ひとり娘と父
私は目の前の男を睨まずにいられなかった。
二十五年前の絢香の父のように。
あの日、私は彼女の父親と対座していた。
絢香は、病気で母を亡くして以来父親と二人きりで暮らしてきたのだ。
「娘さんと結婚させてください」
父親は私を睨みつけた。
「養子になれる男以外の結婚は認めない」
だが、私も家庭の事情でそれはできなかった。
「娘さんの幸福を本当に願うなら、彼女の幸福だけを考えるべきです」
若かった私は相手を睨み返し、偉そうなことを言った。
しかし結局、絢香は私よりたった一人の父親を選んだ。
そして今、私のひとり娘の陽菜を奪いに男が現れた。
「翔君とにらめっこしてる場合じゃない。 陽菜が遅刻するよ!」
妻が私の頭を引っぱたいた。
(了)
ひとり娘と父