薬漬け人生

世にも奇妙な物語的なのを書きたかったんですけど、全然それっぽくないです。まあ、初心者なんで勘弁してください。

 会社からの帰り道、俺は家まであと1キロほどの道のりを歩いていた。あたりは薄暗く、肌寒い。今日も仕事でミスを連発し、上司である山田部長にこっぴどく怒られた。
それはいつも通りのことなのだが、怒られ慣れてきてしまっている自分がなんだか情けないと最近感じる。
会社、辞めようかな。俺にはプログラマーなんて向いてなかったんだ。どうせ俺なんて頭の回転は遅いし、物覚えだって悪いし。もう少し頭がよく生まれてきてたら、人生変わってたのだろうな。そんなネガティブなことを考えながら、とぼとぼと歩いていた。
高校生の頃パソコンをちょっといじったり、ネットサーフィンが趣味だったぐらいで情報系の専門学校に入学した。そして大して真面目に勉強もせず、資格もろくに取らなかった。卒業できたのはいいものの就職先は超絶ブラックなIT企業。残業代もろくでないのに毎日終電まで働かされる。今日だってそうだ。
このまま死ぬまでこき使われるんだろうか。ホントしょうもないな、俺の人生……。わかってるけど、どうすることもできない。今日は気合入れて頑張ろうとか思ったりもするけれど、そういう日に限って逆に空回りしてしまう。頑張ったってどうにもならないんだ。
家までは後10分もかからないが、気晴らしにラーメンでも食べに行きたい気分になり、いつもと違う道に曲がった。
平日は仕事が終わるとまっすぐ家に帰ることが多く、休みの日はとくにどこかへ出かけるわけでもなく家でたっぷり寝て仕事の疲れをとる生活。たぶん俺は一生一人暮らしだろう。結婚する相手もいないし、そもそもそれほどしたいとは思わない。
ラーメン屋を探してしばらく適当に歩きまわっていた。普段は通ることのない道を歩いていたので、目に入るものすべてが新鮮だった。あたりを見回しながら歩いていると『なんでも薬局』と達筆で書かれた木製の看板を発見した。そしてそのすぐそばにかろうじてお店とわかる小さくて古そうな建物があった。窓から明かりが漏れている。中に人がいるようだ。不気味なオーラを放っていたが、少し気になったので覗いてみることにした。
もうすぐ日付が変わるというのに、こんな時間まで営業しているのだろうか?そもそも『なんでも薬局』ってなんだろう?
引き戸式のドアを開けて店の中にはいった。店内は電球色の蛍光灯で照らされていて、オレンジ色である。コンビニよりやや狭いくらいのスペースに棚が並べてありそこには様々な種類の薬と思われるものがたくさん置いてあった。そして引き戸から3メートルほど前にあるカウンターから50代くらいと思われるおじさんがひょっこりと顔を出した。
「いらっしゃい、なんの薬が欲しいんだい?」
 おじさんが元気な声でいきなりそう言った。
 「あ、いえ。ちょっと珍しいなと思って覗いてみただけなんです」
 「けっ、なんだ冷やかしかよ」
 おじさんが不機嫌そうな顔になったので、俺は何か買わなくてはいけないなと思った。ゆっくりとカウンターの前まで歩きながら聞いた。
 「どんな薬が売っているんですか?」
 「どんな薬でも売ってるよ、どこが悪いんだ?」
 「そうですね、しいて言うなら頭ですかね」
俺は軽い冗談のつもりで言ったのだが、おじさんは無言でカウンターの後ろにあった戸棚の中をガサゴソと探し始めた。俺はその後ろ姿をしばらく見守っていた。
もしかして、ホントに頭の良くなる薬があるのだろうか?だとしたら願ったりかなったりだが。
少しだけうきうきしながら待っていると、おじさんは一辺が5センチメートルほどの正方形の封筒のようなものを取り出した。
「ほらよ、頭にいい薬だ。これで一か月分、料金は3万円だ」
 おじさんはそう言って封筒を俺に差し出した。どうやら中に薬がはいっているらしい。だが、3万というのは高過ぎないか。それになんだかうさんくさい気もする。
