平坂日景の部活動録

『漫画読み』平坂日景

ところで。
俺は漫画や小説を読んでいつも思うことがある。
それは、ある意味一般的で、疑問に思う価値などこれっぽっちも存在しないけど。
それでも、俺はやはり疑問に思ってしまう。
当然、フィクションとノンフィクションの境くらい解ってはいる。
それでも、疑問が。釈然としない、どうも腑におちない疑問があるのだ。
例えば、俺は平坂日景(ひらさかひかげ)という名前で、そこそこ真面目に勉強もしていて、漫画や小説を一気に全巻買って読み漁るという趣味を持っている高校二年生。
要するに学生だ。
そういう設定はフィクションでもノンフィクションでもよくあると思う。
現実に学生はたくさん居るし、どんな小説でも学生はよく出てくる。
王道的なファンタジーでも、ふわふわしたラブコメでも、ちょっとブラックな物語でも。
学生はたくさん居る。
だが、この中に学生の本分を果たしている学生はどれほどいるのだろうか。
描写してもつまらないというのは解かる。
特に主軸に関係がないというのも解ってはいる。
それでも。

こいつら、全然勉強してないじゃん。

裏でこっそりやっているのだろうか。
例えば有名な少年誌でやっていた、死神のノートがでてくるあの漫画。
案外そういうものなのかもしれないが、主人公は授業中に外を眺めているような人物だったのに、東大を受かっている。
心理戦の漫画ですらそうなのに、バトル漫画なんて言わずもがなだ。

まあ、勉強シーンなんて無くてもおもしろいからいいのだけども。
省いちゃっていいことなのかもしれないけど。
学生である以上は勉強しなければいけないと思うんだ。
勉強していない学生は、不学生だと思うんだ。
部活動もいいけど、学ぶことが一番大事なんじゃないかなと思―――

「―――平坂、問題14番の括弧1の答えを――」

「……ッ!?」
先生の低い声によって意識が表に出される。

慌てて教科書を出し、黒板に書いてあるページ数を確認。

趣味から身に着けた技能でそのページを一回で開く。

14番の位置に手を当て、約3行の問題を脳内で完全に把握する。

その間わずか1秒。

ゆっくりと席を立ちあがる動作の途中に、把握した問題を解く。

面倒な途中式を省いて。
目が回るような暗算を。
指を見ながら解く。

「…えーっと、α/ℓⅹです」

「ん、正解だ。どうしてこうなるか――――」
ふぅ。と軽い溜め息をついて、席に着いた。
と同時に、一つ理解したことがあった。

なるほど。

フィクションもノンフィクションも同じようなものなのか。

『電脳遊戯者』 朝霧一途

「日隠之介~、帰ろうぜ~」
「誰だよそれ」

放課後。
入学式が先週に終わり、一番後輩から、一つ先輩になった、桜散る季節。
俺を変な名前で呼んでくるコイツの名前は朝霧一途(あさぎりいちず)だ。
恋する乙女みたいな名前をしているが、普通に男だ。
クセ毛+眼鏡+常時笑顔なんてヒロインっぽい特徴だが、普通に男だ。
特にイケメンでもないから、少女漫画のヒーローというわけでもない。普通の男だ。
朝霧さんって女性っぽいよね。なんて勝手な先入観を持っていた俺からしたら、一途は先入観ブレイカーだったといえる。
まあ、どうでもいい話だけど。

