電車でうたた寝
女性の甘い香りに包まれた夢を見ていた。
心地よい夢から覚め、俺は薄目を開ける。
電車の座席が見え、顔と体の左側が暖かい体温と柔らかさを感じていた。
どうやら隣席の見知らぬ人の肩を借りてうたた寝していたようだ。
甘い香りの正体は、この肩を貸してくれている女性のものだった。
体を起こし隣の女性に謝罪しなさいと、理性の天使が告げる。
しかし一方で、快感をもっと味わうのだ、と本能の悪魔が耳に囁く。
そして悪魔は天使に勝ち、俺はニヤケ顔にならないよう注意しながら寝たふりを続けた。
電車が停まり、乗客が入れ替わる。
「あら、その人彼氏?」
野太い男の声が聞こえ、耳元の人物からも野太い声がした。
「うふふ、違うけどいい気分よ~」
(了)
電車でうたた寝