海

世界で一番汚い生き物は人間だけど、僕たちは人間を愛さずには生きられない。

「外から見た地球は青くてとても美しいなんて言うけれど、
地球上には汚いものが溢れかえっているのにね。」
ふと思いついたかのように彼女は言う。
「地球の外から見たら美しいに決まってるじゃない。汚染された空気は目に写らないものだし、人間だって外からじゃこれっぽっちも見えない、この星で一番汚い生き物は人間だもの。それが見えないから美しいなんて言えるんだわ。」
彼女はそういうと履いていたサンダルを脱ぎ、目の前に広がる海へと歩いていく。
僕はそんな彼女の後ろ姿を眺めながら
「君もそんな汚い生き物の一人じゃないか」
なんて悪態をつく。
彼女は振り返ってこっちを見ると僕に向かって手招きをした。
僕も彼女と同じように靴を脱いで彼女の元へ歩いて行った。
「君は人間が嫌いなのかい?」
僕の問いかけに彼女は笑って答える。
「好きよ。」
じゃあなんで、僕が問う前に彼女は続ける。
「一番汚い生き物は人間だと思うわ、言葉なんて素敵なものがあるのに理解し合えなくて殺しあってしまう。人間が知能なんてつけてしまったばかりに、綺麗だったはずの海や空気は汚れ、他の生き物はたくさん死んでしまった。
だけどね、人間が生まれたから言葉が生まれ、愛が生まれたんだと思うの。だから一番汚い生き物は人間だけれど、人間は素敵な生き物だとも思うわ。」
彼女は足元にあったガラスを拾い上げ、太陽にかざす。
「こんな綺麗なガラスだって一つ間違えればなにかを傷つける凶器になるのよ、言葉だって同じだわ。言い方を間違えれば言刃になるのよ。」
僕は風になびく彼女の髪を眺めながら聞いてみた。
「僕は汚いかい?」
彼女は僕の頬を優しく撫でると言った。
「汚いわ。」
と言って手に持っていたガラスを海へ投げた。
「投げちゃっていいの?」
「波に流されて色んなものにぶつかって角が削れていつかは丸いガラスになるの。
それを拾ってアクセサリーにしたり、雑貨なんかの一部にしたりする人がいるから平気よ。」
僕は黙ってガラスが投げ込まれた辺りを眺める。
「貴方は汚いけど好きよ、とても。」
彼女はポツリと呟く。
僕は何も言わずただ彼女の手を握り海を眺め続けた。
僕と彼女の間には波の音だけが響いていた。

初めての作品です。

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更新日
登録日
2014-02-13

CC BY-NC-ND
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