シャボン玉
シャボン玉に写る世界と、君が見る世界はどちらが繊細で美しいのだろう。
「千年生きる大木にとって私たち人間の一生なんてシャボン玉が弾けるように一瞬で。でももしシャボン玉に感情があるのならば、人間にとっての一瞬はシャボン玉にとってとても長い時間なのかもしれない。」
そう言ってシャボン玉を吹きながら彼女は呟いた。
「なんで君はそう思ったの。」
僕は彼女に問いかける。
「シャボン玉を見ていて思ったの。シャボン玉に写る景色は私たちが見ている景色と反対に写るじゃない。きっとその世界がシャボン玉の世界なのよ。」
フワフワ宙を浮きながらシャボン玉は空へ向かっていく。
二つのシャボン玉がぶつかり合い弾けた。
「消えてしまったね」
僕は残念味を帯びた声で彼女に言う。
彼女はシャボン玉が浮いていた場所をただじっと眺めていた。
「ねぇ君は、今のシャボン玉は死んでしまったんだと思う?」
僕はうーんと首を傾げながら「消えてしまったし僕らの言う死と同じなんじゃないかな」そう答えると彼女は僕の目を真っ直ぐ見つめ言った。
「もし本当にシャボン玉だけが存在する場所がこのシャボン玉液が入ってる瓶の中にあるとしたらシャボン玉は外に出て景色を写し瓶の世界へと帰って行ってるんじゃないかしら?この瓶の中に私たちには見えない世界があるとしたら?それはすごく素敵なことじゃない?」
彼女は嬉しそうに笑った。
「私たちが住む地球にこんな綺麗な場所があったのね!」
そう言って彼女はシャボン玉液の入っている瓶を抱き締めた。
僕は彼女の世界に行きたいと思った。同じ世界に生きてるはずなのに彼女と僕じゃ見ている世界が違いすぎて、彼女の世界はもっときっと涙が出るほど綺麗で死にたくなるほど残酷なんだろう。
でも僕は彼女にはなれないから、だから彼女の一番近くで君の話す世界を真剣に想像するんだ。
シャボン玉