サンタクロースを待っている

「サンタクロースを待っている」
 
 
テラー 
老人        
少女        
 
人影
お母さんの声
 
 
 
[intro]
 
  舞台は暗転
 
ステージの下手前方に椅子と机が置かれている。しかし真っ暗なので客席からはよく見えない。そこにカンテラを持ったテラーが下手から入ってくる。テラーが机にカンテラを置き代わりに机の上にあったハードカバーの本を手にとり話し始める。
 
テラー どうもみなさん、僕の名前はテラーって言います。この物語の語り手、とでも言いましょうか、まあそんな感じのヤツです。さて本日皆さんに披露させていただくお話は12月24日。俗にいうクリスマスイブのお話です。物語の登場人物でも何でもない僕が長々と話しても仕方がないので早く始めましょうか。
 
 
[1]
 
 
舞台が明るくなる。舞台の中心には一人の老人と少女がたっている
 
テラー 彼らはこの物語のたった二人の登場人物です。ふたりがどんな人たちかは…まあ物語を追っていけば時期に解るでしょう。
 
少女と老人が話し始める
 
少女  ねえねえ、いつもここに座ってるけどなにしてるの?
老人  え?ああ、夢を作っているんだよ
少女  夢?夢って誰の?
老人  そりゃあみんなのさ、
少女  夢っておじさんが作ってるの?
老人  そうさ、大きいものや小さいもの、冷たいのや熱いの、たくさんさ それを空を飛ぶトナカイと一緒にみんなに配るのさ
少女  えー、嘘だあ、そんなに沢山みんなの夢なんかつくれっこないよ!それにトナカイは空を飛んだりしないよ!
老人  (少しの間)ははは、そうだなあ、まったく最近の子供は賢いからなかなか騙せないよ
少女  もー!嘘付いちゃいけないってお母さんも言ってたよ
老人  ごめんごめん、
少女  もう!嘘付いちゃだめだよ!
老人  すまなかったねぇ、お、そうだ、お詫びになんでも欲しいものを一つプレゼントしてあげよう。なにがいい?
少女  ほんと!?えーと、えーとね。うーんと…
老人  なんでもいいよ、何か欲しいものを言ってご覧
少女  んー…欲しいものがいっぱいありすぎて迷っちゃうよ
老人  そうか、じゃあ次、会うまでの間に考えておきなさい、
少女  わかった!
老人  ほら、寒いし暗くなるから早く帰らないとお母さんが心配するよ
少女  うん!またね!おじさん!
老人  ああ、またね
 
少女が退場する
 
老人  (少女の去っていった方を見つめる)
 
舞台は暗転、テラーが話し始める。
 
テラー ここでこの老人が何者なのか、少し時間を戻して見てみましょう
 
テラーの指打ちにより照明が落ちる
 
 
 
[2]
 
 
M.1 町中
 
賑やかな町中で老人がプレゼントを配っている
 
老人 メリークリスマス!!今日はクリスマスだよ!なんでも好きなものをもっていきなさい。遠慮はいらないよ、いっぱいあるからね!え、毛糸の可愛いピンクの帽子が欲しい?もちろんあるよ!ほら!喜んでくれてうれしいよ。赤い車のおもちゃ?もちろん!かっこいいのがあるよ!みつけたこれだ!おとなもこどもも関係ないよ!さあみんな欲しい物をもっていきなさい!
 
怪しい人影が老人に近づく
 
人影  お前、サンタクロースだな。
老人  いかにもそうだが、どうしたんだいそんな変な格好で
人影  お前にだけは言われたくないがな…今すぐプレゼントを配るのをやめろ
老人  なぜだ?お前はプレゼントいらんのか
 
老人はプレゼントを人影に渡そうとするが人影はそれを一目散に捨て踏みつける
老人はあっけにとられる
 
人影  …ついさっきサンタクロースの活動がこの世界全域で禁止された。だからお前はもうサンタクロースとして生きることが出来ない。さっさと荷物をしまい家に帰るんだな
老人  (間)いっ…いきなりそんなこと言われてもやめられるか!私はこれで今まで生きてきたんだぞ!
人影  反抗するのであれば…
老人  ?
人影  死んでもらうしかないな
 
老人に銃を向けて放つ
 
老人  え…
人影  次は、当てるぞ。
老人  お前は、お前は何者だ!
人影  そうだな、解りやすく言うのであれば役人。だな。それともお前は国を敵にまわしてまでそんな無意味な活動を続けるのか?
老人  無意味なのではない!子供たちの、みんなの夢を…
人影  そんなことどうでもいい!!!!早く活動をやめろっていってるんだ!!!!
 