「少しまけてもらえませんかね? 本当に効くかどうかもわかりませんし」
「バカ言うんじゃねえよ! うちは本当に効く薬しか売ってねえ。買う気がねえのならとっとと帰ってくれ」おじさんはかなり不機嫌な顔になっていた。
「ちょっと待ってください」
俺はまいったなと思いながらカバンの中から財布を取り出し中身を確認した。万札3枚と小銭が少し入っていた。銀行にいけばまだいくらか貯金がある。買えないこともない。うさんくさいと思いつつも、信じたくもあった。
このまま何もしないでバカなまま人生を終わらせるのはいやだ。前々から思っていたことだ。それに俺は昔から努力することが何よりも苦手だった。薬を飲むだけで頭がよくなれるのなら3万円なんて安いものじゃないか。
「その薬、買います」
俺はそう言って、封筒を受け取ろうと手を伸ばすと、おじさんはうれしそうに言った。
「お、買うか。いい判断だ。」
よほど自分の売っている薬に自信があるようだ。きっとよく効くんだ。そう信じよう。
 おじさんに礼を言って店を出た。ラーメン屋には寄らず、まっすぐ帰宅した。お金がなかったし何よりも買った薬を早く試してみたかったからだ。
 封筒の端っこを丁寧にはさみで切り取り、部屋のテーブルの上にその中身を出した。中には四つ折りにされた紙と小さくて白い錠剤が30錠入っていた。紙を開いてみると『SGD 30錠(一か月分) ※副作用があっても責任は一切負いません』とだけ書いていた。
なんだか、うさんくさいし無責任だな。SGDというのがこの薬の名前なのだろうか?聞いたことないな。
 気になったのでパソコンを立ち上げてインターネットで『SGD』と検索してみた。すると様々な情報が集まった。
 どうやらSGDというのは「Super genius drug」の略。直訳すると「超天才薬」だ。薬を買った人のほとんどが『なんでも薬局』かららしい。全国各地にあるチェーン店なのだろうか。そうは見えないけど。『なんでも薬局』と検索してみたが、あの店らしき情報は何も出てこなかった。
そしてこの薬には副作用がある、らしい。ネットの掲示板にあった噂だ。一日一粒、毎日飲み続ける。最初の一週間は頭痛や吐き気など人によって様々な副作用が出ることが多いようだ。眠れなくなったり逆に突然強烈な眠気に襲われたいと、その症状は人によって本当にさまざまらしい。性格が変わったり、精神的におかしくなり発狂してしまった人もいるという。あくまでネット上の掲示板の情報なので信憑性には欠けるが、恐怖を感じざるをえない。
 だが実際に効果が出始め頭が格段に良くなったというような書き込みも多く見ることができた。本格的にその効果が出始めるのは、飲み始めてから最低でも一か月はかかるらしい。そしてやっかいなことにその効果は飲み続けなければ保てないという。
副作用は怖いが、今までのような情けない生活を続け、しょうもない人生で終わるのは本当に嫌だ。この薬に俺の人生を賭けようじゃないか。
俺は錠剤を一錠取り出して口の中に放り込み、勢いよく水で流し込んだ。当たり前だが飲んですぐには何も起こらなかった。
その後の3日間も今までとそう変りない生活を送っていた。だが4日目の夜ついにそれはやってきた。
頭が重い。痛いわけではないのだが今までに感じたことのないほどのだるさを感じた。何もやる気が起きない。残業の途中だったがパソコンの前に座っているだけで何もできな かった。強烈な眠気も襲ってきて起きているのがやっとの状態だ。これが副作用だろうか。        見かねた山田部長が「今日はもういい、帰れ」と言ってくれたので帰宅することにした。
家に帰ってご飯も食べず、すぐに就寝した。だが朝になってもだるさも眠気も取れなかった。そしてその副作用はその後も数週間続いた。会社では今まで以上ミスを連発し山田部長に怒られっぱなしだった。
