鑑賞記録-映画「メメント」より
2000年、クリストファー・ノーラン監督。
事実と真実は似て非なるものである。あれよあれよという間に、まんまと主人公の男レナードと「メメント」という映画に騙された。記憶に新しいところでいうなれば1999年「シックス・センス」や2009年「シャッターアイランド」のような極めて爽快な、想定の転覆、どんでん返しがはかられる。
新規の記憶がわずか10分で失われてゆく男。彼が、レイプされ殺害された妻の無念と己の記憶喪失障害(もこの事件でもたらされた障害)に片をつけるべく、犯人捜しに奔走する。構成としてはなるほど、冒頭に結末を白日へ晒す。そうして記憶の断片を遡るように経緯を逆行することで、結末を読み解こうとするありふれた意識でなく、溢れかえった情報の意味を理解しようと努める楽しみが生まれた。疑問が段々と紐とけ鮮明になってゆく爽快感。レナードさながら記憶喪失状態の疑似体験のようにも感じられ、謎解きの観点からしても非常に新しいものだった。また秀逸なのは、時間軸の“遡り”が安易な回想でないことだ。慢性的な記憶障害者を中心に据えることで至極まっとうな手法に仕立て上げられている。
とまあ、物語に従順に観客席へ座していれば、まんまと仕掛けられた罠にずぶりずぶりはまっていった次第である。そもそも彼の記憶をたどりながら鑑賞する姿勢が間違いであったか。と、気付いたころには時既に遅し。猜疑心ばかりが膨れ、真実とは何ぞや、明らかになればなるほど記憶に対する信頼が揺らぐ映画である。
鑑賞記録-映画「メメント」より