もしも~だったら、
「待ってください!私たちはどうなるんですか!息子も夫も存在しなくなるってどういう意味ですか!!」
「黙ってよねオバサン。アンタの夫より、有能な男が死んじゃってんだよ。これからその男を助けに行く。」
「待って!そうしたら私はどうなるの!?」
「オバサンって言ったのは無視なんだねぇ。アンタは一生独身だよぉ?よかったね!」
「そんなっ…どうして……どうしてこんなことに…!!」
「うっせぇなぁ狐野郎。どうせ結婚と金に目が眩んだだけだろうが。悪いけど、もうどうしようもないから。じゃあね~」
さぁて…どこにいるのかな?
不審者
「いや~ホント雪がやばいですねぇ」
目の前の男はこんな激寒いなかでアイスコーヒーを飲んでいる。
いきなり何の用なのだろうか。朝っぱらから日課の犬の散歩をしていたのだが、公園で休憩しているおり、この男が話しかけてきたのだ。
如何にも不審者だった。いや、恰好じゃなくて話し方が。「そこのお嬢さん」程度ならわかる。俺は男だけども。やっぱり分からないわ。
でも、こいつは「やっほぉ~そこのお兄さん!ちょっと私とコーヒー飲みに行きませんか?」だ。
出会いがしら最悪だと思った。それが先刻ほどの事。
犬を家まで連れ帰り、その俺をナンパしようとした男を公園で待たせた。待たせた。すごく待たせた。帰ってるかなとも思ったのだが、結構根性があるヤツだ。先ほどまで外にいて寒くて死んじゃうとか言ってたヤツが、一時間ほどたったらアイスコーヒー頼んでんだぜ?可笑しいだろ。頭が。
しかも砂糖めちゃくちゃ入ってるし。だったらコーヒーなんかよりもオレンジ100%頼めよとかも思ったが、きっと突っ込まれるのを期待してのことだろう。あえて俺は手出しをしなかった。つれないヤツとでも思ったに違いない。先ほどまで自分もテンパってたからな。とりあえず情報収集と分析を開始した。
背丈は160前後。黒髪。話し方はすごいチャラチャラしたヤツだけど、案外黙ってたら真面目と間違えられそうだな。俺は間違えた。
衣服は学生服。高校生だろうな。背丈的にはチビだろう。チビでチャラいとかアウトだ。青年というタイプではないので男といっておこうか。話し方からして学生じゃない。いや学生じゃなかったらただの変態か。
こんな寒い中防寒具を着けないで現れたから、寒さに強いかドMかと思ったのだが、どちらにも当てはまらないらしい。雪を甘く見た馬鹿だ。
「さっきからなぁ~にジロジロ見てんですか?」
ニヤニヤしながら突然前かがみになって来た。これは失礼を…といおうとしたがやめた。明らかにそのにやついている顔がイラッときたからだ。
―――――なんだよこの男。こっちは仕事だってあるのに…
「あぁ、お仕事の事でしたらご心配なく。コチラの方で対処してあるんで。」
「はぁ!?」
「今日はあなたはお休みにしときました。不服ですか?」
「不服もクソもあるかぁ!!何勝手なことしてくれてんだよオイ!」
「えーいいじゃないですかぁ!お仕事ぐらい一人いなくても大丈夫ですって。」
カッチーン
「よぉし…お前に社会の厳しさを教えてやろう…ちょっとこっちこいや」
「嫌ですよ。お話があるって言ってんでしょーが。聞く耳を持ちやがれってんですよぅ!」
げきオコ!っとか意味が分からない言葉を並べられて俺は押し黙った。なんなんだこの男は付き合ってられない…。さっさと要件を聞いて、そうそうにこの拉致から解放されたいと思いながら自分が頼んだコーヒーに手をだした。そう思った矢先、男から音が鳴った。曲名がヨハン・パッヘルベルのカノン ニ長調で飲みかけていたコーヒーを吹いた。何故その曲なんだ。
「うっわ!汚いですよ!」
マジ最悪ー。とか、ほざいているが、確かに今のは自分が悪かった。男は携帯を取り出すと、すぐ開いて何かを確認した。メールか何かがきたのだろうか。まぁ、俺には関係のないことだが。そう、関係ないのだ。この男がどんな着メロを流していても…。でもなんか気分は優れない。なんでだ?
