裸の王様の国
「係長、なぜC社なんですか?」
牧原麗子が俺を追いかけて聞いてきた。
「会社の損失が大きくなるだけですよ」
「わかってる。が、もう決定した事だ」
苦い気持ちで俺は応えた。
「又常務の一声ですか?」
「そうだ」
彼女の主張は当然だが立場上そうもいえない。
会長の息子で次期社長の常務に
反対できる人間はこの会社にはいない。
「係長には失望です」
「何?」俺はムッとした。
「睨まれても怖くないですよ」牧原は平然としていた。
「本当に怖いのは言うべき事を言わない社員と、それを当たり前だと考えるこの会社の風土です」
翌日、牧原は「裸の王様の国の住人にはなりたくない」といって辞表を提出した。
それから十年の月日が流れ、会社が倒産した時、
俺は彼女の言葉を思い出していた。
(了)
裸の王様の国