ネクタイ
「しつこいと警察呼ぶぞ!」
肩を押され、俺がよろよろと尻餅をついている隙に、 激しくドアが閉められた。
みじめだな。
美穂の家をあとにしながら、 最後に会った日のことを思い出す。
「綻んでるよ、私にまかせて、裁縫得意だよ」
美穂はネクタイを大事そうに受け取り笑った。
交際二ヶ月間とはいえ心が通いあっていると信じていた。
が、それから連絡不通になったのだ。
彼女の自宅を訪ねてみる。
「誰だ?」
不機嫌そうな中年男が顔をだす。
「娘は男と家を出ていったきり帰って来ない」
唖然として色々尋ねていたら、突き倒されてしまった。
駅前で見上げると青空が広がっていた。
これからどうする?
少し考えて、新しいネクタイを買いにいくことにした。
(了)
ネクタイ