本の蟲
パラリ、パラリ、パラリ。
細く長い指が紙を捲り、刻まれた文字を眼球が追う。
飽きることなく続くその行為は意識を薄れさせ、徐々に思考は沈んでいく。
一枚一枚と紙片に触れる度、物語の世界へと自己が溶けていく感覚を感じ、その感覚は生まれると同時に薄れていく。
輪郭すらも曖昧になった頃、急激に意識は引き上げられる。
読み終えた本を横へ積み重ね、別の山から新たな本を手に取った。一枚目に手を掛けようとし、ふと思う。
私の指とは、これほど細く、痩せていただろうか。
どうでもいいと意識を切り替え、再び紙片を捲りだす。
パラリ、パラリ、パラリ。
紙と紙が擦れ合う音が小さく響く。それ以外の音は無く、必要のない機能は削ぎ落とされる。
パラリ、パラリ、パラリ。
視界に移る肌色さえも鬱陶しい。必要のないものは取り除く。
パラリ、パラリ、パラリ。
暗闇に一つの音だけが響く。読み終えた本を横へ積み重ねようとして、本の崩れる音が鳴る。構わず新たな本を手に取る。
パラリ、パラリ、パラリ。
今、私は、例えようもないほどに幸福だ。
本の蟲
幸せは人の個人価値。