男は真剣な顔で返信かなんかだろうが、携帯を打ち始めた。なんだコレ。ほったらかしか俺?いくら話かけても、どうせ返事ばかりだろうから、この男が携帯をいじるのをやめたら話しかけることした。
なかなかやめない…。携帯に熱中する十代というのは重症だな。と考えていたおり、久しぶりにその男が顔を上げた。十代に見合う笑顔だった。
「お待たせいたしました。そろそろこの店でますか。」
「ん、お前は俺に何をさせたいんだ?さっき話があるとか言ってただろ?」
「そりゃあ、ありますけど、ここでは意味ないんで実際に見てもらいながら説明しようかと。」
そういってまた雪の外へと出向く。待て待て、そろそろ出勤時間だぞ本当に大丈夫かよ…。係長ごめんなさいっ!
外に出るとまた隣の男の携帯が鳴りだした。こんどはバッハのG線上のアリアだった。携帯の着メロにクラシックの曲を使うなんて…。しかもバリエーションが濃い。いや、そんなことはどうでもいい。メールではなく電話だった。
「やれやれ。メールだったり電話だったり忙しいな…」
学生には似つかわしくないセリフだ。まるで会社員みたいな。てか、それはこちらのセリフでもあるぞ。
「誰からだ?」
減るもんじゃないし、聞いてみることにしたが、次の言葉があまりにも驚きだったので開いたた口がふさがらなかった。
「あぁ、”組織”です。失礼ですが、電話してもいいですかね?」
「べ、別にいいけどよ…」
組織……だとっ!?どういうことだ?組織ってなんだ…。なんかヤバイ系の組織か…?なぞが多すぎる…。一体俺が何をしたというのだ。
「もしもしー?はいはい、えー時間間違えたぁ?あと二十分!?ばっかじゃないの!?」
時々こいつは女々しい言葉を使う。声はまぁ、確かにまだ声は変声してないようだが…あれ?待てよ、変声期って中学ぐらいじゃね?
イライラとしながらも、電話を切り、俺に目を合わせたときにはまたもや笑顔を返してきた。
「すみません、走りましょうか。」
「はぁ?」
「僕としても不服なのですが、コチラの手違いで時間を遅く見込んでいたらしいんですよぅ!もう最低ですよ!」
語気が強い…。怒りが隠せてないなぁ…そこら辺はまだ子どもということだな。
「走るのは構わないんだが…目的地はどこなんだ?」
「えっとですね…あぁ、」
今まで忘れてたのかよ……
「あなたの所属している会社の前の信号です。」
成人を超えたおっさんが会社の前まで走るとか恥ずかしすぎるだろ。
未来から来た人
確かに会社の前までいくにはここから二十分じゃきつかった。会社は四十分で歩いていける距離だからだ。走ったことはないので、走ってどのくらいかかるかわからなかった。ましてや今日は雪の降る日、走るには絶好の日和とは言えない。この男は一体何者なのだろう。きっとそこに行けば答えてくれる。そう勝手に確信した。
走って、とりあえず走ってひたすら走ってなんとか、五分前に見慣れているところまで来た。この信号を渡れば会社である。しかし、自分はまだジャージ姿だ。双方とも息を整えた後、男が口を開いた。
「ちょっと、渡っちゃだめですよ?」
「分かった…ところでさ、お前は俺のなんなんだ?会ったことがあるのか?」
質問をすることだけしか頭で考えていなかったものだから、自然と準備されたようにその言葉が自分の口からぽんと出てきた。
「いえ、まだ会ったことはありません。でも、必ず会えます。」
「はぁ?今ここであってるじゃねぇか。」
分かってないなーっと男は呟いたきり、黙ってしまった。いや、こっちのほうが意味が分からない。
「おい、ここで何をするんだ?」
「え?言ってませんでしたっけ?」
言ってねーよ。ちゃんとした説明すらも聞いてねーよ。
「じゃあ、ちゃんと説明しますね。―――――私、未来から来たんです。」
