三題噺「フライパン」「電撃」「かき氷」

「お待たせしました! 実況解説部の今北三行(いまきたみこう)のお送りする予算争奪バトル”マネーコロシアム”! 本日もスタートです!」

 その途端、体育館に生徒たちの歓声が爆発した。千人は収容できる体育館は熱気に包まれ、どの生徒の目も爛々と輝いている。その視線の先、そこには体育館中央に設置された白いリングがあった。
「本日の対戦は――料理格闘部(フードファイトクラブ)と寒中遊戯同好会(コールドプレイグループ)! 果たしてどちらが勝つのか! 勝負の行く末をその目に焼き付けろ!」
 アナウンサーの一言とともにリングの左右がスポットライトで照らされる。舞台に向かって右手には直径一メートルの大きさのフライパンを持つ少女が、そしてリングを挟んだ反対側にはぶかぶかのダウンジャケットを着込んだ少年がかき氷を食べながら立っていた。
「赤コーナー! 今日は相手をどう調理する! 料理格闘部!」
 フライパンを持つ少女がお下げ髪を揺らしながら眼鏡を光らせる。
「続いて青コーナー! やはり暑いのか? 俺も欲しいぞかき氷! 寒中遊戯同好会!」
 熱い観客の視線に耐えられなくなったのか小柄な少年はフードを目深にかぶる。

「それでは両者、中央へ! 勝てば相手の予算を総取りバトル、レディーファイト!」

 それは一瞬だった。アナウンサーの号令とともに少女の姿が消えた。気付いた時には巨大フライパンが唸りを上げて少年の頭部を打ち抜いていた。鈍い嫌な音がした。少年の体はリングに倒れ、少年の頭がリングの端へと飛んでいく。リングの近くにいた女子生徒からは悲鳴が上がった。
「……い、一体何が起きたんだぁぁぁー! 瞬殺! まさに瞬殺です! これは勝負あり……いや、ちょっと待ってください!」
 少女は目を瞠る。吹き飛ばした少年の頭が氷の塊だったからだ。少年がムクリと立ち上がる。ダウンジャケットからはいつの間にか氷柱がいくつも生えていた。
「なんと、氷柱です! 寒中遊戯同好会、あの攻撃を氷柱で受け止めていたぁぁ!」
 攻撃を防がれた少女は負のオーラを濃くしていく。少年は沈黙を守っている。
『ヒートタイム』
「おぉっと、どうしたことだ料理格闘部! ここでもう勝負をつけに来るのかぁぁ!」
 小さな電子音声とともに少女のフライパンが熱気を持ち始める。
 少女がフライパンを握る手にはグローブがはめられている。それはIHヒーターの原理を応用し、フライパンに膨大な熱量を注ぎ込むことで超高温のフライパンでの攻撃が可能としていた。
「……私のフライパンは真っ赤に燃える。一撃必殺――ヒートプレススマッシュ!!」
 迫る少女に対して、少年は動かない。代わりにダウンジャケットからおびただしい数の氷柱が生えだす。
『アイスジャケット』
 超高温のフライパンと、超低温のアイスジャケット。リングでぶつかり合った瞬間、体育館はすさまじい量の水蒸気に包まれた。
「ど、どっちだ! どっちが勝つんだぁぁ!!」
 アナウンサーの混乱した声が響く。

 リングにフライパンが落ちる音がする。水蒸気が晴れた中で少女は立っていた。グローブは超高温でただれ、隙間から見える手のひらは酷い火傷を負っていた。少年もまたリングに立っていた。氷柱ごと吹き飛んだのか少年はジャケットを着ていなかった。
 その姿を見て、少女はすぐさまフライパンを拾おうとした。しかし少年の方が早かった。
『……さんだぁー』
 直後、リングがまばゆい光に覆われる。体育館に少女の絶叫が響き渡る。
 光が収まったあと、リングに唯一立っていたのは全身ゴムスーツに身を包んだ少年の方だった。
「な、なんと電撃だぁぁ!! 最後の決め手は電撃! 水びだしのリングを読み切った寒中遊戯同好会! 見事勝利です!」
 息を飲んで勝負を見守っていた体育館が、再び大音量の歓声に包まれた。

三題噺「フライパン」「電撃」「かき氷」

三題噺「フライパン」「電撃」「かき氷」

「お待たせしました! 実況解説部の今北三行(いまきたみこう)のお送りする予算争奪バトル”マネーコロシアム”! 本日もスタートです!」 その途端、体育館に生徒たちの歓声が爆発した。千人は収容できる体育館は熱気に包まれ、どの生徒の目も爛々と輝いている。その視線の先、そこには体育館中央に設置された白いリングがあった。 「本日の対戦は――料理格闘部(フードファイトクラブ)と寒中遊戯同好会(コールドプレイグループ)! 果たしてどちらが勝つのか! 勝負の行く末をその目に焼き付けろ!」

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-10-31

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