contrast~abstraction~

ファミレスで事件を解決するcontrastシリーズ、第5話です。
これまの内容を踏まえた内容ですが、初めてでもわかるように書いている・・・つもりです。
是非読んでみてください。

[赤1]
「なによ!りゅうちゃんのバカ!」
声が予想以上にファミレスに響いちゃってた。
「はいはいはい。馬鹿で悪うござんした。」
向かいに座る幼馴染みのりゅうちゃん―黒門流那(こくもんるな)が私から目をそらしてまくしたてる。あぁもう!!!
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。それよりこの事件の話しよ。」
私の隣に座るおねぇ様―白都蘭(しらとらん)が珍しく慌てながらなだめている。おねぇ様には悪いけどりゅうちゃんとは逆方向、通路側にそっぽを向く。私白戸空(しらとそら)、今日は絶対譲れません!



[黒1]
空と呼ばれたその女子は通路越しにこちらに目線を向けている、といっても女子は私の姿を見てはいないようだ。ただ焦点を合わせずに顔がこちらを向いていると表現するべきか。
「全く君たちは・・・・。」
彼らより年上であろうスーツ姿の女子がため息交じりに二人の顔を見比べている。その顔に見覚えがあった。不貞腐れて窓の向こうを向いている男子はりゅうと呼ばれていた。そういえばその名にも覚えがある気が。脳内の古い記憶を思い起こそうとする。・・・いや、私が知る限り女子らはいつもあそこの席で頭を突き合わせて議論を重ねている。かくゆう私もこの席で十年以上仕事を続けている。きっと何度かその会話の端々が耳に入っていたのだろう。
それよりも今日の仕事を終わらせることに神経を集中しよう。新たなミルクコーヒーをもらおうとテーブル端の呼び出しボタンを押した。
ちょうどその時、りゅう男子が出入り口のドアから出ていくのが目の端に入った。



[赤2]
「・・・珍しいな。空ちゃんがそこまで意固地になるのは。」
席を立ったりゅうちゃんから視線を戻したおねぇ様が、ホットミルクを持って向かいの席に移動した。
「そうですか?」
私も体をちゃんとおねぇ様に向けて、一口オレンジジュースを飲んだ。
「うん、私があなたたちに会って初めてだよ。」
きっかけはちょっとしたことだよ。単純にりゅうちゃんが来週の約束を忘れてたってだけ。でもきっとそれはきっかけだけで、理由はきっと―
「悩み事ですか~。」
身を乗り出したおねぇ様の顔が一気に近づく。・・・複雑な気持ちだよぉ。
「おねぇ様、その顔は可愛すぎます。反則です。」
話を反らそうと努力する。も、その目で見られるとなにも隠せない。観念しました。
「・・・私って、りゅうちゃんの力になってるのかなぁって・・・。」
この半年以上りゅうちゃんとおねぇ様と色々な事件を見てきた。でもそのたびに思うことは・・・二人の才能だ。
「確かにりゅう君の発想力は凄いよ。でも私はそんな―」
「おねぇ様にはりゅうちゃんからのお墨付きの『配慮』があるじゃないですか!」
他人の目線にたって物事を考える力。おねぇ様はそんな力が秀でている。そう、つまりこの気持ちは嫉妬なんだと思う。りゅうちゃんの力になれるおねぇ様に嫉妬。
「・・・私の力って、なんですか?」
多分この言葉の裏も何もかも『配慮』できるおねぇ様にはお見通しなんだろうなぁ。そんな優しい大きな目で私を見た。そして目線を落としてノートを差し出す。
推理研究会のノート。おねぇ様が学生時代に過去の不可解な事件をまとめたもの。
「私には答えを出すことはできないよ。だから自分で見つけてみな。りゅう君抜きで、この事件を解決しながら。」
今日みんなで話し合うつもりだった事件。ううん、心のどっかでいつも通りりゅうちゃんに解いてもらうつもりだった。
『四津札(よつふだ)銀行強盗爆破事件』



