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わたしは修学旅行で東京スカイツリーに行った時の話を母にしていた。

わたしは修学旅行で東京スカイツリーに行った時の話を母にしていた。
「もぉホントに高かったんだからねー」
「でもいいじゃないの、たまには」
母は優しく言うが、わたしの声は自覚出来てしまうほど荒っぽくなっていた。しかし実際そうだったのだ、『あのあまりの高さに、気を失いそうになったくらい』なのだから。
「後悔してるの?」
「そりゃあ、してないけど…」
無意識に即答していた。当たり前だ、わたしが後悔なんてするわけがない。
恥ずかしさを隠しながらわたしは言った。
「いい思い出にもなったし…」
母さんにはお世話になっている、とても。わたしのことをいつも考えてくれ、優しい言葉をかけてくれる。そんな温和な母が、わたしは好きだ。
しかしそれを口にすることなど、今のわたしにはもちろん無理難題というものだ。
「それならよかったわ、母さん心配してたのよ」
「何を?」
「だって、あなた修学旅行前の1ヶ月間、毎晩遅くまでバイトしてたじゃないの、疲れが溜まって当日楽しむ気力もないんじゃないかって…」
「大丈夫、わたしだってもう高3だよ? そんな簡単に倒れたりしないって」
のん気に言ったが、本当のところはものすごく苦しかった。そしてもちろん私が楽々バイトをこなしてはないことを、母にはもちろんバレていることだろう。
「あなたが修学旅行の費用を全部自分で稼ぐって言った時は、本当に驚いたわ」
「…少しでも楽させようと思って」
私は残りのバイト代も全て家計に回した。
「立派に育って… 母さん嬉しいわ」
母がにっこり微笑んだので、わたしはますます恥ずかしくなった。
気が動転していた私は気晴らしにテレビをつけた。するとアトラクションの特集番組が放送されていた。
「あら怖い、バンジージャンプ。母さんには無理ね」

母さんは『わたしと違って』高所恐怖症だった。

「私はやってみたいけどな、スリルがあって面白そう」
自然と会話の焦点がずれると、2つ下の弟がリビングに入ってきた。猛烈に頭の寝癖が目立っているが、弟は気にせずわたしに期待するように言った。
「姉ちゃん修学旅行お疲れ、んで俺のおみやげは?」
「早っ… まったく、せっかちなんだから」
わたしはバッグから1つの箱を取りだし、弟に渡しながら言った。
「もぉホントに高かったんだからねー」

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  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-15

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