あの『なんでも薬局』のおじさんやっぱり俺を騙しやがったんだな。頭がよくなるどこらか、眠気やだるさのせいで集中力がなくなり仕事もろくにできなくなってしまったじゃないか。薬はもう少しでなくなる。ずべて飲みきってもよくならなかったらあのおじさんに文句を言いに行こう。
案の定、一か月分の薬をすべて飲みきっても頭がよくなることはなかった。そしていつも通り残業を終えて帰宅する途中、一か月ぶりに『なんでも薬局』によることにした。
『なんでも薬局』はもうすぐ日付が変わるというのに、俺が初めて行った時と同じように明かりがついていてまだ営業しているようだ。
ドアを開けて中に入ると、カウンターにあの時のおじさんがいた。
「お、やっと来たか。待ってたよ」
おじさんはまるで俺が今日ここに来るのがわかっていたかのようにそう言った。   「おじさん、俺を騙したんですね?ちっとも効かないじゃないですか、あの薬。それどころか頭痛やだるさ、眠気が取れなくて生活はもうめちゃくちゃになりましたよ」
「お、その副作用が出始めたのはいつごろからだ?」
「たしか飲み始めてから4日目くらいからですよ。それがどうしたんですか?」
 おじさんはそれを聞いてにんまりとうなずきながら言った。
 「それだけ早くから副作用が出ていれば、きっともうすぐ覚醒するさ。そうだね、あと一週間ってとこかな」
 そう言うとおじさんはカウンターの後ろの戸棚から正方形の封筒を取り出した。
 覚醒するとはどういうことなんだろう?効果が出るのはまだこれからとでもいいたいのだろうか。文句を言いに来たのに自信たっぷりに返されて、なんだが腹が立った。
 「薬はもう、買いません」
 「はあ?もったいない。3万円も出して、つらい副作用にも耐えてきたのに全部無駄にしちゃうなんて。まあ、俺には関係ないけどね。まあいいや、買わないのならとっとと帰んな」
 おじさんは呆れたように言った。
 全部無駄、その言葉が胸に響いた。結局俺は何も変わってないままじゃないか。もうすぐ、あと少し耐えるだけで本当に変われるのなら、今までの生活から抜け出せるのなら、続けないのはバカじゃないのか。そう思った。だが全部嘘なら、騙されるのはごめんだ。
「ちょっと待ってください」
 俺はカバンの中から財布を取り出し中身を確認した。万札が1枚も入っていいなかった。今すぐ薬を買うという選択肢がなくなり残念なようで、少しほっとしたような気もする。
「お金ないので、今は買いません。また今度買いに来るかもしれませんし、もう2度とこないかもしれません」
 そう言って俺は立ち去ろうとしたが、おじさんが引き留めた。
「君はもうすぐ覚醒するからね、今日は代金はいらないよ。一か月分持ってきな」
 そう言ってSGDの入った封筒を俺にくれた。
「ただし、次からSGDを買うときは一か月分9万円に値上げする。今やったぶんで覚醒しなければ、もう買いに来なければいいさ」
 俺がまた買いに来るという自信があるのだろう。おじさんはめずらしく笑顔だった。
 おじさんに礼を言って、帰宅した。そしてさっそく今日の分のSGDを飲んだ。相変わらず何も起こらないが、おじさんが嘘をついてるとはもう思えなくなった。
 その後一週間もまた、つらい副作用とたたかいながら日常生活を送った。慣れてきたせいか、仕事のミスは徐々に減ってきた。
そして初めて薬を飲み始めてから38日目の夜、ついにそれがやってきた。
会社から帰宅してからベットで横になって目を閉じていると、頭がぼおっとしてきた。ベットが小刻みに揺れているように感じる。地震だろうか、それにしては静かだ、気のせいだろか。目を開けた瞬間耳鳴りがした。それも今まで聞いたことのないようなものすごい騒音。まるで耳の中で竜巻でも発生しているような爆音だ。上半身を起こそうと腕に力を入れようとしたが、全く動かない。そして身体全体がものすごく重たく感じ、動かすことができないことに気付いた。金縛りだろうか。幽霊か得体のしれない何かが自分の体をのっとってしまうのではないかと思った。