[黒2]

『四津札銀行強盗爆破事件』
七年前に大昭(たいしょう)市にある四津札銀行本店で強盗事件が発生した。犯人は四人組、名を三葉(みわ)、赤菱(あかびし)、剣田(けんだ)、斉心(さいしん)といった。全員今で言うフリーターで未成年だったが、実に鮮やかな犯行で当時の警察を驚かせた。平日の白昼堂々、四津札銀行に顔を隠し凶器のナイフと本物に見立てたモデルガンを持って強盗に入った。被害額は一億、犯行時間はわずか三十分、客と従業員は人質として全員身動きが取れない状況にし、逃走車は当日朝に盗んだ盗難車。犯行は全て完璧だった。その為当時の新聞・テレビ報道でも大々的に取り上げられた。

そこまでノートパソコンで文章を打ち一口ミルクコーヒーをすする。私もこの事件のために足を棒にして歩き回った記憶がコーヒーの湯気の匂いとともに蘇る。ふと先ほどの席に目線を移すと、年上の女子が携帯電話で話しながら出て行くのが見えた。一方残された空女子は何やら熱心にノートにかぶりついているようだ。先程まで喧嘩していたのになんとも忙しい女子だ。私は再びパソコンに向かった。

犯行は全て完璧だった。しかし逃亡途中、彼らの乗った車は五十美(いそみ)橋を通過するときに爆発した。一億円は五十美川と通行人により散っていった。そして勿論、彼らの命も。



[赤3]
「『爆破』ってそっち!?」
おねぇ様が仕事の呼び出しで出て行っちゃったけど、思わず独り言をつぶやいちゃった。慌てて口を手で抑えて周りを見たけど、ほとんどお客さんがいないから大丈夫・・・かな?
それよりも事件だ。てっきり銀行の方が爆破されたのかとばかり。まさか逃走車が爆発していたなんて。
「・・・ん?でも―」
なんでこの事件を未解決だとおねぇ様は思ったんだろう?確かに爆発の原因は気になる。けど普通に考えれば事故とかなんじゃないの?ノートの続きを読み進めよう。
―爆発の原因は車内に残されていた破片から特定され、自家製のパイプ爆弾が使用されたことがわかった。犯人は銀行強盗時に使用するつもりだったと考えられ―
「パイプ爆弾?」
手元のスマホで調べてみた。学生運動でもよく使用された有名なものだったみたい。
密閉したパイプ内に爆薬と金属片を入れることで爆発と同時にパイプ及び内部の金属片が飛び散るもの・・・らしい。こわぁ!
じゃあつまり、強盗自体は成功したけどその時に使った爆弾が逃走中に誤って爆発しちゃった。ん~やっぱりこれは事故なんじゃ???
でもその下に貼られた切り抜きが問題だったみたい。銀行強盗から一週間後の新聞の切り抜き。
『四津札銀行本店支店長、切道(きりみち)氏自殺』
じ・・・さつ?



[黒3]

『魔が差して一度はうまくいったが、4人の命を奪った私はもはや人にあらず。この命を持って償う。』
事件当時確かな情報筋によると非公開の遺書にはこう書いてあったという。当然警察では『四人』は強盗犯だと考えられたが、ならしかしなぜ切道楽人(きりみちらくひと)が自殺したのか。彼は当時の四津札銀行本店支店長であり、銀行強盗当日も当然勤務していた。犯人たちが逃走すると直ぐに110番しているし、この時の音声はもちろん通信指令センターに残っていた。その後は警察、従業員、被害者である客との対応に追われている。もちろん逃走車が爆発した時もまだ銀行内にいたと警察が証言している。さらに言えば、車内に残されていた爆弾はパイプ爆弾、遠隔操作で着火できる代物でもない。つまり切道氏は完璧なる銀行強盗の被害者だった。

