離れていても
「ああ、受かった」
「そ…そっか、よかったね」
「水澤…?」
きっと顔に出てたと思う
「失礼だけど受かってるって思わなくて
なんか変な感じ!」
気持ちを悟られないように
意地悪く笑ってみせた
榊と離れることになるなんて…
ほんと変な感じ…
珍しく彼から会いたいって言ってきたから
彼にとっていい話があるんだろうと
薄々感づいてはいたけど
滑り止めの地元の私立大学には既に受かっていて
地方の大学に受からなければ
そこに通うことになるって聞いていた
合否を尋ねたとき
受かってなければいいのにって
心のどこかで願っていたと思う
榊が必死に頑張って受かったんだから
おめでとうって言わなきゃいけないのに
彼も私が喜んでくれると思ったから
会いたいって言ってくれたはずなのに
私はどうしてこんなに
自分勝手なんだろう
「ちょっと寂しいかな、みんなと会えなくなるから…」
「毎日家に電話してたりして」
「いや、さすがに毎日はないわ」
こうやって他愛もない会話をして笑っていることが
当たり前だと思っていたけど
これから後、どのくらい会えるんだろう…
―――――――――――――――
「今日は、水澤が来てくれてよかった」
「他に来てくれる人いないもんね!」
「いや、親は仕事だから…
わざわざ休んでもらうのもあれだし…」
ロマンチックなムードを期待してたのに…
結局、俺と水澤の関係は…
何もないまま終わってしまうのだろうか
大学に合格したら告白しよう
って決めてたのに
だって離れちゃうから
仕方ないよな…
でも…水澤が俺のこと
どう思ってるか知りたいな…
二人で映画を観たり
遊園地に行ったり
そして観覧車に乗ったり…
俺は恋人同士のようでドキドキしてたけど
水澤は…
「どうしたの?
思いつめた表情して
ホームシック?」
そう言って、いたずらっぽく笑う
「ち…違うよ」
俺はずっと
からかわれていただけだったんだろうか
「あ、もうすぐ飛行機が…」
「なんか実感沸かないわ…
知ってる人が周りに誰もいなくなるなんて…
俺ちゃんとやって…」
言いかけて振り向くと
彼女は俯いていて
「水澤…?」
すすり泣く声が聞こえて
俺はドキっとした
「九州の大学なんて受からなきゃよかったのに
地元の私立でよかったのに…」
「いや…でも
国公立の方がいいみたいなこと親に言われたし
俺ん家そんな裕福じゃないし…」
「もう…
会えないかもね…」
「そうかな…
長い休みがあるときは一旦帰ってくるつもりだけど」
「その時…
水澤の都合が良ければ
また会ってくれる…?」
「何も予定が入ってなければ…ね」
やっと、あのいたずらっぽい笑顔に戻った
「そっか…
水澤はモテるから
他の男との約束でいっぱいかもな…」
「さぁ、どうかな〜」
「水澤…
俺のこと、待っててはくれない?」
「え…?」
「その…
他の男と付き合わないで
俺の帰りを待っててくれないかなって思って…」
「でも…」
「私たち別に
付き合ってるわけでもないのに…」
「そうだけど…」
やっぱり…ちゃんと言わなきゃダメだよな
「俺は」
「ずっと水澤のこと…
好きだから…」
「待っててもらえない…?」
彼女は応えてくれるだろうか
「そんなこと言って
九州で彼女作ってたりしてね」
「俺は水澤以上の人はいないと思う」
「…てか、俺モテるように見える?」
「顔かっこいいし…
背は低いけど」
「うっ」
ったく、こいつは…一言余計だ
「信じていいの…?」
「うん…」
「じゃあ…」
いきなり彼女の顔が俺のすぐ目の前に迫った
顔から火が出るほど恥ずかしくて
え…?いいの…?
その分期待も大きくて
「…ぎゅってして」
「え…あ…
うん…」
もっとすごいことを想像していたから
少し裏切られた気分になったけど
それでも心地よくて十分幸せで
「私…信じて待ってる…」
「うん…」
彼女の顔を間近でじっと見つめた
この目に焼きつけておきたい
彼女は戸惑い、頬を紅潮させた
そんな顔をされると―――
「またな…」
振り返らずに出発ロビーに向かった
彼女の表情は気になったけど
見てしまうと
いつまでたっても旅立てない気がして
彼女の唇を奪った
期待させた仕返し
離れていても