ただいま
知人のSさんが亡くなった。
自分の車の中で練炭自殺したのだ。
仕事上で話す程度の仲だったが、
陽気で明るい人だったので自殺の理由が全く思いつかなかった。
仕事途中に俺は葬儀に立ち寄った。
疲れた姿の奥さんと小学生の息子二人の姿が痛々しかった。
Sさんとの共通の知り合いが小声で話かけてきた。
「ここだけの話なんですけど、あの人会社の金を使いこんでたらしいですよ」
「……」
人懐っこいSさんの顔と、知らなかった暗い裏の顔が重なり
やり切れない気持ちになった。
見ると、遺族を乗せた霊柩車が出発する所だった。
「ただいま」「お帰り」
家に帰ると妻と娘の返事が返ってくる。
いつもと変わらぬ平凡なやり取りが暖かく幸せなものに思えた。
(了)
ただいま