は
「あなたを生かすためにここに来ました。」
何を言ってるんだ
「本当はあなたは今日でお亡くなりになりますが、代わりに別の人が死にますので安心してください。」
お前は何を言ってるんだ
「そろそろ、身代わりになる人が死にますんで、準備しててください。」
「…ちなみに、誰が死ぬんだ」
冗談交じりで聞いたはずなのに、
「あなたの部下さんです。毎朝ここで会ってるでしょう?」
そんなばかな。もしもそれが本当だとするとどうなるんだ。俺の代わりに部下が死ぬ?そんなことあっていいはずがない。
「なぜ…何故俺は生かされるんだ?」
「詳しくは申し上げられないんですが、今の未来はあなたが死んだことになってるんですよ。あなたの代わりに死ぬ人はほんっと無能の塊で、最近の科学で、あなたの将来価値があったわけでして、これまた最近の科学で過去に飛べるってヤツが発明されたんで、死ぬのを阻止するんです。」
「俺が今からそいつより先にこの横断歩道を渡ったらどうする?」
アンタね…男の表情が崩れた。
「人間は先のことが分かっていたら回避しようとするんですよ。だから、アンタの意思はそうかもしれないけど、土壇場になったら脳が働くようになってんだよ。」
「…なぜ俺はここで死ぬんだ?」
「路面で滑って、反対車線を走っていたトラックと衝突―――即死だってよ」
うげぇ…聞くんじゃなかった。
「まぁ、黙ってみててくださいよ。」
黙って見てろだなんて…。部下の死をまじかで見させられるなんてな…
今日、俺の代わりに死ぬ部下が俺の前を通り過ぎた。その時の俺は、そいつがやって来たらどう回避させてやろうかと考案していたので気づかなかった。パッと目を道路の方へ向けてみると、すでにそいつは路面を滑っていて、トラックへと自らを誘導している最中だった。
あまりにも衝撃的だった。
まず顔がつぶれ、顔の元だった肉片や血、眼球が飛び出し、脳みその一部がさらけ出してトラックに引っ付いた。
次に体がトラックへとぶつかり、腕が複雑骨折して普通曲がらないところが曲がって動きを止めた。足だが、着地しようとして靴がとれ、そのスピードの中靴がない状態で止まろうとしたため、黒かった靴下のかかとのほうが真っ赤に染まった。
口を覆う者、動きを止める者、悲鳴を上げる者、様々な人間性が見られた。こんな惨状の中、俺の隣の男だけがすました顔をしていた。
リアクションとしてそれは合ってないだろ、と心の隅っこの方で思ったが、目の前の出来事の恐怖で頭がいっぱいだった。
「…あなたも本当はああなるはずだったんですよ。ね?私の話、信じてくれましたか?」
信じるもなにも、酷すぎる。こんな…日常生活でリアルにこんなものを見てしまうなんて…
「…そんな……なぜ俺にこんなのを見せるんだ。俺が気づいていれば…声かけとけば…あいつの運命を回避できたのに…クソッ!」
「回避なんてできませんよぅ~」
イラっとして男の方を見た。不自然なくらいにその男は笑っていた。不気味だった。
「あのヒトと話したって無駄です。だって、本当はまだ誕生していない私がここにいるんですから!そうでしょう?あなたが私と出会ったことですでに運命は改善されてた分けですよ。全てはシナリオ通りです。よかったですね生きられて。あんな風に死にたくないでしょう?」
まるで俺に同意を覚えさせる言い分だ。そんな不安を覚えた。俺の代わりに部下が死んだ。その事実は変わらない。
そういえば、あの部下は彼女がいたんじゃ…。顔さえも見れなくなる。
「アンタがどう悔やんでも起きたことはかわらないよ?人生楽しまなきゃ損ですよぅ!」
「…答えてくれ、お前は俺の未来にどう関係があるんだ?関係があるからこんなことしたんだろ?」
「未来のお嫁さんだって言ったら納得してくれます?」
