんだし、一枚CDでも買っていくかな。
店内をぐるぐると回り、お気に入りのアーティストが新曲を出していたのを見つけた。
メジャーでもなく、マイナーでもない、いまいちな立ち位置のこのアーティストを店に置くとは・・・
この店はまた今度来るかもしれないな、なんて思いながら俺は店のレジに進んだ。
都合良く、誰もレジには並んでおらず俺はすぐに会計へと進めたと思えた。
だが店員からよく言われるあのフレーズを耳にすることになる。
「ご購入するには、会員登録してください。」
この店もか。
最近は本当に会員登録しなければいけない店が多い。
同じことを何回も、何回も書かされて最近は住所とか適当に書きすぎて
自分でも何て書いてあるか判らなくなってきた。
ここで引き下がってもいいのだが、どうせこの店にまた来るかもと思うと、結局会員になっているのだ。
「じゃぁ、お願いします。」
そう俺が言うと、スムーズに紙とペンが渡されこの紙に住所、年齢、電話番号、氏名を書くように指示された。
俺はいつものように自分の家の住所を書く。
そして年齢、今年で17歳、来年は高3だから少し憂鬱だ。
電話番号も適当に書く、これで合っているのか少し不安だが、まぁいいだろう。
最後に名前を書く。もっとかっこいい名前なら綺麗に書いて堂々と見せれるのに。
すると
「いいお名前ですね。」
といきなり店員が話しかけてきた。
あまり言われたこともなかったが、褒められるのは嫌ではなかった。
「あぁ、ありがとうございます。」
「本当に、本当に・・・そんなにいいお名前で羨ましいです。」
なんだ、この店員・・・営業スマイルが気持ち悪い。
俺の名前を心から羨ましそうにカードを見ている。
「そんなにいいですか俺の名前・・・。」
「えぇ、とても・・・とってもいいお名前です。」
「そんなにいいなら、俺の名前を貴方に渡したいくらいですよ。」
「本当にですか!?」
店員が身を乗り出して嬉しそうな顔をした。
正直言って気味が悪い。
暖かかった店の空気が冷えたように感じる。
この時俺は冗談といえばよかったのだ。
「それでは、遠慮なく、頂きます。」
「はぁ?」
店員はレジカウンターに登りキラキラと光る瞳で俺を見つめ
俺の胸に手を当てた。
「ちょ、なんですか、いきな・・・うっっ。」
激しい痛みが全身を走る。
身体にある神経を全て奪われたかのように、身体が言うことを利かない。
声を発して助けを求めようとしても、声が出ない。
何がなんだかわからない状態でただ判ることは、
目の前に満面の笑みでキラキラと光る瞳がこちらをジッと見ていることだ。
目を反らそうとしてもその瞳から俺の目は何故か離れられなかった。
一体何が起こっているんだ?
周りにいた客はどうなっているんだ?
そもそもこの店員何者なんだ?
何もかもが疑問に変わっていく。
「_____今日から貴方に名前は_____。」
何かあの薄気味悪い店員が言ったような気がしたが、そのときには俺は気を失っていた。

僕の名前は×××××です。(1話)

僕の名前は×××××です。(1話)

自分が一番解っているつもりだった自分の名前。突如「名狩り」に襲われ 名前を奪われてしまう。名前をこの世から消され、自分の名前がわからず途方に暮れていたとき とある事務所を見つける。 名前がないものは存在を認識できない___自分の存在をかけた戦いが今始まる。

  • 小説
  • 掌編
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-11-06

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