そして私は大人になる

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 年の瀬になってようやく氷の張った田んぼを見つけた。いや、本当はとっくに見つけていたのかもしれない。ただ、私が意識していなかっただけだろう。

 センター試験まで残り百日を切った今日、ふと、昔通ってた小学校を見たくなった。何もない田舎の、さらに何もないところ。山間の道を行き、畦道のような農道を通って、自宅から徒歩三十分。小学生の足ならそれ以上。周囲は全て田んぼ。本当に何もない、それでも楽しかった場所。

 そう、昔は気象庁よりも早く氷を見つけた。地面に生える草花の芽吹きも、誰よりも早く見つけたものだ。落とし物もよく拾って、駐在さんに届けてた。汚れた軍手とか、十円玉とかばかりで、よく困らせていたけど。
 雪が降っても憂鬱にならなかった。どう学校に行くかは考えたけど、今みたいに手段ではなく、どう遊びながら行くかだった。寒さに文句なんて言った覚えがない。忘れてるだけかも知れないけど。

 多分、大人になるって下を向かなくなることだと思う。ポジティブな意味ではなく、足元に目がいかないって意味で。
あの頃は何でも面白かった。落ちてる小石の形すらも、何か特別なものに見えたから。

 センター試験まで残り僅か。志望校は都内の中堅大学。親も教師も納得済み。だって無難なところを選んだから。
 でも、それでいいのだろうか。分からない。全く分からない。だって、大学生の自分の姿が分からないから。自分の未来像なんて、今の今まで考えたことなかったから。

 あの頃は未来なんて何となくでよかった。それよりも足元にあるものを考える方が忙しかったから。でも、もう漠然とした未来像で納得していた昔みたいにはいかない。昔みたいには。

2

「お帰り。どこいってたの」
「散歩」
「そう。おじいさんに挨拶は」
「今から」

 お母さんとの会話は、最近ではいつもこんな感じ。あっちは受験の私に気を遣って、こっちはお父さんと喧嘩中なお母さんに気を遣って。なんだか他人みたい。

 手を洗い、仏間に向かう。仏前に座り、線香に火をつけ手を合わせる。
 二ヶ月前、老衰で天寿を全うしたおじいちゃん。今際の際で「愛子の将来は、あっちでじっくり見るとしよう」という言葉を残して、旅立った。
 私の将来ってなんだろう。昔だったらすぐ答えられた。お花屋さんだったり、歌手だったりと、毎回毎回違ってたけど。でもそれは夢であって、将来ではない。あまつさえ、今はその夢すら答えられない。明日の自分は思い浮かべられるけど、四月の自分は霧掛かっている。

 夕食を食べていても、勉強していても、ベッドの中にいても、霧の向こう側を考えている。
 私は一体何をするのだろうか。それも分からないのに、勉強なんて意味があるのか。

そして私は大人になる

そして私は大人になる

大学受験を控えた愛子は、亡くなった祖父の言葉を切っ掛けに将来について考え始める。 過去の自分、両親、友人を通して大人になるとはどういうことかを考えるのであった。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-09

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