Mr bearのひまつぶし

Mr bearのひまつぶし

プロローグ

この世は退屈で仕方がない。



数多くの偉人が見て逝ったこの世界も
所詮凡人にとってはただのおもちゃ箱だ。



面白いものは面白いものを
見る目を持つもののみが
見ることを許される。



下らないことも酷く下賤なものも
結局は見るものの色眼鏡。



存在も時間も場所も関係ない。
そういうものだと思わないか?
Mr bear・・







こんなことをいう奴がいた。



ため息が混じったような
どこか恍惚と確信するような
そんな声だった。



なるほど、そいつが
お前の目の見た世界なのか。



だが皮肉なものだ。



そんな世界を見る目が
他人にはめられたガラス玉で、



そんな言葉が最期に
友に送る言葉なのだから。

◇◆◇


外を出歩いては
木の実やら宝石やらを盗んで
それを金に換えた。


換えた金は腰の袋に下げて
毛布やシャワーを借りるのに使った。






「ちっ、熊っころが!」



まいた店主の声がすぐ近くに聞こえる。



俺は逃げ込んだ花壇の花に紛れて
息を殺し、背を低くした。




「今度見つけたら
腹の綿を引きずり出して
火にかけてやる!」






人間の考える事は
相変わらず分かり易い。



ほっと息をついた俺は
すべりやすい両手で
やっと持ったリンゴを抱え、
足音が遠ざかった方向と
逆の方向へ歩き出した。









帰る場所はない。



生まれた場所がわからないから。



どこまでも青く晴れた空のように



俺の欲しい星空を



世界は全部隠してしまう。









「2EURだ。」



「そこそこ良い形のものを
選んだ筈なんだがな」



「今はリンゴが“シュン”でな。
レートが低い。」



「ふうん」





果物屋から盗んだリンゴは
大した額にならなかった。



小銭一枚を袋に加えて踵を返す。





「・・・お、おいあんた、旅の者かい?
静かに暮らしていれば
平穏な人生なんだ。
何も遠くへ行くことはないだろう。
ここいらは人間が少ない。
どうかね、ここで暮らしては。」



換金屋の爺さんが呼び止める。



俺は手だけを振った。









カラカラなんだ。



どこへ向かっているかもわからない。



何を食うでもなく、飲むわけでもなく



ただ毛布にくるまる生活が。


感じたことのない快楽と



味わったことのない絶望と



まだまだ多くのそれらが



カラッカラに乾いていた。

Mr bearのひまつぶし

Mr bearのひまつぶし

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-25

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  1. プロローグ
  2. ◇◆◇