戦士と毛布と不味いココア

ココアは牛乳で作るべき

「あ……」
パソコンの電源が突然落ちた。充電切れ。
猫のように丸めた背中を伸ばして、同時に大きく欠伸をする。もう一度同じ姿勢に戻った。
「せっかくいいとこやったのに……」
南向きの大きな窓からは夕日になるにはまだちょっと早い太陽がキラキラ差し込む。日曜の15時半。無料で視聴することのできるサイトで、3年前に流行ったアニメを観ていた。制服を着た可愛い女の子が大きな剣を振り回して悪者を退治するアニメ。別に何が面白いってことではない。ただ、なんとなく。目に留まったから。ため息を一つついた。

目下の心配事は、1時間前に干したばかりの毛布がちゃんと乾くかどうか。これが乾かなかったら、今晩は凍えながら寝る羽目になる。それだけは勘弁。せっかく治ったインフルエンザが再発するかもしれない。いや、インフルエンザは再発しないだろうが、風邪をひく恐れがある。それだけは勘弁。これ以上仕事は休めないんだから。最悪乾かなかったら、室内乾燥で乾かすしかない。そう決意したと同時に、予備の毛布がクローゼットの中に入っていることを思い出した。
いや待て。面倒くさいだろう、わざわざ出すの。乾け。念じた。

水で作ってしまった不味いココアを口に含み、パソコンの充電器を取りに行くために立ち上がる。別に続きが気になるとか、そういうのではない。ただちょっと中途半端なところで終わってしまったから、気持ち悪いだけで。別に続きが気になるとか、そういうのではない。パソコンとコンセントを繋いで電気を補充。充電。パソコンの充電マークがオレンジに光る。
もうすぐすると再起動するぞ……、ほら付いた。
ごく当たり前のことに、少しだけ誇らしくなる。どうだ、私の思った通り画面が付いたぞ、どうだ、と。
先ほどのページが復元したので、再度再生する。マウスから手を離し、三角座りで、観る。

結局、この一週間インフルエンザにかまけて、仕事をしないといけない理由を考えていたが、答えは見つからなかった。実家に戻れば稼業も継げるし、洗剤を売る仕事だって私を待っている。それなのに、なんでこんなところまで来て、華の金曜日も満喫できず、土日も家に引きこもり、仕事はやりがいもなく。本当に理解ができない。仕事する理由を探すために、いろんな漫画を読んでみたけど、そんなところに答えなんかあるはずもなく。答えなんて、自分の中にしかないことぐらいわかっているのに。やたらと強い気持ちを持って自分の中の何かと戦っている主人公や、その主人公に救われながら戦う脇役たち。
結局、弱い自分を盾にして、仕事をする理由を探したり、華の金曜日を満喫できない理由を他者のせいにしたり。自分が変わろうとしていないことだけを、十分に理解できた。
ああそうか。
だから剣を振り回して敵を倒す女の子に、目が留まったのか。
何にもない自分が嫌で、何にもない自分を変えたいのに、変わるのが怖い、面倒だ、と行動にもうつさず、ずっと頭でっかちに理論ばっか考えている自分がもっと嫌で。だから、目に留まったのか。

画面の中では、悪者を退治し、血まみれになりながらも勇敢に戦った女の子が笑っていた。

バカみたいな人生だな、私の人生は。冷え切った不味いココアを飲み下し、窓の外を見た。先ほどよりも日が傾いている。風に揺れている毛布もある。

「ちゃんと乾いてや…マジで…」

戦士と毛布と不味いココア

戦士と毛布と不味いココア

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-09

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