白衣の同級生
手術同意のサインをするか?
しかし万が一、失敗ということはないのだろうか?
子供の頃からヤンチャで怖いもの知らずだった俺だが
手術をするのは、さすがに不安だった。
「心配いりませんよ」看護師が言った。
「平崎先生は心臓外科の名医なんですよ」
紹介された白衣の医者は静かに会釈した。
ふと、医者の顔と名前が記憶のどこかに引っかかったような気がした。
そして手術当日。
手術室で麻酔注射を打たれた俺の耳元で、心臓外科医が囁いた。
「覚えてないんでしょうね? 小学校で同級生だった平崎ですよ」
なんとなく記憶が蘇ってきたが、うまく言葉にできなかった。
「苛めた側が忘れても、苛められた側はいつまでも忘れられないものなんですよ」
麻酔で意識が遠くなっていく俺の目に、
同級生の心臓外科医がマスクの下で笑っているように見えた。
(了)
白衣の同級生