中学の時に知り合って、同じ高校に来ている俺らは仲がいいといえば仲がいいのだろう。
一般的に『仲がいい』というのはどれくらいの関係なら仲がいいのか解らないが、互いの家に遊びに行く程度には仲がいい感じだ。
「折角、学年の境目なんだし、一途も何か部活やればいいじゃん。」
「名探偵同好会なんて作ろうと思ったんだけど、申請が通らなかったんだよ」
「へー、そーなのかー。」
「興味無しっ!?」
俺は偶に顔を出すくらいの頻度で部活をやっているが、一途は部活動に所属していない。
勉強熱心なのかといえば、当然そんなことはなく、一途の眼鏡はゲームのやりすぎからなったものだったりする。
ちなみに、俺はゲームをあまりやらない。というのも、単純に操作が得意ではないからだ。
パズルゲームや脱出ゲームなど好きなゲームもあるのだが、シューティングゲームや格闘ゲームなど知識より感覚が頼りになるゲームは苦手だ。という基準も随分曖昧なものだが。
過去に朝霧が、小説が好きな俺にといわゆるギャルゲーというものをくれたことがあるが、これはどうも耳で聞く音声と目で追う文章のズレが苦手だった。
物語を進めるのに時間がかかるため結局途中でやめてしまい、そのゲームが小説化していたこともあって代わりに小説を読んでしまいで、ゲームを返すことにしたということもあったものだ。
「なんでそんな部活創ろうと思ったんだよ」
「実はあるゲームにはまってしまってな」
「名探偵って、あれか。英国紳士レイトン教授がナゾを解くあれか」
「流石、ヒトカゲ!よくわかったな!」
「あれは考古学者だぞ」
「えっ」
一途の頭の中では謎解き=探偵なのだろうか。
というか、教授と書いてあるのに何故間違えるのだろう。
俺が思い浮かぶ名探偵だと、小林くんを連れた探偵か、頭脳だけ大人の少年かな。
探せばもっとたくさん見つかると思う。名探偵。

「やっぱ、銃だよな!銃は男のロマンだ!銃を研究する同好会なんて作れないかな?」
「銃が浪漫なのは認めるが、なんで普通に在る部活に入ろうとしないんだよ」
「つまらなくない?」
「面白いぞ」
自分の話が解かる人のいる空間というのはなかなか居心地がいいものだと思う。
相手の話も面白く感じることができるし、違った視点からの知識というのも面白い。
意見のすれ違いを議論するのもまた一興。
イッツインタラスティン。
「でもさ~、やっぱ、おれほど銃に詳しい奴なんて他にいないっていうか~?ほら、SW99とか、銃ってかっこいいよな~」
「俺はS&Wよりコルトの方が好きだな。シングルアクション機構の本家だしさ。俺の印象としては、別に否定する気はないけどさ、S&Wはなんか味気ない感じがするんだよ。M27とかM19は有名だけど。でも、コルトもパイソンとかブローニングとか有名な銃たくさんあるし。シングルアクションアーミーのピースメーカーなんて面白い形だよな。名前も面白いし」
「ギブ!負けを認める!」
一途の降参は早かった。
ちなみに、俺の知識の半分以上は漫画の知識だ。小説も読むが漫画の方が読みやすいし、早く読めるというのもある。
漫画の知識なんて役に立つことの方が少ないが。
今回は、井の中の天狗の鼻を折るのに役に立ったけど。
「くぅ…おれはなんの部活を作ればいいっていうんだ!」
「作らずに既存の部活に入れば」
「あぁああんまぁありぃいだああぁあ!!」
「地味に上手いのが腹立つな。声真似同好会でも作れば?」
「なるほど。名案かもしれないな」
「あ、いや、そんなに上手くなかった。やっぱ止めとけ」
「HEEEEYYYYYYY!!!」
声劇部にでも入ればいいのにと思う。
地味に迫力のあるその叫び声を活かせば、いい役につけると思うが。
「WRRRRRYYYYYY!!!!」
「うん。やかましい。やめろ」
段々ヒートアップするその叫びに腹が立ってきてしまった。
これは声劇部も向いてないのかもしれない。
「やっぱ、部活は創ってこそだな!俺に合う部活を創るしかない!」
「今更なんだが、ゲーム部とかじゃダメなのか?お前、ゲーム得意だろ」
「そうだな、大会で上位に入る程度には得意だ。だが日景衛門よ、そなたは知っておろう。この学校には、コンピューター部部長『電脳世界(インターワールド)』の異名を持つ桐生音々(きりゅうねおん)先輩がいるのだ!おれが霞んでしまう!」
『電脳世界』、桐生音々。
これは数ある異名の一角で、他に、『生きる次元を間違えた者』、『非常識思考(オーバーテクノロジー)』、あとは、『神の持ち腐れ』なんてものがある。
ほとんど噂話で、真実とどれほど離れているかは知らないが、彼女は、世界トップクラスの頭脳をもっていて、それを使うことに負担の無い体をしているらしい。
つまり、持っている能力をフルに使用しても副作用が全くないということだ。
とにかくプラスの突然変異。『人間亜種』という異名もあった気がする。
しかし、プラスの能力を持った人がそれをプラスになる方向へ使うとは限らなかった。
桐生先輩は、人がもてあます頭脳を、ゲームとプログラム破壊に全振りしたのだ。
結果、史上最高の頭脳は、史上最悪のゲーマー泣かせになった。
「確かに、あの先輩と同じ分野で勝てる気がしないな。でも、一途ってほかに特技あったか?」
「まあ、おれは基本なんでもできるからな。気長に探すぜ!」
張り切っていた。
気長に探すと言いながら張り切るってのはどうなのだろう。
「ああ、そうだ。ヒカーゲの妹ってこの学校に入ったんだろ?」
「そうだな。入ったな。様子は全く教えてくれないが」
「どの部活に入るつもりなんだ?」
……知らない。妹の薄情さに涙が出る。何故教えてくれないのだろう。
まあ、本人に言ったらどうせ、聞かなかったからじゃん?とか言ってくるのだろう。
「帰ったら聞いてみることにするよ」
「おう、もし入ってなかったら、おれが部活勧誘するから教えてくれよな!」
「何部に?」
「………」
沈黙。

