隠れスパイ春夏秋冬

序章~はじまり~


地味なサラリーマン。超天然の中学生。有能な医者。人気アイドル。

並べてみると、全然違うように見えるかもしれないけど、僕らには共通点がある。
それは・・・
秘密組織「MYSTERY WORLD」に所属する「隠れスパイ」だということ。

僕たちスパイは、平和と幸せを守るためならば死も惜しまない。

・・・というのは言い過ぎだが、僕たちは誰にも気づかれないように
この世の悪を排除するために、日々闘い続けるのだ。

それが、僕たちの使命。

それが、僕たちの役目。

僕らの「ひみつ」

6時になった。すっかり日は短くなって、外はもう真っ暗になっている。
僕はすっかりボロボロになった革カバンの中に、今日のプレゼンの資料や、
相手の会社から貰ったパンフレットを無理やり詰め込んで、チャックを閉めた。
「森下君」
ふと顔を上げると、そこには課長が腕を組んで立っていた。
「はい、なんでしょう」
「今日、私のおごりで皆と飲みに行くんだけど、森下君も来ない?」
「私のおごり」という言葉に流されそうになったが、僕は首を振った。なんて言ったって、
今日は行かなきゃならない場所があるから。
「すみません、今日は早く帰ります。また今度お願いします」
一瞬、課長が僕をにらんだ気がしたが、面倒くさいので無視しておこう。とにかく早く行かないと間に合わない。
僕は課長に一礼すると、足早に会社を出た。
時計を見る。長い針は15を差していた。小走りすると、冬らしい冷たい空気がなおさら体を直撃してくる。
僕の勤める会社から20分位のところにある雑居ビル風の建物。ここが僕たちのアジトだ。
人通りの少ない路地裏にあるせいか、それとも相当ボロボロだからか分からないが、
ビルはしょんぼりと立っていた。
「あっ、ハルミチ」
制服姿のすらっとした少女が、走りながら僕に向かって手を振ってきた。
紅潮している頬が林檎みたいな彼女は、僕と同じ「秘密」を持っている田染ナツバ。
「まだ始まってないよね?早く行こう」
ナツバはとっとと地下につながる階段を降りていく。僕も彼女に続いて階段を駆け下りた。
重いドアを開ける。室内には、薬品のにおいが立ち込めていた。
「おお、ハルミチか。ごめんごめん、今片付けるから」
アキヒコがにこっと笑いながら、着過ぎてくたびれた白衣をひるがえし、散らかっている薬品を片付け始めた。
地味なサラリーマンの僕とは大違いで、アキヒコは大きな大学病院に勤める有能な医者だ。
でも、彼だって僕たちと同じ秘密を持っている。
「あ、そうそう。今日撮影があるからフユキ来れないって」
ナツバが携帯を見ながら言った。
フユキは人気俳優で、いわゆるVIPだが、そんな彼だって秘密を抱えている。

その秘密とは、秘密組織MYSTERY WORLDに所属する「隠れスパイ」だということ。

友達にも、同僚にも、家族にも、そして大切な人にもけして知られてはいけない。
世の中の悪を退治するために命をかける、きっと世界一地味で、世界一正義の味方に近いだろう。
だからこそ、僕たちはスパイであることに誇りを持っているのだと思う。
「さあ、今回の潜入はこれだ」
アキヒコが潜入企画書を空気の中にばら撒いた。

僕らの新しい挑戦が、また始まった。

隠れスパイ春夏秋冬

隠れスパイ春夏秋冬

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-11-02

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  1. 序章~はじまり~
  2. 僕らの「ひみつ」