青い鳥
昔々あるところに、たくさんの鳥が集まる、とても住み心地の良い森がありました。
森の真ん中にはきれいな湖があって、鳥たちはいつも、そこに水を飲みに来ます。
ハト、スズメ、タカ、ツバメ。
いろんな種類の鳥たちは、今日もみんなで仲良く並んで、湖で水を飲んだり、水遊びをして遊んだりしていました。
ところがある日、そこに一羽の奇妙な鳥がやってきました。
ツバメくらいの大きさで、体の割に羽が大きくて、長くて細い変な尾羽を持っていて、そして何より、全身が湖よりも濃い青色をしていたのです。
森のみんなは、変な色をしたその鳥に興味津々。
ぴちち、ぴちち、と瞬く間に噂になって、その日のうちには森中のみんなが青い鳥のことを知っていました。
「どこから来たのかな?」
「なんていう鳥なの?」
「オスかな、メスかな?」
「何を食べているの?」
森中のみんなが、青い鳥を見つけるたびに、いろんな質問を何度も何度も繰り返しました。
初めのうちはそれに答えていた青い鳥ですが、違う鳥たちが何度も同じ質問ばかりをしてくるので、その内だんだん飽きてきて、ああ、とか、うん、とか、簡単な受け答えしかしなくなりました。
すると、森中のみんなも青い鳥に興味がなくなってきて、だんだん誰も質問をしてこなくなりました。
はじめのうちは、青い鳥も別に何とも思っていませんでしたが、そのうち、なんだか寂しくなってきました。
青い鳥は一人ぼっちでしたが、他のみんなには、同じ種類の鳥の仲間たちがいて、いつも楽しそうにおしゃべりしているからです。
「どこかに、ぼくと同じ羽の鳥はいないのかなぁ」
スズメは茶色、ハトは灰色、ツバメは黒。
森の中には、いろんな色をした鳥たちがいます。
それなのに、彼と同じ青い羽を持った鳥は、どこを探してもいませんでした。
青い鳥は毎日毎日、森のどこかに、自分と同じ色をした鳥がいないかどうか、探して回りました。
ある時、青い鳥は森の一番深いところで、雪のように真っ白な色をした、大きなフクロウを見つけました。
青い鳥と同じ青色ではありませんが、他の鳥とは全然違う、とてもきれいな色をしていました。
「フクロウさん、フクロウさん。雪のように白いフクロウのおじいさん」
青い鳥は、目を閉じているフクロウに、勇気を出して話しかけました。
すると、白いフクロウは閉じていた目をゆっくりと開いて、きれいな金色をした大きくてまん丸い両目で、青い鳥をじっと見つめました。
「ぼくのような色をした仲間を、知りませんか?」
青い鳥が訊くと、白いフクロウはゆっくりと、ぱちり、ぱちりと瞬きをして、そうしてしばらく経ってから、静かにこう、言いました。
「どうして、同じ色の仲間が欲しいのかい?」
「だって、こんな青い羽をしているのは、ぼくだけなんです。
ぼくも、スズメさんやハトさんみたいに、同じ色をした仲間が欲しいんです」
青い鳥が答えると、白いフクロウはまた、ぱちりぱちりと瞬きをしてから、ずんぐりむっくりの白い頭を、くくく、とゆっくり傾けて、青い鳥に優しく訊ねました。
「同じ色の羽をしていないと、仲間にはなれないのかい?」
「えっ……」
青い鳥は、答えられません。
「この森には、いろんな鳥たちがいる。
ハトに、スズメに、ツバメに、タカに、……。
みんな、確かに同じ色の羽をした仲間はいるけれど、でも同じ色をしていなくても、ちゃんと仲良くしているよ?」
「で、でも、ぼくだけ、仲間外れにされて……」
だって、青い鳥と同じ色をした鳥なんて、この森のどこにもいないのだから。
フクロウのおじいさんは、傾けたままの頭を、くくく、とゆっくり持ち上げて、今度は反対側にまで傾けて、言いました。
「本当に、仲間外れにされたのかな?」
フクロウのおじいさんの言葉に、青い鳥は森の皆が自分に話しかけてきたことを、思い出しました。
みんなは、青い鳥と仲良くしようと、色々聞きに来てくれました。
でも、みんなと仲良くしようとしなかったのは、青い鳥の方だったのです。
「心当たりがあるのなら、もう一度みんなのところに行って、ちゃんと話してみてごらん。
きっとみんな、君と仲良くしたがっているよ」
けれど、白いフクロウのおじいさんがそう言うと、青い鳥は首を横に振りました。
「ダメだよ。
だって、ほら。
ぼくの羽はこんな変な色をしているんだ。
きっとみんな、すぐに気味が悪くなって、ぼくに近づかなくなるよ」
実は、青い鳥がここの森にやってきたのには、前の森でみんなが青い鳥の羽の色を気味悪がったからなのでした。
すると、白いフクロウのおじいさんは、ぐるんと傾けていた頭を持ち上げて、頭の上よりももっともっと高いところを、指さしました。
「それじゃあ、空を見てごらん」
森の奥は樹がたくさん生い茂っていて暗いのに、なぜかそこだけは、まるでフクロウと青い鳥の為に避けてくれているかのように、葉っぱが生い茂っていませんでした。
そしてそこから、ずっとずっと遠くまで鮮やかに澄み渡った、青い空が覗いています。
「君の羽は、あの空と同じ色をしているじゃないか。
それでもまだ、その羽の色を、気味が悪くて変な色だと思うかい?」
「ううん」
青い鳥は、ゆっくりと、けれどたしかに、首を横に振りました。
「それじゃあ、もう君は大丈夫。
勇気を出して、他の鳥たちに話しかけてみてごらん。
勇気が出ないときには、ほら、上を見上げてみるといい。
君と同じ色をした青空が、いつでも君を励ましてくれるよ」
青い鳥は、すぐさま他の鳥たちのところで飛んでいきました。
青い空の彼方へと飛んでいくその姿を見送りながら、白いフクロウのおじいさんは、ゆっくりと、目を閉じました。
「幸せを運んでくれる青い鳥だって、幸せを求めるときはあるのさ」
誰に向けたかわからない、意味のよくわからない独り言を呟いて、そのまま眠ってしまいました。
その後、鮮やかな青色の羽の鳥が他の鳥たちと仲良く水遊びをしている姿が、よく見かけられるようになりました。
けれど、青い鳥がどれだけ探しても、あの雪のように白いフクロウのおじいさんは、見つけられませんでした。
だけど青い鳥は、今日もみんなと楽しく遊びながら、時々、自分と同じ色をした青い空を、静かに見上げているのでした。
青い鳥