もう一度銃を向ける
 
老人  ……(ぐったりする)
人影  そうだ、それでいい…これからサンタクロース本人だけではなくサンタクロースに関する文献などを持っているものも処罰の対象になっていく、まあその場で処分することに了承さえしてくれれば罪には問わんがな、
 
人影は去っていく
 
老人  認めない…認めないぞ…
 
テラー それから年を重ねるごとにクリスマスという日の活気がなくなっていき、いつかただの冬の日の内の一日になってしまいました。何人かのサンタクロースは掟を破り活動を決行しようとしましたがすぐに「役人」に見つかり処罰されてしまいました。そうしていつしか人々はサンタクースという存在を忘れていってしまいました。悲しいのものですね、いったい誰が何のためにそんなことをしたというのでしょうか。 さて、時は最初に戻り冒頭で老人と別れたあの少女が家に帰ってきたようです
 
 
[3]
 
 
女の子が下手から登場
M.2 我が家
 
少女  ただいまー!
 
テラー 少女は絵本が好きな女の子でした。どうやらプレゼントを何にするか迷った彼女は絵本の中に出てくるものの中からめぼしい物がないかどうか探し始めたようです。
 
少女は本棚を漁る
 
少女  うーんいいのがないなー…。あ、そういえばパパの部屋にも少しだけ私が読んだことのない絵本があったような。
 
女の子が上手に移動し、一冊の本を見つける。 

少女  あはは、この絵のおじいさん、あのおじいさんに似てる。
 
本をめくっていく、
 
少女 え…?
 
更にめくる
 
少女  おとーさん!!!!!
 
少女退場。どんどん暗くなっていく
 
テラー どうやら、彼女はすべて知ってしまったようです。「役人」も父親の書斎にサンタクロースの本があるとは思っても見なかったのでしょう。彼女は父親にサンタクロースのことは忘れるように言われてしまいました。サンタクロースと関わると恐い人たちに酷いことをされしまう、と。
 
暗転。
 
 
[4]
 
 
明かりが付くと老人が机に座って熊のぬいぐるみを作っている
 
老人  きっとこれを渡そうとしたら私は…(間)しかしどうせもう長くない命。最後に一つぐらい自分のしたいことをしてもいいだろう。明日はクリスマス。サンタを知らないあの子に夢を上げられたら、どれほどすばらしいことだろうか…。(裁縫針が手に刺さる)痛っ…久しぶりだから手元が狂うな…。少し休憩しよう…。
 
背もたれに寄っかかる
 
老人  しかし、本当に数年でサンタクロースを忘れられてしまったな。もしかして、私たちは最初から必要な存在ではなかったのかもな。…なんて私がそんなことを言ってしまっては元も子もない、よし、もうちょっとだ。頑張ろう。
 
上体を起こして作業の続きを始める
 
M.3夜中
 
老人  やっとできた!我ながらいい出来ではないか。私たちサンタクロースはなぜか子供たちがどんな物を欲しがっているかが事前にわかる。この力のおかげでわたしたちはサンタになれたんだな。しかし、最後のプレゼント、こんな簡単なものでいいのだろうか…。(少し考え)いや、大丈夫だ。出来はすばらしい
 
身支度を始める
 
老人  よし出かけるか
 
 
 
[5]
 
 
 
サンタがぬいぐるみを抱えて出かけようとしたその時大きな音がテラーが舞台に割り込む
 
テラー あれあれ?どこに行くのかなあ?
 
何人もの人の笑い声が混ざったような不気味な音が聞こえてくる
 
老人  え?
テラー ねーねー!しってる!?サンタクロースは滅びたんだよ???
老人  誰だ…。お前は…。
テラー 僕はテラーって言うの!!知ってる?日本語でいうと恐怖っていみなんだよ?!
老人  …
テラー ねえなんでバレないようにひっそりサンタクロースをやろうとしたサンタがすぐに見つかっちゃって殺されるんだと思う?こうやって監視していたからなんだよ?ずっと!ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと!!!!見てたからなんですよ!???
 