「おーい、お前らー最終下校時刻だぞー。早く帰れよー」

沈黙を破ったのは、声劇部顧問の無駄にかっこいい声の先生だった。
「じゃあな、一途」
「おう、ヒカチュウ」

別れを告げて、それぞれ同じ方向に帰った。

………!?

なんでついてきてるんだこいつ………。

『万能才能』 平坂陽向

家に帰り、二階へ行く。
鞄を雑に放り、制服を着替え、読みかけの漫画を数冊手に取る。
そして、一階に降りて、居間に入る。
いつもの習慣だ。
ちなみに、一途は返しました。ストーキング行為は丁重にお断りさせていただきます。
「ん、おにい、おか」
居間には先客がいたようだった。
細いというか眠そうな目、無表情、結んでいない黒髪セミロング。
妹の陽向(ひなた)だ。
兄のヒカゲと妹のヒナタ。なんて単純な名前だろう。
しかも、親曰く、俺の名前の方が後に決まったという。兄なのに。
おっと、聞くことがあったんだった。
「陽向、結局部活はどこに入るんだ?」
「んー、まあ、入るとしたら文化部だね。面白そうだし」
「パンフレットあっただろ?」
「捨てた」
居間のテレビには、録画したのだろう深夜アニメが流れていた。
なんというか、肌色の多い、絶対に男性向けであろう、親に見られたら空気が重くなること間違いなしといった類の内容だ。
よく、居間で堂々と見ることができるなと思う。
「捨てるなよ」
「いや、やっぱり自分で見つけてこそじゃん?私立に入ったのもアニメのような運命に導かれるためなんだし」
「お前はもっと上の学校へ行けただろ」
「おにい、それもう7回目。他の人全員合わせて28回聞いた」
陽向はアイスを食べながらソファに寝転がっている。
三人が座れるサイズの椅子を一人で独占するというのはどうなんだろうか。
仕方なく俺は居間に2つ置かれている一人用の椅子に座ることにした。
「おにいの好きなタイプってこんな感じ?」
漫画を読もうとした矢先、なんの脈絡もなく陽向がテレビを指して言う。
なんだよ、と不満を言おうとしたが、下手に反感を買ってもいいことがないというか、悪いことしかないので、素直に陽向の指の指す画面を見た。
そこにはピンクの髪の少女と金髪の童女が半裸で絡み合ってるシーンが流れていた。
「ブホッ!」
思わず吹き出す。
「うわ、きたないな、何やってんの?」
それを見た陽向が咳き込む俺を軽蔑のまなざしで見つめてくる
「お前は俺に何をしたいんだ!?」
「嫌がらせ」
完璧だ。反論の余地がない。ひどすぎる。
「…簡潔で完結した回答をどうもありがとう」
「どういたしまして」
なんて酷い妹なのだろう。
精神攻撃ほど辛いものは無いというのに。
陽向はいつもの無表情の中に含み笑いをしていた。腹立つ。
「ちなみに言っておくと、俺の好きなタイプは背の高いクールな女性だ」
「誰もおにいの趣味なんて聞いてないよ」
「……泣くぞ?」
「ごめん」
どっちが上だか分かったものじゃなかった。
少し精神的に疲れたので、本当は少しどころじゃないけど、漫画を読んで現実から意識を背けることにした。ちなみに、現実の辛さ=陽向の精神攻撃だ。
しかし、あまりにダメージが多すぎたのか、何かしらの報復をしたいと思うようになってしまった。漫画に意識が上手く入らない。
「……陽向、知っているか?」
仕方がないので、いつも通りに報復する。
「ん?何が?」
陽向はあらゆる物事に対して才能がある。
なんでも、やろうと思えばやってしまうのだ。やってしまい、やってのける。
そのためか、土壇場に適応することが得意というか、要するにその場しのぎがその場しのぎだったと認識されないほど適応が早いのだ。
だから、陽向は物事の準備を必要としておらず、つまり、物事の計画を確認することをしないことが多いといえる。