キーボードから目を離し、またミルクコーヒーを飲んで一息つくその時ちょうど店のドアが開いた。大学生ぐらいの男子2人が店内を見回し空女子に気付くとほぼ同時に、「羽澤君!」とい空女子の声が店内に響き渡った。



[赤4]
「珍しいね、白戸さん。一人だなんて。」
そう笑いかける羽澤くんは相変わらずだ。なんか落ち着く声だなぁ。ん?隣の人は・・・
「あぁ、彼と会うのは初めてでしたよね。」
隣の人が一歩前へ。
「同じサークルの―」
「こんちは、外狩(とがり)っす。」
一目みて思ったのは『羽澤君やりゅうちゃんと同じ空気』。何がって言われるとわかんないけど・・・なんか、そう。三人で謎解きしていることが容易に想像できた。
「羽澤君と同高の白戸空です。」
私がお辞儀すると爽やかな笑顔で握手を求められた。ま、眩しい。
「ここちょっとだけいいですか?サークルのみんなと待ち合わせしてて。」
もちろん、と応えた。りゅうちゃんとおねぇ様のカップを端に寄せる。
「りゅうちゃんと喧嘩でもしたんですか?」
いきなり確信を突かれた。誤魔化したい。けど羽澤君のニコニコ顔からは・・・逃れられない。
「りゅうちゃんって幸君が話してる?」
「そうです。こじつけが得意な。」
『こじつけ』。りゅうちゃんは昔からなんでもかんでも突拍子のない発想をしていたなぁ。『給食着一斉盗難事件』、『数学教師二日間蒸発事件』。下校時間はいつもそんな訳のわからない事件の謎解きをしてくれた。そして私はいつも聞いているだけ・・・。
「ん?白戸さんどうかしたんですか?」
クリームソーダを飲んでいた羽澤君は相変わらずニコニコ顔。一方外狩君は注文したホットコーヒーを飲みながら推理研究会のノートを読んでいた。興味津々みたい。
「・・・うん・・・ねぇ、羽澤君。私って―」
言いかけた言葉を飲み込んだ。そうだ、これは初めての私の事件だ。自分の意味も自分自身で見つけなくちゃ!
「ううん、なんでもないよ。」
精一杯の強がりを羽澤君は笑みで返してくれる。
「ん?こんな時間じゃないか、幸君!」
携帯を見た外狩君がビクンとなる。待ち合わせの時間なのかな。二人は立ち上がり飲み物の代金を置いていく。
「じゃあ空君、またね!」
バイバイをした後ノートに目線を落とした。
「白戸さん。」
顔を上げると羽澤君が戻ってきていた。忘れ物?
「一言だけ。僕は知ってます。白戸さんはりゅうちゃんよりも僕よりも学校の成績が良かったこと。それじゃあ、また。」
それだけ残してかけていった。



[黒4]
コーヒー片手に新聞を読み終えて仕事に戻る。もうこの仕事も佳境だ。

かくしてこの『四津札銀行強盗爆破事件』は切道氏の自殺により複雑怪奇なものになってしまった。なぜ彼が自殺する必要があったのか。銀行強盗と爆破事件にどのような関係性があるのか。
どちらにせよ七年前の時効改正前の事件。つまり公訴時効は完了してしまった。事件は名実ともに闇の中に消えていった。
(雑誌『本当にあった事件』編集 門 拾三(かどじゅうぞう))

そう打ち終えたパソコンの画面を一瞥する。あとは細かい手直しだけだ。



[赤5]
小中高、確かに私の成績はクラスでトップグループに入っていたよ。でもそれは自頭がいいとかじゃない。っていうか自頭なら断然りゅうちゃんや羽澤君の方が良いっしょ。ん?そういえば一度、二人に褒められたことあったっけ。そうあれは、高校のテスト前の勉強会だ。

「白戸さんのノートはとってもわかりやすいです。上手くまとめられてて。」
「まぁあれだろ、要点抽出がうまいんだろ。いわゆる―」

「・・・『抽象化』。」
りゅうちゃんがそう言ってたなぁ。でもそんなので事件なんか解けないじゃん!ノートをパラパラとめくると、私のメモが出てきた。そうだ、りゅうちゃんが解決した事件はメモしておいたんだ。ちょっとだけ懐かしい。
1、『大昭大学生一家殺人事件』
2、『栄担商事事務員殺人事件』
3、『四条家双子誘拐事件』
4、『画家乾辰巳変死事件』
空いてるスペースに書き出してみる。我ながらなかなかのネーミングセンスだ。そう、この四つをりゅうちゃんはすごい発想で解決していった。ホント、かっこよかったなぁ。確かそれぞれの発想を一言で言うとしたら・・・
1、『大昭大学生一家殺人事件』⇒『困難の分割』
2、『栄担商事事務員殺人事件』⇒『先入観の排除』
3、『四条家双子誘拐事件』⇒『一貫性を疑う』
4、『画家乾辰巳変死事件』⇒『事実を一旦忘れる』
書き加えた。・・・まぁ考えてもわからん。とりあえずこれで考えてみよ。
まず1はやっぱり『銀行強盗と爆破事件を別々に考える』かな?じゃあ爆破事件はたまたま起きたと考えてみよう。でもそれだとなんで切道さんが自殺を?『なぜ切道さんが自殺?』と1の横に書き加える。じゃあ次は2。
「先入観、先入観、先入観。」
私がしている先入観は・・・!
「そういえば強盗された銀行側ってデメリットしかないのかな?」
手元のスマホで調べてみた。そうか、銀行は普通強盗対策で保険に入ってるんだ。だから一億円を取られても、
「その一億円はちゃんと戻ってくるんだ。例え爆発で散り散りになっても。」
つまり銀行側にはお金に関してデメリットはなかったのか。じゃあもしかしたらメリットも?『銀行のメリットは?』と2の横に書き加える。
「3番目は『一貫性』、じゃあ例えばこんなのは・・・。」
『犯人は四人じゃなかった』、そう考えてみよう。よくよく考えてみれば未成年のフリーター四人がこんなに手際よく銀行強盗できたのかな?七年前なら調べるのも一苦労だったろうしなぁ。武器はともかく銀行のカメラの位置とか金庫にある金額とか調べなくちゃだし―!
「そうか!例えば銀行内に共犯者がいたとか。ん?それだとその共犯者ってまさか・・・。」
『切道さんが共犯者?』そう書き加える。そして最後の4だから、『目的は一億円強盗じゃなかった?』とかかな?
ノートには、
1、『大昭大学生一家殺人事件』⇒『困難の分割』⇒『なぜ切道さんが自殺?』
2、『栄担商事事務員殺人事件』⇒『先入観の排除』⇒『銀行側のメリットは?』
3、『四条家双子誘拐事件』⇒『一貫性を疑う』⇒『切道さんが共犯者?』
4、『画家乾辰巳変死事件』⇒『事実を一旦忘れる』⇒『目的が一億円強盗じゃない?』
この四つから何か言えないかなぁ?



[黒5]
空女子は本当に騒がしようだ。ついさっきも二人組の男子と談笑していたと思うとすぐさまその二人は出ていっていた。それにしてもあの男子、どこかで見たことある気がした。男子を見た瞬間十年近く前の事件を彷彿とさせた。このファミレスの前で起きた自殺騒動、対して大きな事件でもないがその時に座っていたこの席から見える光景が脳裏をよぎった。
・・・いや、これもただの気のせいだろ。なにせ十年以上の執筆活動で恐らく普通の人が遭遇するであろう事件の数倍も十数倍もの数を追ってきたのだ。必然的に見覚えのある顔も膨大になるし、デジャヴも何度もある。
「どう、空ちゃん。わかった?」
するとまたスーツ姿女子が帰ってきたようで、ホットミルクを注文して席に着いていた。一方その前に座る空女子、その顔に見覚えがあった。そうあれは何度も見てきた同僚記者たちの顔、真実に到達した自身に満ち充ちた澄み切った顔だ。



[赤6]
「この事件で一番難解な点は『なぜ切道さんが自殺したのか』です。」
自信なんてこれっぽっちもないよ。声がワナワナしそうになる。それでもおねぇ様はちゃんと私の目を見てくれている。その優しい目で少しだけ勇気が出る。
「当然、自殺の内容は遺書に書いてあるとおり強盗犯の四人を殺してしまったことでしょう。」
「でもなんで?爆弾は犯人たちの逃走車に乗ってたんでしょ。ってことは爆弾は犯人たちが用意したんじゃないの?それだった切道さんが自殺する必要ないんじゃない?」
そうまるで、夏祭りの型抜きみたい。うっすらと見える線に沿って慎重に針で削っていくような。
「そうです。でもその爆弾を用意したのが切道さんだったら?」
こんなフワフワしてる中をりゅうちゃんは歩いていたのかな。私はさっきの考え、切道さんが共犯者である可能性を伝える。大きく頷いてくれている。
「なるほど、確かにそう考えると遺書の謎もとけるね。」
しかしホットコーヒーを口に運ぶ手が一瞬止まった。
「・・・でも空ちゃん。その考えでいくと切道さんの目的はお金だったんだよね。それだったら叔父さんからこっそり聞いた遺書の内容おかしくない?」
・・・あぁ!そうか、お金は結局切道さんの手元に来なかったんだ。遺書に書いてある「上手くいった」の意味が通らない。
「・・・欠けちゃった。」



[黒6]
一通り文章を直して今日の仕事は終わった。伝票を持ってレジに向かうときに空女子たちの席の隣を通るとノートを広げて何やら悩んでいるようだった。先ほどの顔と同様、その顔をもまた馴染みがあった。ボツになった原稿を持って帰ってくる同僚たちの顔だ。その者達の中には記者をやめていった者も少なくない。
人には向き不向きがある。仕事も性格も人間性も全て才能で左右される。だから才能が無い者は諦める他ない。そしてそれが早ければ早いほどいいのではないか、と私は考える。
代金を払うために財布を取り出したとき、入口の近くの席に座った人物が立ち上がるのが気配でわかった。



[赤7]
「いや、切道の目的は達成してたんだ。だから遺書の内容は問題ない。」
顔を上げるとそこにはりゅうちゃんが。
「りゅうちゃん・・・私の話きいてたの?いつから?」
ついさっきだよ、と当たり前のように私の隣に座る。ポン、と私の頭に手を置いてくれた。悪かった、とぼそっと耳打ちをしてくれる。そんな二人のやり取りをおねぇ様が不機嫌そうな目で見ている。こわい・・・。
「だって切道の目的は、一億円を強盗させること自体だったんですから。初めからその金は爆発で散り散りにするつもりだったんでしょう。」
そんな目線に気づかずにりゅうちゃんが話を続けた。私たちも興味もそっちに戻る。
「強盗させることが・・・目的?」
「それって何の意味があるの?」
店員さんにホットコーヒーを注文してから静かに口火を切った。
「ここからはこじつけだけど、恐らく切道は金で金を隠したんだ。自分の悪事で失った金を強盗で。」
私は急いでメモの準備をした。



[黒7]
そういえば思い出した。つい最近、一度だけ『才能』に関して意見を述べていた男子がいたことを。ちょうどあのファミレスのどこかの席に座った男子二人。その時の会話を断片的に思い出す。「人には生まれ持っての才能がある」だの「その才能の使い方」がどうのこうのだの。いかんせん打ち合わせ最中だったので顔や風体は覚えていないが。そんなことを考えながら事務所に向かう道を歩く。今日は本当に思い出してばっかりの日だ。私も大概、忙しい。



[赤8]
「悪事で失った金って・・・まさか銀行のお金を使い込んでいたの?」
おねぇ様の質問にマグカップに口をつけながら頷いた。
「えぇ、恐らく。その額はわかりませんが恐らく100~200万程度でしょう。」
なんでそんなこと言える・・・そうか!
「保険会社から払われる保険金だ!」
「あぁ、被害額の一億円の中には切道が使い込んでいた金が含まれていたんだ。つまり強盗された金額はその差額の九千万前後だろう。あんまり額が違いすぎると強盗途中に犯人たちも金を渡す銀行員も気づくだろうし。」
私はノートに書いてある文字を見返す。銀行側のメリットは『保険金の一億円』、強盗の目的は『保険金を受け取ること』だったんだ。でも・・・
「爆発させるつもりだったっていうのは?」
「恐らく切道は強盗犯たちが車から離れるタイミングで爆発するように爆弾を仕掛けたんだろう。遠隔操作できなくても、時限タイマーぐらいは付けられるだろうし。」
強盗犯が正確な金額を確認する前に爆発させる。そうすれば一億円に足りないことを気づかない。しかし爆弾は逃走途中で爆破しちゃって結果四人とも死んじゃった。
「まぁ、こじつけだけどね。」
説明を完了したりゅうちゃんがメニューを見始める。
「ねぇ、りゅうちゃんはどうやって解いたの?」
メニューの間から指を二本立あげた。
「簡単なことだよ。今回の事件に関する情報は大きく分けると『ニュース』と『遺書の内容』、その二つだけだ。どっちが信憑性が高いかって言ったら、当然遺書だろ。改ざんされているかは警察が調べたはずだし、遺書の内容は正式には世間に広まってない。だから切道の遺書のないようを最優先に考えてみれば、ニュースの内容である『被害額一億円』『犯人が四人組』っていう方を疑っただけだよ。」
あぁ、またりゅうちゃんはいとも簡単。
「やっぱり、りゅうちゃんの才能には敵わないなぁ。」
テーブルに突っ伏した。ゴン!そんな私の頭をメニューで叩かれた。
「あんなぁ、才能なんて言葉に頼る気はないが、」
りゅうちゃんの顔を見た。いつもの目だ。
「オレの『こじつけ』もトラさんの『配慮』も、ちゃんとした努力の賜物だよ。」
努力の・・・賜物?
「才能の多くなんてそんなもんさ。作家の才能は誰かに読んでもらい続けるから、歌の才能は誰かに聞かれ続けるから、お笑いの才能は誰かの前に立ち続けるからこそ磨かれて、研ぎ澄まされて、誰かに認められんだろ。」
その目を私は知っている。いつもりゅうちゃんの『こじつけ』を聞いている時に向けてくれている目だ。
「トラさんはいろんな人の立場にたって考え続けたからこその才能だし、オレの才能はお前が話を聞き続けてくれたからなんだよ。」
そうか、私はりゅうちゃんの役にたってたんだ。今までずっと、そしてこれからも。
「今回の事件をお前は自分の才能を使って初めて解きかけたんだ。その才能、『抽象化』をもっと磨いてから勝つだの敵わないだの言えよ。」
「・・・うん。」
「あのぉ~私もしかして・・・邪魔?」
まずは目の前のおねぇ様をなだめることを努力しなきゃ!!!

contrast~abstraction~

半年ぶりでした。
前回までの話を読んでくれていた方が一人でもいれば嬉しい限りです。
一応後二、三話で終わらせるつもりで構想を考えています。
興味のある方は、何卒もう少しだけお付き合いください。

contrast~abstraction~

あらすじ 黒門流那(こくもんるな)と白戸空(しらとそら)は幼馴染で大昭大学に通う大学1年生で、二人だけの推理研究会に属している。 この推理研究会は大昭大学OGで現在は刑事の白都蘭(しらとらん)が創設したサークルであり、昔の未解決事件をファミレスの席で推理し合っている。 あくまで目的は事件を解決すること、犯人を捕まえることもしない。そんなただの自己満足サークル活動である。

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-15

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