せかい
君と出逢ってから見える世界が変わったんだ。今までよりずっと色鮮やかになったんだ。
僕が彼女と出逢ったのは半年前のことだった。
僕は相変わらず古本屋でバイトしててその日はたまたま趣味の写真を眺めていた。
「その写真、あなたが撮ったんですか?」
声をかけられふと顔を上げると白いワイシャツに紺色のスカートを着た女の子が本を抱きかかえながら僕を見つめていて僕は少しどきっとしたのを覚えている。
「はぁ…まぁそうですけど…」
僕はお会計ですかと続けると彼女は首を横に振った。
「その写真、もっと見たい。見せてくれませんか」
彼女は僕を真っ直ぐ見つめて言う。
僕は黙って写真を彼女に渡した。
彼女は、ありがとうと笑って写真を眺め始めた。
しばらく眺めると彼女はポツリと声を発する。
「綺麗な写真ね、とても綺麗だわ。」
僕はすこし照れ臭くなって下を向いてただ小さな声で「ありがとう」
とだけ答えた。
彼女は少し微笑みながら「とても綺麗だわ、でも空っぽね。なにも伝わってこない。君は本当に写真好き?…いいえ世界のこと好き?」
彼女は真っ直ぐ僕を見つめていて僕は彼女の瞳に吸い込まれそうになった。
「…わ…かんない…」
僕はカスカスの声で答えた。
彼女は写真を机に置くと「私と散歩に行きませんか?世界の素晴らしさ、汚さ、愛おしく想う気持ちを君に教えてあげる」
そう言って僕の手を取って走り出す。
僕はただただ圧倒されてて、黙って彼女について行くしか出来なかった。
彼女は特別美人なわけでもないけど凄く華奢で儚い雰囲気の子だった。
僕はその頃からもう彼女に惹かれていたのかもしれない。
彼女は自分の好きな景色や好きな場所を僕に教えてくれた。
僕はそんな彼女の好きな景色と彼女が写るようにファインダーを覗いた。
ファインダー越しに見た和泉の背中には羽が生えていて今にも飛びだってしまいそうで、夕焼けに照らされる彼女があまりにも美しくてシャッターをきった。
後日、彼女に写真を見せると「とても好き」と言ってくれた。
それからと言うもの彼女は頻繁に古本屋に来るようになり、僕らは毎日一緒にいるようになった。
僕は風景のどこかに必ず彼女が写るように写真を撮った。
彼女はなにも言わずにたまに「この写真の私、可愛く写ってる」なんて言って笑っていた。僕はこの時の笑った顔がすごく好きだった。
彼女は「前の君の写真とても綺麗だったけど本当に空っぽだったわ、どんなに綺麗な箱でも中身のない箱なんていらないでしょう。でも今のあなたの写真はとても素敵。素敵な宝石箱みたいね」
そう言って笑う彼女を僕は愛おしく思えた。
それが僕と彼女の出逢いである。
せかい
星野と和泉シリーズ第三弾です。
彼らの出会い編です。
たぶん星野は和泉に一目惚れです。でも星野は23歳、和泉は16歳の設定なので犯罪です。
犯罪です。
和泉はいつか消えてしまいそうな雰囲気を醸し出しています。
羽が生えているように見えたものきっとそのせいです。
今回もありがとうございました!