俺はそこを突いて、陽向に衝撃を与えることで報復をするのだ。
小さいと思う。しかし、これは俺が小さいのではなく妹が大きいだけだ。
物理的にはもちろん俺の方が背は高いけどな!
「正式な入部の締め切りは明日までだぞ」
最初は無反応だったが、しばらくすると陽向がガバッとソファから起き上った。
「え!?なんで早く云ってくれないの!?」
計画通り。心がスカッとする。
「だから俺はせかしてたんだよ。気づけ愚妹」
そう言い放つと、陽向はソファに崩れ落ちた。
完全勝利かと思ったが、陽向は起き上った。
そして、その表情には余裕が表れていた。
「……ふ、ふふふ。思い出したよ。嘘はいけないね、おにい」
まさに、確信を突いたとばかりの表情だ。
「私は予定を確認しないけど、予定を確認する人を観察することくらいできている。誰も、誰も部活動に所属することに関して危機感を持っていなかった。つまり、おにいの言ってることは間違いってこと。この噓吐きおにい!」
そう、誰も危機感を抱くはずがない。
俺は本来危機感を抱く必要がないことを言っているからだ。
そして、それに気づくことくらい予測していた。
しかし、陽向は、全部に気付いたわけではない。
俺の虚勢は、あまりにも大きい虚勢なのだ。
「残念だったな、陽向。……俺は、嘘をいっていない!!」
「…………!!」
取り出したのは生徒手帳だった。
そして、部活動についての欄を提示する。
「な、そんな……ことが……」
「ふん、残念だったな陽向。俺は生まれてこのかた嘘をついたことがないのを覚えていなかったのか?いや、知っていた。本当は解かっていたのだろう?自分の推理が外れていたことに」
ここぞとばかりに、畳みかける。これが、俺のいつもの報復だった。
こんなこと、普通の人にやって普通に納得してお終いなのだが、こと妹に関しては、普通じゃない。自分が失敗をすることを嫌うのだ。
「……どう、して…。解らない。私の記憶が、間違っているはずがないのに……」
「教えてほしいか?愚妹よ!もし教えてほしければ、俺の前にひざまずいて、申し訳ありませんでしたお兄様、私の頭では到底かなうことはできません、これからは心を改め、お兄様を大事にすることを誓いますと言うがいい!」
小さいやつだと思うだろうか。
陽向のことを可哀そうだと思うだろうか。
しかし、これは恒例行事なのだ。俺ができる、陽向に対する最大の気配りである。
敗北を認めても失敗を認めない妹に対する、思いやりの行動だ。
毎回、形を変えているが、結局は一つの点に収束する。収束させる。
そうしないと、壊れてしまうから。
陽向は、恨めしそうに呻くと俺の前に跪いた。
そして、口を開く。
「………申し訳ありませんでした……お兄様、………私の頭では到底かなうことは、できません。これからは心を改め、……お兄様を大事にすることを……誓います……」
妹はそういうと顔を挙げた。
これからの展開は予測がついている。というか、いつも通りだ。
俺は、心の中で、もう逆らうのはやめようと誓った。
「……なんていうとでも思ったかボケェ!!!」
「ゴブゥ!!!」
腹に衝撃。見事なフォームのひじ打ちを喰らう。
「調子乗るのも大概にしろ!!おにいなんかに私が負けるわけ、おにいの策略に私がはまるわけないだろ!!ぶちのめしてやる!!」
「……もう十分ぶちのめされてま……ウガア!!!」
腹を押さえてうずくまっていたらネックロックをかけられた。
素晴らしい手際だと感心はするがどこもおかしくないな。
なんて冗談を言ってる場合じゃない!ちょっ!なんか強くなってる!このままじゃ意識が!こんなの予定外!
「ギブギブギブギブ!!!」
「何?giveだって?いいよ、もっとあげるよ」
「そういうのいいから!!!!」
あ、やばい、まじで、とぶ。

