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四十九






 『お庭へようこそ!』と訳して読んだアーチ型の入り口は春の蝶々を誘うようで,頭の文字のあたりではお出掛けしたばかりのご婦人のような様子の三羽がそわそわと重なり合う。浮遊は,そこをくぐり抜けるかどうするかを楽しげに決めあぐねている。特徴は,白い羽の黒い斑点だった。それには見覚えがあるように思って,肩から提げている布製のバッグのマジックテープをペリッと剥がして,無地で硬い方眼紙と隣り合ってたルーペを取り出して覗く。さっきまで見ていた蝶々は,それで見えない。拡大されているのはルーペを持つ手のすぐそこ,握っているリードの先にいるアイリッシュ・コーギーが整えられた毛並みをぱたぱたと乱して,遊んでいる路面の上の空になるだろうから。じっと見て,手繰ったリードをピンと張る,コーギーが数枚の銀貨を音に変えた。それはソフトクリームにしたかった,角を曲がった行き道。ベンチに座っていたお姉さんが髪を直して座っていた。ジャケットを着直すお爺さんに,整えられたお髭も生えていた。
 高い生垣の間を通る,ここの石畳は公園にも通じて雨が点々として色を変える。
 箱の中に入れて持ち歩いている,太腿の上のバッグの常備品として缶の筆箱と鉛筆は芯を減らしてスケッチを終えた後で,一本,いや二本貸したのだった。見晴らしのいい公園の入り口に,接する道路のところに停めた,車の前の部分を開けて何かを直していた,のであろう一人の人と車の後ろ,あとでボンネットと知ったそこに座って欠伸をしていた猫の一匹が流れるラジオと,そこに居た。
「お,丁度良かった,そこの君,鉛筆持ってない?」
  顔を上げたタイミングで,ジャケットを脱いだ後なのだろう袖をまくったシャツの姿でその人にバッグの中で筆箱を開けて,取り出した一本の鉛筆を貸した。メモか何かを取るためだろうと思ったし,実際に車の後ろで猫と遊んでいる間に携帯電話をもって車内で何処かに電話して,ささっと何かをメモしていた。修理を呼んだのだと思った。あるいは修理の方法を,それに詳しい人から聞いたのだとも思った。
 でも結局その人は,鉛筆を二本借りたのだった。
 背中を撫でた猫は随分とのんびりとしていた。その人も同じように見えていた,せかせかもしていたかもしれないけれど。ラジオから流れる一曲ごとにあるタイトルを言って,それに聴き入ってから直した。
 無事に動いて走っていく,運転席から出された手には何もなかったのも覚えてる。
 街灯に途切れていたナンバーには,もしかすると『0』が多かったのかもしれないしそれはすぐに遠く小さくなっていった,白い板の,黒い数字。ひらひらと舞うなんて言わないぐらいの真っ直ぐな運転には助手席との間に伸びる,シルエットの猫もこちらをみていたのかもしれない。古い車の,ボロンボロンという走り。目立つようで聞き慣れていく。もう見えないところで,取り出したルーペの景色はこの時も変わらなかったはずだった。
「00*,あるいは2?」
 訳して読んだ目の前のアーチ型の入り口は白い羽根の蝶々のほかに,シャっと抜ける自転車のお兄さんもくぐらせた。鞄を持って,こちらは背負って,軽快に駆け抜ける。ここの石畳は公園に続いているのだ。
 コーギーは引っ張る。手繰ったリードをピンとさせて,バッグに仕舞ったルーペと銀貨の音が聞こえる。それはソフトクリームにしたかった,角を曲がった行き道。ベンチに座っていたお姉さんが髪を直して座っていた。ジャケットを着直すお爺さんに,整えられたお髭も生えて,そこは公園の続く石畳。そこに接した道路の前でジャケットを着直す人と,猫は後ろで待っている。


 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-19

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