本の蟲

パラリ、パラリ、パラリ。

細く長い指が紙を捲り、刻まれた文字を眼球が追う。
飽きることなく続くその行為は意識を薄れさせ、徐々に思考は沈んでいく。
一枚一枚と紙片に触れる度、物語の世界へと自己が溶けていく感覚を感じ、その感覚は生まれると同時に薄れていく。

輪郭すらも曖昧になった頃、急激に意識は引き上げられる。

読み終えた本を横へ積み重ね、別の山から新たな本を手に取った。一枚目に手を掛けようとし、ふと思う。
私の指とは、これほど細く、痩せていただろうか。
どうでもいいと意識を切り替え、再び紙片を捲りだす。

パラリ、パラリ、パラリ。

紙と紙が擦れ合う音が小さく響く。それ以外の音は無く、必要のない機能は削ぎ落とされる。

パラリ、パラリ、パラリ。

視界に移る肌色さえも鬱陶しい。必要のないものは取り除く。

パラリ、パラリ、パラリ。

暗闇に一つの音だけが響く。読み終えた本を横へ積み重ねようとして、本の崩れる音が鳴る。構わず新たな本を手に取る。

パラリ、パラリ、パラリ。

今、私は、例えようもないほどに幸福だ。

本の蟲

幸せは人の個人価値。

本の蟲

活字中毒者の一生

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-17

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