 何が何だかわからなかったが今まで味わったことのない経験だったのでただただ恐怖で怯えていた。だが次第に意識は薄れていき、俺はいつの間にか眠っていしまった。
 次の日はめずらしく朝すっきりと目が覚めた、頭痛とだるさは相変わらずだったが眠くはなかった。そして何かかが今までとは明らかに違うことに気が付いた。なんだか脳みそがフル回転しているような気がする。
 会社で仕事を始めるとその違いは明らかだった。いつもは残業しても終わるかどうかという仕事量が午前中に2時間ちょっとで終わらせることができた。山田部長もあまりの俺の仕事のできように、驚きを隠せないようだった。どうやら俺は覚醒したらしい。
 その後の俺の人生は成功続きだった。頭がフル回転しているおかげでなんでも要領よくこなすことができた。仕事だけじゃなく、周りの人間関係もすべてうまくいった。とてもかわいらしくて優しい女性に恋をし、お付き合いすることもできた。そんな生活を続けないわけはなく、俺はSGDがなくなるたびに『なんでも薬局』に行き9万円を払ってSGDを買い続けた。
 そして覚醒してから3か月ほどで超絶ブラック会社を辞め、自分で会社を立ち上げた。その会社は順調に業績を伸ばし、社員1000人を抱える大きな会社へと成長した。そして俺は9万円なんて全く気にならないほどの莫大な収入を得られるようになった。
 すべてがうまくいっている。ただ一つだけ気になるとすれば副作用の頭痛とだるさが一向によくならないことだけだ。そのせいでとても幸せなはずなのにいつもイライラする。
 ある日、俺は薬がなくなったので『なんでも薬局』に行き、いつものようにSGDを買うついでにおじさんに聴いた。
「おじさん、この薬本当に良く効きますけど副作用があって大変なんです。副作用がなくてもっといい薬ないですかね?」
「おい、無茶いうなよ。本当によく効く薬っていうのは副作用がつきものだ」
おじさんはそっけなくそう答えた。
「そうですよねえ。」
 そう言って俺は立ち去ろうとしたが、おじさんが引き留めた。
「だが、SGDの副作用を抑える薬ならあるぜ、一月分で100万円の高級品だけどな。君は副作用でイライラしているだろうから一日分ただであげよう」
 100万円というのはいくら俺が稼いでいるとはいえ高すぎないだろうか。しかしその薬を一日分ただでくれるなんて気前がいいな。
 おじさんはカウンターの後ろの棚から薬を一粒の赤い錠剤を取り出し俺にくれた。そして店の奥からコップにいれた水を持ってきて言った。
 「飲むか飲まないかは君しだいだがな」
ただでくれて水まで持ってきてくれたのに飲まないわけはないだろうと思い、俺はもらった赤い錠剤を口に放り込み差し出された水で流し込んだ。
そして礼を言って店を出た。家までの道を歩いているとき、ふと頭痛とだるさが全くなくなっていることに気が付いた。効果が出始めるのにもっと時間がかかると思っいたので俺はとても感動した。この感動をおじさんに伝えたいと思い、店に小走りで戻った。
「おじさん、あの薬本当によく効くのですね。もうSGDの副作用なくなってびっくりですよ」
「お、そうなんだよ。あの薬本当によく効くんだよ。でもよく効く薬には副作用がある。そう言ったよな?」
「え?あの薬にも何か副作用があるんですか?」
俺の質問におじさんはニコニコしながら答えた。
「もちろんあるさ。あの薬を1度飲むと24時間以内にまたあの薬を飲まない限り死ぬんだ。つまり君はあの薬を今後毎日飲み続けないと死ぬ」
おじさんは今までにない不気味な笑顔でそういった。


                 完

薬漬け人生

とりあえず初投稿です。これからもがんばります。

薬漬け人生

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-12

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