梅香の縁
朝霜の
残りし庭の片隅に
三分咲きたる紅梅の
馥郁たる香りして
漂う縁に軒影の
消えにし頃に
閉ざされし
固き雨戸の つと開きて
歩み出でにしそのひとの
錦の衣に掛かりしは
きり揃えたる黒髪の
流れにしるき 櫛のあと
顔隠したる袖振りて
代わりに翳せし白き手で
陽を遮りて庭先の
眺むる梅にほころびの
気品に満ちた微笑を
浮かべしまさにそのひとは
世にも絶えなる麗人の
縁に立ちたる姿なり
垣間より
見る人ぞなき暁も
過ぎ 陽はすでに空高く
目白囀る小春日の
枝を揺すりて呼ぶ声に
開けんとすれば依る人の
文書く墨の漂いて
締める障子の隙間より
窺う花の風情にも
誉も高き才のほど
兼ね備えたるひとにこそ
あるべきことぞと偲ばるる
やがて奏でし筝の音は
初鶯の声に和し
いとも妙なる余韻をば
残して淡き春の空
やがて咲かんや桜木の
夢や醒めんと響くなり
夢や醒めんと響くなり
梅香の縁