根本

春乃

にいさんここです。あたしはここです。

にいさん目の前に立っている木をみてください。
桜です。にいさん桜がお好きだったでしょう。
あたしずっとここで待っていたのです。
にいさんはたいそう桜がお好きだから、ここにいればきっとにいさんが通りかかると思って、待っていたのです。
ね、当たったでしょう、その通りでしょう。

にいさんあの日のことを覚えていますか。
おっしゃいましたねにいさん、あたしに、ここで待っていなさいねって。
おとなしくいい子にしていればすぐに迎えに来るからねって、おっしゃいましたね。
あたしいい子にしていました、あたりが暗くなってきて、ひどく心細かったけれど。
ここで待っていればにいさんが来るって知っていましたから。
この桜は大きな木だから、きっとよい目印になるだろうと思いました。
それににいさんは桜がお好きですから、この木に気づかないはずはないのです。
ほんのちょっとの辛抱でした。

みてくださいにいさん、あの桜がこんなにおおきくなったのです。
おどろいたでしょう。あたしもおどろきました。
なぜでしょうね。

なぜでしょうね。

なぜでしょうね。

なぜでしょうね。

にいさんあたしたまに考えるのです。
ひょっとしてあたしはにいさんを待つ間に死んでしまっていて、幽霊になってにいさんを待ち続けてるんじゃないかしらって。
ばかみたいでしょう、どうぞおわらいになって、にいさん。
おわらいになってくださいにいさん。
にいさん。
にいさん?

どうしたのにいさん、なぜそんなまっしろなお顔をなさっているの。
なぜくちびるをふるわせてあたしを見るのです、ああおかわいそうに切れてしまっているじゃない。
どうして謝るの?にいさんはなにもわるくないのに。
約束通り来てくださったではありませんか。
にいさんどうして泣いてらっしゃるの、あたしなにかまちがったことを?
にいさん言ってください、黙ってちゃアわからないわ。
どうなさったのにいさん。

ああ困ったワ、にいさんが泣き止まない。
にいさんどうしたの、なにがそんなにもかなしいの。
ああおかわいそうに、あたしが代わってさしあげられたらどんなにうれしいか!
泣くのはおやめになって、にいさん、あたしが叱られてしまいます。
おかわいそうにこんなにも青ざめて、ああ泣き止んでくださいまし。




ときににいさん、あたしが桜の木の下で待ってる間いったい何があったのです?
ずいぶんと老け込んでいらっしゃるわ。

根本

根本

  • 小説
  • 掌編
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