ポイズン・ワールド

プロローグ、毒

おかしい、さっきまで学校から帰宅途中だったはずなのに変に入り組んだ道に迷い込んでしまっている、ような気がする。
これ以上奥に行くのはさすがにまずいと思い引き返そうと元来た道を戻ろうとすると、目の前は大きな壁、そしてドアがある。
「なんだこれ?」
何も気にもせずに扉を開けてしまった。そこから1秒ほど一瞬であるが意識を失ってしまったのか、よくわからない部屋に閉じ込められていた。
中は真っ黒な部屋になっていた。さっき入るときに見た扉とは違う、別の扉があって、先に進めるようになっている。僕以外には何もないし誰もいない。
「なんなんだ、ここ……。」
辺りを探ってみるがやはり何もない。辺り一面黒いだけ、なんだかよくわからない部屋だった。さっきまでの扉もなくなってしまっていた。
しかも遠くから、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリと骨を削るような嫌な音が聞こえた。耳をふさいでも聞こえてくる。
どこから響いているのかはわからないが、でも確実に撲に近づいているのはわかっていた
ガリガリと近づいている音に本能とでもいえばいいのだろうか?まずい、と直感して全力でその音から逃げようとした。扉をあけて全力疾走。逃げて逃げて、しばらく走っているとまたもや大きな壁に邪魔されてしまった。
大きな壁だ。とてもじゃないが登れやしないし、壊せそうもない。
音はどんどん近づいてくる。止まる気配もない。すると音がやんだ。しばらくの無音状態が続いた後、ほっと一安心した、その一瞬のすきを狙ったのだろうか?どごんっ!と後ろの壁がいきなり崩壊した。音にびっくりして後ろを振り向けば、骨だった。
全身が紫の人の骨、というか骸骨。顎をカタカタと鳴らして、俺を見つめている。音の正体はこいつだったのだろうか?
あわてて逃げ出そうと走り出した瞬間、骸骨に腕をつかまれた。若干黒が入ったような濃いめの紫、引き留める腕の力は僕の予想よりはるかに強く、引き込まれるように壁側へと連れていかれてく。
「なんだこいつっ……!」
あがこうにも、どうすることもできない。暴れてみても骸骨は手を放す気はないらしい。どんどん壁側に引き寄せられていく。壊された壁の向こう側も暗闇で紫色の骸骨以外、何も見えない。しかし不思議と恐怖は感じなかった。ただ訳も分からず連れて行かれるのが納得いかない。踏ん張っても、引っ張っても壁側にどんどん引っ張られていく。もう無理だ。あと数メートルしかない。
「くそっ!くそっ!くそっ……て、あれ?」
目の前は家だった。何が起きたかよくわからない。確か訳の分からない部屋に入って、音から逃げて、それから……。なんだったか?何か忘れているような気もしたが気にしてもしょうがない。なんにせよ帰ってこれたのだから、それでいいか。
さて、さっさと家に入ってしまおう。ドアノブに手をかけた時だった。右手に違和感を感じた。自分にとって些細なものだと思ったがよく見ると、手首のあたりが紫色に変色している。というかグズグズに腐っているようにも見えた。
「な、なんだよこれ!?腐ってる?」
しかし腐っているわけではなさそうだ。別にその部分の肉が溶けているわけでも崩れているわけでもない。触ってみてもいたって普通の感覚だった。
「はぁ、くそ、なんなんだよ……」
今日はそのまま飯食って、テレビ見てふて寝した。手が変になっていたことは誰にも言わなかった。いや、言えなかった、といった方が正しかったのかもしれない。明日になれば戻っていると信じて、俺はそのまま眠りについた。

浸食

朝、いつも通りに起きるとぎょっとした。昨日右手についていた痣のようなものが広がり手の甲まで浸食していた。
まさか急にここまで広がるとは…自分の手の甲をまじまじと見つめるが特に変化はない。痛みもないし触った感じも変なところはない。この痣がなんなのかあの紫色の髑髏に捕まった時にできた痣、ぐらいの認識しかない。だがさすがにここまで酷くなると心配になってしまう。とりあえずは病院に行くに越したことはないだろう。とっとと学校に行く準備しないと遅れる可能性がある。朝のパンと牛乳を胃袋に詰め込み、念には念を入れて右手には黒い皮手袋をつけて、ダッシュでバス停へと向かう。
その途中でとてもおかしなものを見つけた。一瞬自分の目を疑ったが、あれが人だと認識するまでに結構な時間をかけてしまった。それと同時に走っていた足も徐々にスピードを緩めていく。自然と正体不明の誰かの一歩手前ほどで止まった。驚いて止まってしまったものの、別にこいつに声をかける必要はないわけで、無視して通り過ぎよう。それが一番だ。
「きみぃ、こんなところで丸くなっている幼気な少女を見ないふりか。悪魔のような人間だなぁー」
丸くなったままの体勢で俺に何か文句を言っているようだったが気にせず前進する。
「おいおい、ほんとに置いてくのかーい。これこれ止まれよー」
鬱陶しさ全開の変なものは丸くなった体勢から日本足を器用に使ってこちらに接近しつつ話しかけてくる。
「私はなーおなかが減ってるんだ。なんかないかな?」
ひたすら無視を決め込み歩いていく。もうすぐバス停だ。
「おっともうすぐバス停だね。君の制服の裾をつかんでこのあたり一帯に聞こえるぐらいの声で盛大な駄々をこねれば君も聞く耳持ってくれるかな?」
ちょうどバス停についた辺りでアホみたいなことを言い出した。
「なんて恐ろしいこと言い出すんだよ!」
思わずツッコんでしまった。というかすでに裾つかんで準備万端じゃねーか、何者なんだこいつ。本当に実行しようとしてたのか?
「おっと、紹介が遅れたね。私は黒福(くろふく)(みそぎ)という。ただの美少女だ。よろしくねキラッ☆」
急によろしくもくそもない自己紹介をされた。しかも語尾にイラッとワードまでついてるというお得セール付きだ。全くお得じゃないな。むしろ損すぎる。
「君の名前を教えてくれてもいいんだぞ?ほれほれいってみなされ」
一方的な会話になっているような気がする。これ以上かかわられても面倒くさいな…名前だけ言ってさっさと離れることにした。
天宮(てんぐう)だ。これでいいか?」
そっけなく名前を告げてこいつからさっさと離れよう。まだバスが来るまでの時間はある。どっかのコンビニで時間でもつぶそうか、と考えていたら
「いやいや、よくないだろう?下の名前も言うのが礼儀ってもんだと思うんだが?」
ついてきた。しかもフルネームじゃなきゃだめらしい。
「はぁ……。道弥(みちひさ)だ。」
「ほほう、2つ合わせて天宮(てんぐう)道弥(みちひさ)。ふむ、ところで食べ物持ってない?」
バスが来るまでの間、ひたすら食べ物をねだられ、ついには1200円分の出費をした。はぁいいことねぇな…。

ポイズン・ワールド

ポイズン・ワールド

夢伝説、紫色の骸骨に追っかけられて捕まると、一生いいことなくなるんだって、でもねそれには理由があって、捕まった人はすごい力が手に入るんだって。しかも手に紫色のあざがつくらしいよ。変な犯罪も起きてるし、本当にあるかもね。こーゆーの。 一つの噂話。それが少年の運命を変える何かになってしまった。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-21

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