―――俺は明日、学校を休むことにした。

『死霊呪術師』 雨降未月


「なんで昨日来なかったのか。納得の出来る説明をして」

学校の図書館。
文芸部の活動場所である。

「・・・妹にチョークスリーパーを極められたからです」
率直に、素直に、紛れもない事実を述べた。
それ以外に思いつかなかったからだ。
「納得できない。そもそもチョークスリーパーって何」
―――目の前のでかい本を持った幼女、いや、先輩は目を薄めて疑ってくる。
俺のちょうど鳩尾くらいに頭があるという低身長の先輩、いや、部長は有名人である。
一番有名な二つ名は、『死霊呪術師』。
他にも『狂運少女』とか『厄病人』などがあるが、やはり『死霊呪術師』の方がずば抜けて有名だろう。
「首を絞められたんです。きゅぅっと」
二つ名の由来は、大まかに分けて3つだろう。
一つが、彼女に悪い行いをしたものが彼女と関係のないところで何かしらの被害にあっていること。
二つ目は、彼女が機嫌をかなり損ねると、彼女を除いて、その場に被害が舞い降りること。
最後が、彼女の持っている大きな本の内容を見た者が、彼女を除いて、精神障害を患っていること。
「それは自分の行いが招いた結果じゃないの?なんで被害者顔をしてるの」
―――なんとも嘘くさい話が並んでいるが、俺は目の当りにしてしまってるのだ。
去年の入ったばかりの頃、上から目線の小さい先輩にイラッときて、思いつく限りの罵詈雑言を並べた結果、その直後に地震が起こった。
本棚が倒れ、俺は下敷きになってしまったのだが、部長は何事も無かったかのように平然としていたのだ。
全くの無傷で、彼女を、雨降未月を避けるかのような本棚の倒れ方は、あまりにも神秘的で超自然的だった。
「首を絞められて一日中意識が無かったんですよ!?どう考えても被害者ですって!!」
「だからといって私の約束をふいにすることはないよね?」
「約束?なにか約束しましたか?」
「した!新しい本を買いに行くって約束した!」
「いや、あれは断ったでしょ!買い物くらい一人で行ってくださいよ!」
「あの店カウンターが高いから届かない!!」
「店員さんに手伝ってもらえ!!」
「・・・だって、その、・・・・・・なんか恥ずかしいし」
もじもじしながら伏せ目で頬を赤らめる部長。
キュン!・・・じゃなくて。
「俺の方が恥ずかしいんですよ!!!」
「・・・え?」
これをきっかけに不満が爆発する。
「何が好きで幼女引き連れて本屋へ女性向けの本買いに行かねばならんのだ!!!こちとら警察に3回、店員さんにはオールパーフェクトで不審な目されてんだよ!!!!それ以降俺があの本屋に行くたび、店員さんに目を付けられるようになったし!!買う本から趣味とかチェックされてんだよ!!あそこ以外に大きい本屋は無いっていうのに!!」
「―――そ、それは日景が怪しいからだ!」
「怪しいとか言うなや!!悲しくなるだろ!!・・・・・・悲しくなるだろ、ちくせう」
不満を解消したと思ったら別の要素が襲ってくる。
精神が不安定なことこの上ない。
「ご、ごめん・・・」
「まったく・・・。別にいいじゃないですか。店員さんは優しいものですよ」
幼女を連れた不審者に対して以外はな。
「だって、知らない人に恩を売るっていうのが、私には・・・できない・・・っ!」
「だからって被害を増やすのは勘弁してもらえませんかね」
「でも!日景になら、恩を売ってもいいって思ってるんだ!信頼してるから!恩を仇で返しても許してくれるって!」
「許すか!!第一、仇すら返してもらってないです!!買いっぱなしで在庫余ってます!!」
「じゃあ、今回の件は許してあげよう。これでチャラだ」
「んなわけあるか!!」
俺に似合わないハイテンションだが、昨日全く動けなかったため、力が有り余っているのだ。
ついつい会話に力んでしまう。

