おしっこ王子とうんこ大王(4)

四 おやつ

 僕は、授業が終わると、自宅に帰った。不思議なことに、あんなに抵抗できなかった眠気はふっとび、今は、頭は冴え、体は動きたくてうずうずしている。玄関前の植栽の中にぶら下げているカギを取り出すと、家の中に入った。靴を脱ぐと、ボンと玄関の扉に靴が当たる音がした。その音に気づいて、逆ハの字に散らばった運動靴を、いつでも履きやすいように平行に並べた。
 その後、リビングルームに入る。部屋の中には、誰もいない。でも、出迎えはある。テーブルの上のじゃがいものスナック菓子だ。ランドセルと制服のまま、手を伸ばす。ぐうとお腹が鳴る。袋を破れと命令している。僕の耳には、いつも同じように聞こえるが、本当は、その都度、違った問い掛けなんだろう。ぐうにも、いろんなぐうがあるんだ。僕は袋を手にとった。だが、手を洗ってないこと、うがいをしていないことに気づく。また、ぐうと鳴る。さっさとしろということか。お腹の命令には素直に従おう。こういうときは、利害が一致している。
 全てが整い、やっとおやつの時間。麦茶を冷蔵庫から取り出し、ガラスコップに注ぐ。コップは、僕の顔を映しながら、見る見るうちに透明なうす茶色に変わる。見ているだけで、涼しくなる。やっぱり麦茶が最高だ。でも、コーラもオレンジジュースもグレープジュースも大好きだ。テーブルの上に置きっぱなしにしてあった、まだ読み切れていない大好きなコミックマンガを片手に、ソファーに寝転びながら、スナック菓子を食べる。お父さんやお母さんに行儀が悪いと叱られるけれど、こればっかりはやめられない。
 お父さんだって、仕事から帰ってくると、缶ビールを片手に、ピーナツを齧りながら、新聞をテーブルの上に広げ、テレビのニュースを見ている。器用三昧、四昧だ。これこそ、大人の特権。僕だって、将来、大人になるための修行を今からしているだけのことだ。鉄は早いうちに打てと言うじゃないか。学校で教わることだけが勉強ではない。家庭での生活も含めて、生きることすべてが勉強なんだ。僕は、いつも自分にそう言い聞かせている。

「大王、王子。今、先ほど、口から伝達がありました。食べ物が入ってくるそうです」
 見張りに立っていた家来からの報告だ。
「うううううん」
「しししししん」
 まどろみの時間から目覚めたうんこ大王とおしっこ王子、その家来たち。
「皆ども、起きろ、起きろ。昼寝の時間は終わりだ。仕事だ、仕事だ。三時のおやつだ。おやつだから、量はたいしたことはないはずだ。わしたちも、眠りから覚め、ちょうど小腹が空いたところだ。さあ、働くぞ、働くぞ」
「おー」
 敵は、ポテトチップスに麦茶。固体班とリキッド班に分かれ、てきぱきと栄養素を選別し、吸収していく。みんなでかかれば、仕事は早い。お腹工場はフル稼働。
「追加はないか。これだけか」
「もう、ありません」
「よし、これだけなら、あっと言う間だ。もうすぐしたら、夕食だ。もっと大量の食べ物が運ばれてくるぞ。栄養満点のパレードに出会えるぞ。それまでに、さっさと仕事を終わらせてしまおう」
「おうー」
 固体班は、かなづちとシャベル。リキッド班は、ホースを持ち、次々とポテトチップスや麦茶の栄養素を吸収し、老廃物を放り捨てていった。

「いけない。もう、時間だ」
 時計を見ると午後五時に十分前。今日は、英語の塾がある。鞄をかかえ、玄関を出る。自転車に飛び乗り、目的地に向かう。先生は、アメリカ人。矢継ぎ早に、英語で質問が飛んでくる。刀でなぎ払うように、解答しないといけない。頭の中をフル稼働するためには、エネルギーが百パーセント必要だ。僕は、お腹を叩いて、先ほど食べたスナック菓子と麦茶の栄養素を頭によろしくとお願いする。その思いは自転車のペダルにまで届いたのか、カランカランと勢いよく回った。

おしっこ王子とうんこ大王(4)

おしっこ王子とうんこ大王(4)

四 おやつ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-21

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