こんな状況でそんな言葉に突っ込めるほど俺は大人じゃない。救急車の忙(せわ)しないあの音が近づいてくる。誰かが呼んだのだろうが、何しろ野次馬がすでにできていて、それどころじゃない。
「嘘ですけど、私、男ですし。あなたとは関係ありません。写真ではあなたの顔は見ましたけどね。結構ユーモアのある顔ですよね!あー、あと私は組織の人間なんで、組織から命令が下ってあなたの担当になったわけですよ。まぁ、そんなお堅い話は置いといてっ!」
男がこちらに顔を向けた。俺も自然と向かい合う形となる。
「これからはこんなこと忘れて生きてってくださいよぅ!笑って仕事して、食って寝て。大体、人間は忘れるが勝ちですよ。」
「そんなの無理だ。」
「ですよねぇ~。そんなあなたにっ!じゃっじゃじゃ~ん♪」
未来から来たとかいってるくせに効果音が今風なのが笑えてきて思わず微笑んだ。男が出したのはさっきから変な着信音をしていた携帯だった。
「それでなにをするんだ?」
「何って、写真ですよぅ!はい、ポーズ」
写真を一人で撮る趣味はないのだが、彼なりに俺を元気づけようとしてくれてると考え、とりあえずニカッと笑ってピースしといた。
世界が光に包まれた。
血縁者
大の大人の男を背負っている学生服の男がいた。背負っているといっても、大人と成長途中の子供の体では背負いきれてないので、足はずっている。
寒さのため、白い息を出しながら、男はグッスリと眠っている大人の男を見た。自分の息が邪魔なかなか大人の男の顔の表情が見れない。かといって息を止めると、体力を使っている今止めてしまっては自分の命が危うくなるであろうと考え、表情を見るのを諦めた。
先ほどのことだが、学生服の男が携帯の真ん中のボタンを押した途端、シャッターとともに男性は倒れてしまった。おそらく、睡眠効果のある波でも科学で発明されたのだろう。ひざから崩れた大人の男を担ぎ、家に戻してやろうと学生服の青年は考えたのである。
「…まったく、聞いてはいたが本当にこんな人だとは思わなかった……。こんな人のどこがいいのだろうか。」
最後はため息交じりに彼は言った。
「あなたが生きている未来に今頃変わってるんだろうな…。ほんっと、ここ寒いなぁ…。……あなたの奥さん、ちゃんと幸せにしてくださいね。そして、二人で僕を産んでくれ。こんな捻くれた子じゃなく、立派な子に育ててくれ。―――父さん。」
青年は実の父の額に軽くキスをし、その場を離れた。ふと、青年は曇天の空を見上げた。すると、口をいっぱいまで広げてはははっ、と困った顔で笑った。
「いつのまに…雪はやんでたんだ?…全然気づかなかった。」
青年が携帯のとあるボタンをおすと、青年は光に包まれて、そして消えていった。
最後に男の方へ切なそうに振り返ったのは幻だったのだろうか。
FIN
もしも~だったら、
花粉症の方お疲れ様です。高梨 恋(たかなし れん)です。
どっかで雪またふらねぇかなぁ…。とか思ってたら春になって来そうなので、季節外れを狙いました。←
さて、今回いかがだったでしょうか?
いいたいこと伝わりました?
まぁ、要約すると…
母子家庭で育った捻くれた子どもが、父親を生存させよ!という命令で過去に飛んだところ、
まぁ、生存させて、眠らせて、家まで歩いて四十分かかるけど頑張って運んで、
奥さん大事にして僕を全うな人生を生かしてくれっ!って言って、あれ?雪やんでんじゃん。とか思って、
元いたところに戻っていった感じですね。ハイ。
長い文章読むのお疲れ様です。短めや詩が好みなんですが、書きたいことがあるとあれやこれやで…
ごめんなさい。勉強します。
気分を害してしまった方。申し訳ありません。
ここまでお読みいただきありがとうございました。