Ein Mädchen

プロローグ

ここは東京新宿区のど真ん中。どでかいビルが建ち並ぶ中、そのビルとビルの間にあるちっぽけなプレハブの建物がある。それが俺らの事務所だ。

外から見たら、完全に廃屋だ。よく、近所の小僧たちが肝試しだとか、何とか言ってうちに来ることがある。でもその子供たちは、うちに入る前にすぐにどこかへ行ってしまう。まあ、うちも仕事をしに来ているんだから小僧がくるのも面倒だしありがたいんだけど。

あがってきたところでなんにも楽しいものもない。長い机が一つと、パソコンが一台。それに、生活するのに必要最低限のものが置いてあるだけ。お風呂とトイレとキッチンが一つずつ。どこからどう見ても普通の事務所の一室だ。おばけが出る要素なんぞ一つもない。

そうだ、このおれらの話を聞いてもらう前に、一つだけ知ってもらわないといけないことがある。俺らの仕事についてだ。

仕事って言うと、農業、工業、産業、サービス業、といろいろあるわけだが、俺らの職種はこれらに当てはまらない。なんていうか、超特殊なんだ。しかも、俺らの仕事にはお金が入らない。人からお金を取ることができない仕事。つまり、世間で言うボランティアに近いところがある。だから、こんなおんぼろ事務所で働いている。まあ、普通なら経営破綻してるのだろうけれど、いろいろあって何とかやりくりできている。この特殊な仕事は、まあ簡単にいうと、

「人間」は相手にしない。

まあ、厳密に言うと、現在進行形の人間は相手にしない。俺らが相手にするのは「人間」だったものだ。
「人間」だったもの。いわゆる霊に対して、俺らは手を貸す。例えば、やり残したことがあってこの世に残っている霊の手助けをしたり、凶悪な霊を強制的に向こうの世界に送り込む。まあ、とにかく何とかして向こうの世界に還ってもらうのが俺らの仕事。

だからさっきも言ったけれどお金ももらえない。でも、どこかボランティアとは違う。

俺らの、仕事の本当に一部だけ。一部だけこれから話していこうと思う。

少女は闇とともに去りぬ

静かな夜。

街は黒に沈んで。

街灯の冷たい光だけが黒のなかに浮かんでいる。

少女は、彼の後ろを歩いた。

どんなに一生懸命に歩いても、

彼に追いつくことはできない。

なんで、見てくれないの

彼女は言う。

しかし、彼は振り向かない。

なんで、聞いてくれないの

彼女は言う。

しかし、彼は耳を貸そうとしない。

彼女は彼に手を伸ばした。

なんで、感じてくれないの

彼女の手は彼の腕をつかみ、

そのまますり抜けていった。

彼女は静かに涙を流して

そんなに、私が嫌いなら、

死んでしまえばいいのに

彼女は彼の首に手を回す。

今度はすり抜けることもなく。

しっかりと。




夜の公園は割と好きだ。

昼間みたいにうるさい母親たちはいないし、まぶしい太陽も沈んでくれる。チンピラや学生のカップルがいない限りは、最適な場所。
そんなお気に入りの場所を小さくスキップ。

「月が綺麗だね。こんな夜はお月見がしたいや」

夜の中に喜遠の声が溶け込む。

『お月見は、すすきが揺れてるからお月見なんだろ。そんな枯れ草しかない時期に月眺めてもしょうがねえだろ。』

電話の相手が、喜遠の独り言に鋭く突っ込む。

「いいじゃん!お月見なんだから月さえ見られたら。っていうか他人の独り言に首突っ込まないでよ。」

喜遠は空をみた。やっぱり星は綺麗だ。

『そうじゃなくて!ヤツは見つけたのかよ!さっさと見つけてくれよ』

そう、別に喜遠は散歩をしている訳じゃない。喜遠は、ここにいてはならない者を探しているのだ。

分かってるよ、と小さな声で呟くと携帯を閉じて、喜遠は目を瞑り、耳に全神経を集中させる。彼は、仲間たちの中では一番霊に敏感で、どんなに相手が気配を隠しても見つけ出してしまう。

「いるよ、公園の噴水の前。」

携帯を開いてリーダーにメールを送る。さっきブチ切りしちゃったから怒ってるかな、なんて考えてたら電話の着信音がなって怒鳴り声がした。

『なんで突然切るんだよ!驚くじゃねえか!』

「ごめんって!メール見てくれた?」

『ああ。やっぱり強そうか、男が絞め殺されかけたんだからな。よっぽどがたいがいい霊だと』

「それがねリーダー…」

自分の目の前にいるのは、

か細い女子高生だった。

Ein Mädchen

まだ、途中なので順次更新しようと思います!

Ein Mädchen

明石、喜遠、天音、鞍馬 の四人がしている仕事はとても特殊である。 それは、幽霊を扱う仕事。 幽霊をいるべき場所に返してあげるというなんとも不気味な仕事をこなしていく4人の奇妙なお話。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-10-30

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