染めない黒髪

大学生の青春。女たらしな俺を君が好きなわけない。

「マジで痛い…。」
「自業自得でしょ。」
左頬をさする俺に冷たくする君。
もう少し優しい言葉かけしてくれたっていいんじゃないの。
「デート二股して殴られたんだから当然よね。」
確かに悪いのは俺かもしれないけどさ。
「俺と遊びたいって言ったのは彼女たちなんだよ。二人の誘いをただ同時に受けただけの話だよ。」
俺のことばにため息をつく君。
そんな顔しないでほしい。傷付く。
「いい加減まともに女の子と付き合いなよ。同時に何人もと遊んでないでさ。」
「じゃあ君がまともに彼女やってくれる?」
「またそんなこと言う。そんなんだから女の子勘違いするんじゃん。」
と一蹴される。
このやりとり、何年やってるんだろう。
高校の時からで、もう大学生になったというのに。
君との関係はいつまでも平行線のままで。
勘違いすればいいのに。
ほかでもなく、君がしてくれればいいのに。
この願いも何度目だろう。
不器用な俺はやり方すら変えられない。
「はいはい、ごめんね。」
告白する勇気さえない駄目な男だ。

「ねぇねぇ、今度の休み私と遊びにいこうよ。」
「なにいってるの、私の約束の方が先だもん。」
いつもの日常。いつもの女の子たちの香水のにおい。
彼女たちと遊ばなくなれば、君は振り向くのか。
いや、そんな単純な話じゃないか。
君はいつだって俺を意識してくれたことはないんだから。
自分で言ってて悲しくなってきた。
結局女の子たちと一緒にいたって、考えるのは君のこと。
「あのね、俺好きな人がいるんだ。」
「うん?でも、私たちと遊べることにかわりないでしょ?」
もう、限界なのかもしれないな。君以外考えることに。
「違うんだ。今までの好きな人って意味じゃない。もう遊べないよ。」
これは、多数の女の子を振っているようなもので。
俺の勝手だと、分かっている。だから、
「俺のことは殴って忘れて?」
この一言にみんな素直だった。

「今回は死ぬかと思った…。」
「今度は何したの。」
あまりにもひどい俺の傷をみて、少し心配している君。
ちょっと嬉しくて笑ってしまった。
「笑い事じゃないでしょ。どんなひどいことしたの?」
「全員ふってきた。」
俺のことばに驚いたようだ。口があいている。
「君がまともに付き合えって言うから、彼女たちとは切ってきたよ。」
「その中に特別な一人はいなかったわけね…。」
君は半ばあきれたようで、それでも俺に冷たいタオルをあてがってくれる。
「こんなにひどく殴らなくてもいいのに…。」
君が俺の心配をしてる。
特別なのは君だよ。
こんな短いフレーズさえ、喉でつっかえる。
「情けない…」
「ん、なにが?」
情けなさに涙目になってくる。
ふいに君とは逆の方向を見る。
「ちょっと、こっち向かなきゃ冷やせないでしょ。」
「いいから、見ないで俺のこと。」
君に見せられない表情だってある。
男の泣き顔なんて恥ずかしくて。
君はため息をひとつ。そして、俺の頭を撫でる。
「優しくしないでよ、俺はなにひとつ変われないのに。」
「ほんと、何も変わらないよね。綺麗な黒髪もそのまんま。」
俺は驚いて君を見る。
君は俺の頭を撫でながら言う。
「染めちゃうと思ってたからさ、大学入ったら。黒髪のままなんてあまりいないじゃない?」
俺は何も言えずに黙っている。
「何もかも変わっちゃってさ、もう私のところには来ないと思ってたら、毎日のように傷作っては私のところに来てさ。」
「君が…綺麗だって言ったから。」
君が俺の黒い髪を誉めたから、染めるわけないじゃないか。
「君が…悲しくなったら来いって言ったから。」
君が泣いてる俺に話しかけてそう言ったんじゃないか。
「なにそれ、全部私が言ったからしてるの?」
「好きだから、俺が君を。」
言ってしまってから、しまったと思った。
こんな情けない告白してしまうなんて。
赤面しながら、青ざめる。
だけど、君は暖かい手をそのまま俺の頭に乗せててくれて。
「染めないでね、髪。」
君は笑った。

染めない黒髪

かなりへたれな男の子が出来上がりました。でも、こういう男の子も男前な彼女がいれば大丈夫な気がします。

染めない黒髪

君の言葉で俺を縛って。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-22

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