「図書館では静かにしたまえ」

―――と、不意に声が聞こえた。
振り向くと、そこにいた人もまた有名人だった。
『人間操士』、長良九画先輩。人心掌握に長けていて、人の長所を活かすのが上手い人。
参謀といったところだろうか。
初めて会うが、『したまえ』とか偉そうな口調だったなんて知らなかった。
「すいません、つい熱くなっちゃって」
偉そうな口調でもいってることはとてもまともだったため、素直に謝る。
一方、部長はガン無視。
仲が悪いのだろうかと思ったが、普通に考えて、部長の人見知りが発動してるだけだろう。
「解ればいいのだよ。見苦しい喧嘩は集中の妨げになる。仲良くしたまえ」
本当に、偉そうな口調だがとてもまともなことを言っている。
「はい、すいませんでした」
「失敗も、謝礼も、一度でいいのだよ。二度と間違わなければそれでいい」
厳しいことを言っているようにも思えるが、要するに失敗を繰り返すなということだろう。
深く反省することにしよう。と思えるところまでこの人の計算なんだろうな、と思うとなんだかものすごい人なのではないかと思えてきた。
長良先輩はそのまま本棚の方へと戻って行った。

「・・・そういえば部長、なんで一言も喋らなかったんですか?」
「あ、いや、えっと、・・・こう、あれなんだよ。九画とは・・・」
呼び捨てと来たか。
親しい仲ではあったようだ。
なにかしらの因縁があるんだろうが、皆目見当もつかない。
少なくとも、あの先輩が実はロリコンで過去に部長に告白したところ上手くいったと思って付き合っていたがしばらくしたら考えなおしたいとかで別れたとかいったことは無いんだろうなと思う。
なんてフラグを建ててみたりするが、この部長に限って付きあうなんてことは100%無いだろう。
長良先輩の隠れロリコン説もありえないと思うし。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
しかし、なんとも気まずい雰囲気になってしまった。

「じゃあ、本屋にでも行きますか」
何が「じゃあ」なのかわからないが、なんとなくそう呟いた。

「・・・うん、ありがとう」
すると、珍しく部長の感謝の言葉が聞こえた。

平坂日景の部活動録

平坂日景の部活動録

高校名不明。部活数不明。生徒数不明。(不明は未定) すごく適当な、すごくごちゃごちゃした、すごく中二病な。 そんな感じの日常的小説になってます。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • アクション
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-17

CC BY
原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

CC BY
  1. 『漫画読み』平坂日景
  2. 『電脳遊戯者』 朝霧一途
  3. 『万能才能』 平坂陽向
  4. 『死霊呪術師』 雨降未月