ちょっとここらでひと推理 プロローグ
プロローグ
人物
・ 如月 迅 (きさらぎ じん) 栃木の警察署に転勤してきた新人刑事。 やる気はあるが、まだまだ半人前。
・ 神無月 恵 (かんなづき めぐみ) 栃木の警察署に転勤してきた刑事。かなりのギャル刑事。
・ 小山田 尊志 (おやまだ たけし) 迅と恵の上司。かなりのベテラン。
プロローグ
車のサーチライトが、夜の闇を切り裂く。やがて車がある洋館の前で止まると、なかから一人の男が降りてきた。・・・俺の名前は如月迅。最近、栃木の
警察署に転勤してきた刑事だ。今日は、ある事件の捜査でここ、松風壮に来ている。俺が松風壮の中に入ると、ひとりの男が歩み寄ってきた。
「よぉ、キサラギ。相変わらず疲れた顔してるな。晩メシはたべてきたのか?」
「小山田さん、俺そんなに疲れた顔してるんですか?昨日は、ちゃんと早めに寝ましたよ?」
「早めにって、何時に寝たんだよ?」
「十二時です。」
「全然早くねーよ。もう少し時間ってもんを考えたらどうだ?」
「すんません。以後気をつけます。」 (なんで俺があやまらなければいけないのだろうか。)
小山田さんは、俺の直属の上司だ。今はだいぶおっとりした性格だが、若いころは、『鬼の小山田』と呼ばれ、全国の犯罪者たちを震え上がらせていた
らしい。
今は、『狙った獲物は逃がさない、とにかく何でも当たって砕けろ!』を信念に、日々凶悪な犯罪者たちとたたかっている。後輩刑事からの信頼も厚く、
俺も小山田さんのことを尊敬している。将来は、小山田さんのような刑事になりたい。
「ところでよ、今日からまた新入りの刑事が来ることは知ってるか?」
「そんなことは聞いてませんね。あんまり期待はしていないですけど、どんな人なんですか?」
「こんどのやつはな、女刑事だそうだ。しかもかなりの美人さんらしいぞ。」
「ホントですか?それじゃあ、めちゃくちゃ期待しちゃってもいいんですね?」
「ああ、めちゃくちゃ期待しちゃってもいいぞ。キサラギが来る前に電話で連絡したからな。もうすぐ来るだろう。ただ、その女刑事、かなりの変わり者らしいぞ。」
「そうなんですか。まぁ、べつにいいんじゃないですか。そのほうがにぎやかかになりますし。」
「まぁな。お、噂をすれば美人刑事のお出ましだ☆」
玄関から、一人の女性のシルエットがこちらに向かってくる。そして、彼女が俺たちの目の前に来たとき、
俺は自分の目を疑った。俺の目の前にいる女刑事は、他の刑事と全く違う異彩を放っていた。まず目に付くのは、
これでもかというくらい、カールされた金色の髪だ。染めたのか地毛なのかよくわからないが、とにかく金髪だ。
そして、メイクもこれまたものすごい。つけまつげに、黒のアイラインが迫力のある、黒々とした目元。そして、
足元は、ショッキングピンクのピンヒールに黒のタイツ。服装は、黒のジャケットに黒のミニスカートという、ありえない服装。そう、彼女はまさしく、巷で言
うギャルそのものだった。俺は、小山田さんを、すみっこまで引っ張っていった。
「おい、あんま強く引っ張んなよ。いって―だろうが!」
「すんません。でも、ききたいことがたくさんあって。まず、あの人は誰なんですか?」
「ああ、あいつが今日話した新人刑事だよ。名前はなんだったっけかな・・・・」
「神無月恵。自分の部下の名前くらい覚えときなさいよ。」
背後から、あのギャルの声がした。派手な見た目とはうらはらに、よくとおる、艶のある声だ。振り返ると、そこにはやはり、神無月恵と名乗るギャルが
立っていた。その立ち姿にはとてつもない迫力があったが、整ったた目鼻立ちに健康的な明るい肌は、誰が見ても美人に分類されるだろう。そんな異
様だが美しい彼女に見とれていると、小山田さんに腕をひかれ、俺はすみっこまで引っ張って行かれた。
「あの、小山田さん、そんなに強く引っ張らないで下さいよ。痛いじゃないですか。」
「いいか、キサラギ。あのギャル刑事のことは、くれぐれも丁寧に扱うんだぞ。」
「え?なんでですか?あの子、俺たちの部下じゃないんですか?」
「ちげーよ。あのギャルはな、お前の上司だ。お前は巡査だろ?あいつは巡査部長だからな。しかも、あいつの父親は警視総監の神無月秦だからな。下手なことするとド田舎の駐在所にとばされかねないぞ。」
そんなにすごい人だったんですか。だからあんな格好してても誰も何も言わないんですね。」
小山田さんと一通りの会話を終えた俺は、恵さんのいる場所まで戻った。(このとき、俺は思いっきり睨まれた。)
「二人でなににこそこそ話してたのかは知らないけど、自己紹介がまだなんだから、さっさっとしなさいよ。」
(あんたが先にしろよ!) 俺は舌打ちをこらえて話し始めた。
「俺の名前は、如月迅です。同僚や上司からは、キサラギって呼ばれてます。階級は巡査なので、恵さんの部下になります。これからよろしくお願いします。」
「なんでキサラギって呼ばれてるの?」
「自分でもよくわかりませんが、たぶん、代わった名字だからじゃないですかね。」
「ふーん。そうなんだ。で、あなたの隣の人は?」
これには小山田さんが答えた。
「俺の名前は、小山田尊志だ。階級は警部だから、あんたの上司だな。ここらは凶悪犯罪が多いからな。まぁ、
これから協力してこうぜ。よろしくな。」
「こちらこそよろしくお願いします。小山田さん。」恵さんが言う。
「さて、そろそろあたしの自己紹介でもしますか。」
「あたしの名前は、神無月恵。みんなからは、メグって呼ばれてた。だから、メグって呼んでもらえた方がいいかも。ま、これからよろしくね。」
見かけによらず、フレンドリーなギャルだ。そう思った瞬間、メグさんが、足払いを仕掛けてきた。不意を打たれた俺は、たまらず床に尻もちをついた。
一瞬、その場が静まり返った。だが、しばらくすると、周りからクスクスという笑い声が聞こえてきた。
「なんてことするんですか!本気で怒りますよ?」
「べつにー。ってかもう本気で怒ってるし。ただあんたの刑事としての注意力を試してみただけ。ま、結果はこんな無様な姿になっちゃってるけどね。」
「やるならやるでちゃんと言ってください!」
「いったらテストになんないでしょうが!あんたバッカじゃないの?」
「まあまあ、そんくらいにしといて、遺体を見に行かないか?現場入りしてから、ずっとここにいるじゃないか。
そろそろいかないとヤバイだろう?」
「ま、それもそうね。じゃ、あたしは先に行ってるわ。んじゃね。」
そういうと、メグさんはスタスタと歩いて行ってしまった。その後ろ姿を眺めていると、
「おい、なにボケっとしてんだよ。行くぞ、キサラギ。」
「あ、はい。すぐ行きます。」
俺は、小山田さんとメグさんの二つの背中を前に見据えながら、これから始まる連続殺人事件にかかわるなんて思いもよらずに、現場の黄色いテープ
をくぐったのだった。 この瞬間から、俺(達)の長い一か月が始まるのだった。
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