二次元のような世界で二次元を広める話
幻想世界に持ち込まれた二次元
空気というものはその土地によって匂いが違うものだ。俺が今日から暮らすことになるこの場所。ここも知らない空気の匂いがする。
知らない土地というものに憧れを抱く者も居るが、俺は正直そこまで興味を抱くことができない。故に、引越しというイベントも、俺にとってはただの面倒な移動でしかない。
《海峰》
「…しっかし、ここは本当に幻想的なところだな。数年前に突然現れた島…それも空の上に浮いているという謎原理…更には獣人や妖精に似た生き物も存在し得ると…」
…俺が今いるのは、数年前に突如出現した浮遊島“ファンタジア”名前からも読み取れるように、まさにファンタジーの中の世界を写したような島だ。
この島があるのは日本の沖ノ鳥島付近の上空。ちょうど日本の領空に当たるところだ。そのため、この島は日本と協定を交わし、一応ここは市国という形で成り立っている。一応国として世界から認められているため、そう簡単に行き来することはできないが…日本はその中で例外となっている。
色々と不思議ではあるが、俺的に何よりも不思議なのは、話している言語が標準語日本語で、ほかの国の言葉もある程度理解できているということだ。
なぜ、この世界になかった島の人間ではない住民が、この元あった地球という星の言語を話せるのか。これが一番の謎といっても問題はないと思っている。
《海峰》
「っと、そいうえば待ち合わせの時間になったが…案内人とやらはどこだ?」
っと、俺がここにいる理由は、この島で俺が、もとい俺の知識が有効活用できそうだということからだ。
この島の素晴らしいところといえば、何よりも二次元の文化が進んでいるところだろう。この島の住民のほとんどは二次元に対しての理解が強く、かつそれに対して友好的だ。
個人的に、彼らが日本に対して寛大なのは、おそらくそういう点での共通点があるからだろう。そう勝手に思っている。
さらにこの島には獣人。そのハーフも暮らしている。獣人というのはいわゆるオオカミ男をイメージしてくれればだいたいあっている。そのハーフは、大抵普通の人間に耳と尻尾が付いた姿をしている。あと妖精というのもいるが、彼女たちについてはいまいち分かっていない。
というのも、彼女たちはその中にも種族というものがあって、一概のこうとは言えないのである。
《謎の男》
「…西園寺海峰さまでいらっしゃいますか?」
《海峰》
「あなたが、案内人ですか?」
《案内人》
「はい。そうです。申し訳ありません。貴重なお時間を無駄にさせてしまい。案内をしますので、こちらに」
《海峰》
「解りました」
そう言って案内人についていく。
最初に言っていた俺の知識が有効活用できるかも知れないというのは、簡単に言ってしまうと、この島の二次元産業をさらに発展させるためだ。
…何を言っているんだコイツ。と思うのも少なくないと思うが、これは決して冗談などではなく、割と真面目な話だ。
さっきも言ったように、この島は、二次元に対しての理解が高い。そのため、二次元も立派な産業の一つになっている。
しかし…言ってしまうとこの島の二次元のレベルは日本に比べるとまだまだ低い。
絵、音楽及びそれの合成技術は素晴らしいものがある。しかし、個人的に二次元において大切な三大要素絵、音楽、シナリオのうち、シナリオのレベルが少々低いと思っている。
それに、言っては悪いが、この島のゲーム(専門の端末を使用する。全年齢版からR-18Gまで完備)は、ほとんどが似たり寄ったりの内容となっている。
二次元に理解はあっても、創作という面で見るとまだそこまで育っていないという感じが拭えない。
だからこそ…というか、妄想力の尽きない俺がその制作に協力することになった。いや、正確にはその制作に携わるかどうかの審査がこれから行われるわけだが…
《案内人》
「西園寺様。到着いたしました」
《海峰》
「あ、はい。ありがとうございました」
目的地…この島の中央にあり、二次元産業の中で中心的な会社“レーゲンボーゲン”因みにこれはドイツ語で虹を表すあたり、かなりの親近感を感じる。
その会社の建物――ある種の聖堂に近い――にはいり、フロントで確認書を提出する。
《フロント》
「西園寺様ですね。お待ちしておりました。いま案内のものを呼びますので、しばらくお待ちください」
そうして再び待たされ、しばらくすると案内人Bが来た。
《案内人B》
「お待たせしました。西園寺様。どうぞ、こちらへ」
再び移動。そういえば、この島にも電気はつながっているが、その発電方法がかなり特殊だ。
…というか、この島の法則そのものが、現在の俺達人間の科学では説明できない位置にあるんだよな。例えばいま俺が乗っているエレベータ(仮)は、電気ではなく風のエーテルで動いているらしい。
エーテルというのは…まぁ、RPGをやったことがある人なら想像するであろう究極の薬ではなく、魔石と呼ばれる鉱石から無限に近い量抽出することができる一種のエネルギーらしい。
相変わらず原理はわかっていないし、この島においても、どういう原理なのかはしっかりとはわかっていないらしい。そもそも、その抽出装置も旧時代の遺品ということも考えると、解らなくても無理はないだろうしな。
《案内人B》
「では西園寺様、こちらの部屋に。入った時から面接が始まりますねで、そのことを忘れる事無きように」
《海峰》
「失礼します。この度、日本より召喚に応えました。西園寺美穂です」
…部屋に流れる微妙な空気。もしかして、今の入り方はまずかったか?
《面接官?》
「ほう…君が西園寺くんか。齢十六にして、よく我々の召喚に答えてくれたね」
向こうも乗り気のようだ。さすが二次元が一般的になっている島だけある。普通にやったら惹かれるレベルだったぞ。
《面接官?》
「まぁ、そう硬くならないでくれ。とは言っても、流石に社長の私が直々に相手となるとそうもいかないのだろうが。自己紹介が遅れたな。私はステラだ」
しかも社長(ちなみに女性である)が乗り気とは。この会社気に入った!
《海峰》
「改めて、美穂と申します。一応、見てわかるとは思いますが、男なので」
《ステラ》
「いや、流石に間違えたりはしないよ。とはいえ、初め君を見た時は正直どちらかわからなかったけどね。それはそうと、正直朝からこの面接ばっかで私も疲れているんだ。私も一応人の身だからね。君でようやく最後、と思うと気が抜けてしまってね、少々面倒くさいから、言葉を崩すが、大丈夫かい?」
《海峰》
「何一つ問題ありません」
《ステラ》
「そうか。なら助かる。で、さっそくだが、こいつを見てどう思う?」
《海峰》
「すごく…分厚いです」
《ステラ》
「よし、合格だ」
《海峰》
「テンポが良すぎて草不可避なのですがそれは…」
《ステラ》
「すまない、冗談だ。で、そいつを読んで感想を聞かせてくれ。面接内容は、その感想だ」
《海峰》
「それは面接と呼べるのでしょうかね…」
《ステラ》
「まぁ細かいことを気にしてはいけないよ。それはそうと、私の心にくるような感想を頼むよ。あ、因みにそれは我が社が新たに売り出そうとしているゲームのシナリオだ」
《海峰》
「成程。気にならせておいて後からユーザを増やそうという作戦ですね。しかしその手には乗りませんよ」
…と、冗談を交えつつ会話を終え、そのシナリオに目を落とす。
……最初の三行、というか、三回クリックしたところまで読み終えてから怒りがこみ上げてくる。
《海峰》
「えっと…失礼ながら、感想いいですか?」
《ステラ》
「もちろんだ。さて、君はこれを読んでどんな感想を描いたんだい?」
笑顔で返されたのが、さらに怒りを掻き立てられる原因につながった。
《海峰》
「では失礼して…これは一体何ですか?最初の主人公の心情を三回分読んだ時点でどう考えても日本の某柚子の第六作目の冒頭じゃないですか?確かにあれは名作でしたが、それと全く同じものをここで作るというのは正直どうかと思いますよ。それに一文字一句に至るまでに同じというのも、せめてこの島なりのアレンジを加えるとかはできないんですか?」
《ステラ》
「…それが、君の感想かね?」
《海峰》
「はい。感想という名の批判ですけどね」
《ステラ》
「フフ。なかなか面白い。それに、よくそれが君がいった作品のものだというのに気づいたな。ほかに面接を受けたものたちは、ただ褒めることしかしなかったというのに…。君はなかなか面白い。採用するよ」
《海峰》
「…わざとだったんですか?」
《ステラ》
「そうだ。ここを受ける人たちが、どれだけ二次元を愛しているかというのを図るためのテストとして、私がプレイしたことのあるゲームの中から名作と呼べるのものシナリオを使わせてもらったんだ。それが日本の有名会社が作ったものだとわかるかどうかというテストにね」
《海峰》
「成程…まぁ、そうだったとしても、少々いい気はしませんけどね。僕もこの作品はとても気に入っていますから」
《ステラ》
「ほう…参考までに、君は誰が一番可愛いと思う?私はやはり無垢な莉音にいろいろ教えてそれを実践させるというあの過程がなかなかに好みだったが」
《海峰》
「あれは…どちらかと言うと借りた漫画に影響されたわけですから教えたとは違う気もしますが…。僕は梓との人間と吸血鬼との禁断の恋物語が一番惹かれましたね」
《ステラ》
「ほう…つまり君は禁断の恋。半ば違法的なロリが好みということか」
《海峰》
「どうしてそうなるんですか…確かにロリ好きは否定できませんが」
…と、こんな感じで小一時間ばかり作品について熱く語り合った
二次元のような世界で二次元を広める話