裸の王様の国

裸の王様の国

「係長、なぜC社なんですか?」
 牧原麗子が俺を追いかけて聞いてきた。
「会社の損失が大きくなるだけですよ」
「わかってる。が、もう決定した事だ」
 苦い気持ちで俺は応えた。
「又常務の一声ですか?」
「そうだ」
 彼女の主張は当然だが立場上そうもいえない。
 会長の息子で次期社長の常務に
 反対できる人間はこの会社にはいない。

「係長には失望です」
「何?」俺はムッとした。
「睨まれても怖くないですよ」牧原は平然としていた。
「本当に怖いのは言うべき事を言わない社員と、それを当たり前だと考えるこの会社の風土です」

 翌日、牧原は「裸の王様の国の住人にはなりたくない」といって辞表を提出した。

 それから十年の月日が流れ、会社が倒産した時、
 俺は彼女の言葉を思い出していた。
(了)

裸の王様の国

裸の王様の国

「係長には失望しました」牧原麗子は言った。 「何?」俺はムッとして睨みつけた。 「睨まれても怖くないですよ」牧原は平然と~。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-20

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