短編:俺と彼女
俺と彼女
学校帰りの電車の座席で、彼女は本を読んでいた。
そこには、既製とは違うブックカバーがしてあって、如何にも本が好きなんだなって思わせるものがあった。
実は俺も大の本好き。
彼女が読んでいる本のタイトルが気になる。
彼女が座っている斜めの角度に立っている俺は、さりげなく彼女の本を覗き込む。
誰かに見られたら、ストーカーと間違われるよなと心の中で苦笑しながら。
『素敵な自分になるには』
内容の中のサブタイトルらしきものが太字で書かれているのが見えた。
へえ、HOWTO本かぁ。
そんな風に見えないのにな。
見た目は、明るくて前向きそうな子なのに。
人って見かけじゃわからないもんだな。
そう言う俺だって、身長175cm、筋肉質なスマート、顔も中の上くらい、人には何不自由ないでしょって言われるけど、実は彼女の一人もいない。
男友達はそこそこにいるけど、女の子は苦手だ。
第一、何を考えているかもわからない。
大学は、とりあえず全国レベルで名前も通っているし、成績も悪くはない。
両親ともに健在で九州の田舎で普通に生活している。借金もなければ、悪い友達も居ない。将来的にもそこそこの会社には入れるだろう。まさに全てが、中の上のレベルなのだ。
なのに彼女がいない。周りの皆は首をかしげて、どこか悪いの?と聞いてくる。
悪い所なんて全くないし、毎日軽くランニングもしている。粗食の日々だが、身体には自信がある。ただし、金はない。
アルバイトは、週に5日のコンビニだけだ。両親からの仕送りは、アパート代と食費で消える。小遣いは、バイトだけが頼りの生活なのだ。
洋服はユニクロ。オシャレにはあまり興味がない。ただ、本代がかさむので、出来るだけ中古本屋で探している。時たま友達が読み終わった本をくれるが、どうも趣味が合わないらしく、イマイチだ。よって、最新の本はなかなか読めない。
そんな俺なんだ。女の子にはまるきり縁がない。見た目とは、多分全く違う…。
彼女の読んでる本の内容が気になった。可愛い顔をしてるのに自分に自信がないのかな?もしかして、俺と同類?
今俺の持ってる本は、『空を見ろ!』と言う小説と『モテル男になるには…。』
思わず顔が緩んでしまった。皆、そんなもんかな。
大学生は、人生の迷える世代か。誰もが悩むお年頃ってわけだ。
いつもギャーギャー騒いでる友人達もノー天気な顔をしながら、きっと心のどこかで、何かを悩んでるに違いない。
女の子は苦手で、声何かかけたことがない俺だが、今目の前に座っている彼女がどうしても気になった。
次の次の駅で俺は降りる。彼女に声をかけるなら、その間。
どうしよう、どうしよう。どうやって声をかければいいのだろうか。
学校では教えてくれなかったな。友人達や本の方の知識の方が今の俺には最も必要だ。「女の子への声のかけ方」誰か、本を貸してくれ。
次の駅が近づいた所で、彼女がそっと席を立つ。ヤバイ、次で降りるの?
すると、俺の横にいたお年寄りがその席へ会釈しながら座った。ああ、譲ったんだね。そうか、そうか。安心する俺。馬鹿だな。冬だと言うのに汗が出てきた。俺、いつもはこんなじゃないのに。
どうした?俺。
電車がスピードを落とし、ホームが見えてきた。彼女は、ドアの側に立って、やっぱり本を読んでいる。吊皮を握る手に汗が滲む。
ドアが開いた。彼女がするりとホームへ降りたつ。え?やっぱり降りるの?俺は思わず後に続いて降りてしまった。
彼女は、いつもの道を歩いて行く、俺は、初めて降りた駅で、彼女の後を追った。まさにストーカーだ。この俺が?
改札を出た所で、俺は一大決心、彼女に声をかける。
「お、お、おちゃでも、し、しません?」
振り向いた彼女が俺を見て、びっくりしたような顔をする?
「あ、あれ?幸田君?」
「え?え?恵理ちゃん?え~、恵理ちゃん?」
よくよく見ると、昔昔、幼稚園の頃、家が隣だった幼馴染の恵理ちゃんだった。
幼稚園の年中さんの時、お父さんの転勤で遠い町に引っ越してしまったのだ。
世の中、そんなに上手く話が行くのだろうか…。
「あれからもう15年くらいたつのに顔覚えたくれたたんだ。」
いや、忘れてた。今、思い出したとは、言えなかった。
「あ、いや、その、似てるな~と思って。」
「そっか~、嬉しいなぁ。まさかこんな所で会えるとは、思わなかったね。」
本当に好みの女の子がまさかの幼馴染だとは、思わなかった。
でも、俺は、実は幼稚園の頃、恵理ちゃんが好きだったんだ。
「そこにマックがあるんだ。寄ってく?」
「うん。寄ってく。」
「いや~、久しぶりだね~。幸田君。カッコよくなったじゃん。」
「恵理ちゃんこそ、モテルだろう。」
「あははははは~~。」豪快に笑う恵理ちゃんに俺は、また惚れ直してしまった。
男と女の出会いなんてこんなものか。
俺は、間違いなく女の尻に敷かれるな。でも、それでいいかもと思った。
その後、この話がとんとん拍子に進んだかは、あなたの想像にお任せする。 2013/2/13
短編:俺と彼女