観客の方に体を向ける
 
テラー ねえねえ今見ているお客さんのみなさんもこれはこれは楽しいクリスマスの出し物だと思ってた!?残念!!!!あなたたちは証人なのです!!!あはははは。この老いぼれサンタが罪を犯そうとしたことをみんなみてたよねえ?僕と一緒に見てたよねえ??一緒にみてたよね?さーてどうやって殺そうか??!!!
 
老人が後ずさる
 
テラー ずっとこの瞬間を待っていた!!!!さあさあ!!待っていました!!!!なにがクリスマスだ!!!夜は子供が怖がる時間なんですよ!!!なのにあなたたちサンタが現れた途端、クリスマスイブの夜中に夜更かしして!しかも笑顔で過ごしているなんて考えられない!!!夜は恐怖の時間なんだ!!!しかも何の苦労もせず何の努力もせずプレゼントが貰えるなんて!!!!いい身分だなあ。それを夢だ希望だ奇跡だってへらへら笑ってるお前たちが憎くて憎くてしょうがなかった!でもそれをやっと今日!報いを受けさせることが出来る!!!
 
突然テンションが下がり
 
テラー …と思ったけどその必要もないみたいだね、あはは。
 
老人  それはどういう…   うっ…
テラー あんた、この数年でどれだけ無理してきたのさ。サンタの仕事がなくなった途端ろくにご飯も食べなくなり少ない金で渡す訳でもないプレゼントの材料をそろえて。そりゃ体にもがたがきてるだろうさ。もうあんたはそこから動くことは出来ないよ
老人  く…そ…
テラー (ぬいぐるみを取り上げて)熊のぬいぐるみよく出来てるねえ、それを渡せばきっとあの子喜んだだろうね!素敵な夢になっただろうね?
老人  やめろ…触るな…。
テラー でも一つ教えてあげるよ!あの女の子サンタクロースのこと知ってるんだよ?
老人  なんだと…
テラー うちの部下たちが手を抜いたらしいくてあの子の家にサンタの文献がみつかっちゃったんですよ。でもね。父親に危ないからおじさんにもう会っちゃいけないよって言われて今それを律儀に守ってるんですよ。今頃あんたのことなんて忘れてぐっすりでしょうね
老人  …
テラー まあ僕がこなかったとしてもそんな体じゃプレゼントはどっちみちわたせやしないさ。
老人  …夢を作ってるんだ
テラー は?
老人  私たちは夢を作ってるんだ。奇跡だって起こせる。
テラー 何を言い出すかと思えば。奇跡なんておこるわけないよ!もうこの劇は終わり始めてるんだよ。お前の命のようにね!
老人  …私たちはサンタだ。
テラー サンタはもう滅んだよ!とっくの昔にね!

老人  …サンタの掟を知ってるか
テラー なにをいいだすかとおもえば
老人  いつも…
テラー えー?なんていってるんですかー?声が小さくて聞こえないよー
老人  いつも笑顔でいることだ!!笑うのを止めたらサンタはサンタではなくなってしまうんだ!!私はサンタクロース、子供たちに夢を与えるのが仕事なんだ!!
テラー いまさらそんな熱血になられてもどうリアクション取ればいいんですかー?
老人  せめて…せめて今日ぐらいは子供たちに笑っていてほしいんだ
テラー …え?
 
舞台がまぶしくなって何も見えなくなる
M.4 聖なる夜
 
 
[7]
 
 
静まりきった部屋の中で少女が窓の外を見ている。
 
少女  おじさん…悪い人たちにいじめられてるの…?かわいそう…ただ…ただみんなに笑って欲しくてプレゼントを配ってるだけなのに。
 
少女  もう、…会えないの?
 
少女  プレゼントなんかいらないから、そのかわりまたお話ししてよ…。ねえ。
 
鈴の音が聞こえてくる
 
少女  え…?
 
少女が窓の外に「何か」をみつける
 
少女  (口パクでなにかをいうが音楽にかき消されて聞こえない)
 
M.6  ENDING
 
 
[outro]
 
少女が机に向かい客席に背を向けている
 
お母さんの声 おきなさーい!朝よー!
少女  はーい!今いくー!
 
 
女の子が退場していく。少女がいた机の上には熊のぬいぐるみがのっかっている
 
END

サンタクロースを待っている

サンタクロースを待っている

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted