海豚 ~dolphin~

物語の始まりはいつも唐突

西暦2541年・・・。

人類は欲と堕落した環境に溺れて500年前ほどから進歩が止まっている。
そんな世の中に見合った程度の軽く、ふわふわした、でも誰もが一度は体験したい物語。

「おせーって!」
強気な口調が夏の空につんざく。
「ごめんね敬ちゃん・・・」
と追いかけるように謝る少年。彼は「綾岸 鷹」。わけあって17歳で一人暮らしをしている少年。
「ちゃんとメールで待ち合わせ時間いったろ・・・」
敬ちゃんと呼ばれる少年は鷹の幼稚園からの幼馴染、「類 敬太」。一言で言うと育ちが良いぼっちゃんだ。

夏の夕方と言えば花火祭。いつの時代もこれがお決まりである。
「あっ、あそこにくじがあるよ!!!」
鷹が敬太を引っ張る、引っ張る、人ごみをすり抜け出店の前へ。
(どうせ当たらないだろ・・・)と敬太が思っているところで、
「景品にドルフィンがあるじゃん!!!」
ふっと見てみるとそこには大きな箱に入った最近はやりのゲーム「海豚~dolphin~」が一つ置かれていた。
「敬ちゃんこれ初回限定版だよ!俺はじめてみたよ・・・。ん~、600ネガかぁ~・・・」
と、敬太が鷹の耳を引っ張り耳元で、
「お前今日何ネガ持ってきたんだよ?」
と囁く。
「1000ネガ!」
「はぁ。」とため息を漏らす敬太。そして店の人に聞こえないよう、
「絶対ドルフィンなんか当たらないからやめとけ。お前それやったら残り400ネガだぞ?食べたり出来なくなる
けどいいのか・・・。よく考えろよ。それにしてもあのドルフィンってゲーム、高すぎるな。100万とか尋常じゃないな…」
だが鷹は聞く耳を持たない。
「あれ欲しいなぁ~~~~・・・」
すると出店の武将ヒゲの汚らしい男が、
「兄ちゃんやってくかい?今なら100ネガ負けて500ネガでやらしてあげるよ!」
これぞ、悪魔の囁き・・・。
「このドルフィン、当たったら99万9500ネガ得するぜ敬ちゃん!」
敬は遠目で鷹を眺めている。武将ヒゲの男が「ニヤッ」として、
「これは初回限定版だから199万9500ネガも得だぜ?しかも外れてもほらっ」
と下に山のように積まれたガラクタを見せられる鷹。
「なっ、得だろ?」
「おお~~~~!」
何が「おお~~~~!」だよと呟く敬を背に、
「おっちゃん!一回!」
「あいよ~」
武将ヒゲの男がにやにやしているのを敬は睨みながら「たく…」と鷹の所まで行く。
「お、敬ちゃん、今なら500ネガでやれるってさ!」
「やめとけって…」
500ネガを差し出す鷹の表情には武将ヒゲの男と似たニヤニヤとするものが浮かんでいた。
「はい、そこのくじから1枚引いて。1だとドルフィン、2~10はそこのカード、11から~・・・」
何百枚も入っているくじの中から1を引き当てるのはどう考えても不可能に近い。鷹ががさがさと手探りでくじを1枚取り出す。
「えっと…」
ぺリっとくじをはがすとそこの数字は「32」。崩れ落ちる勢いで落ち込む鷹。
「兄ちゃん残念っした~!もっかいやるかい?」
敬が「いくぞ」と言ってもその場を動かない鷹。
「もっ…か…ぃ」
「おいいいいい!」
敬が止めるがまたもや聞く耳持たない。
「はいよ兄ちゃんまた500でいいぜ!」
馬鹿…と呟く敬。
「大丈夫!絶対当たる!そんな気がするんだよ今日は!」
その笑顔には誰をも納得させる不思議な力みたいなものがあった。
数秒固まった敬は「ふっ…」を笑みを浮かべた。鷹が「ガサッガサガサッ」と2枚目、すなわち最後のくじを引いた。

結果…。・・・・・・・・

少しはがすと「1…」

おっと目を輝かせる鷹が全部はがすと、「11」。
鷹の顔が引きつったがここで負けるわけにはいかない。
数秒考えた鷹は大声で、さらに敬太に目配せして、
「当たった!!!1番だ!!!ドルフィン当たったよ!!!」
と叫ぶ。武将ヒゲの男が「えっ…そんなはずはな」と声を漏らすと同時に周囲の目がこちらに向く。

シーン…。静まり返った夏の夕方の花火祭り。そして敬太が、

「そんなはずはってどういうことですか?」
と武将ヒゲの男に尋ねる。
「えっと…その…入れてないっていうか…」
!?!!!???
周囲の目の鋭さが変わる。鷹はポカーんとした表情。敬太が、
「それって詐欺ですよね、警察読んでもいいんですよ?」
と圧力をかける。
「いやぁ~…。わざとじゃないんだよ…」
「警察に突き出されたくなかったら、言いたいこと分かりますよね?」
「ああ…分かった。分かったよ!もってけ泥棒!」
周囲が歓声をあげ、鷹が飛び跳ねて喜んでいる。
「敬ちゃんすげー!!ありがとー!!」
と飛びつく。照れる敬太、「やめろよ~」とは言ってみるものの歓声にかき消される。
「うわ重いなぁドルフィン。初回限定版でAPも付いてるのか!」
APとはドルフィンのハードである。若干進化したPC。


土手に座る鷹と敬太。
「いやぁ~…やっぱチームワークの勝利だね、敬ちゃん!」
「ははは…でもよくあんな高い景品置いてたな。」
舞い上がっている鷹はこんなことを言い出す。
「ドルフィンはオンラインRPGだから離れている人と出来るんだけど…」
「なんだ?」
「敬ちゃんお金持ちでしょ?」
「何が言いたいんだよ…。」
「敬ちゃんも買って一緒にやろうよ!!」
そんなことだろうとは思っていた。すると敬太が驚くべき発言。
「実はな…もう持ってるんだよ。親父の趣味でね。」
「!? そうだったんだ。結構やってるの?面白い?」
「いやまだ箱も開けてない。」
「えええええええ!でもよかったね!これで一緒にできるじゃん!!」
笑い飛ばされる敬太。「ハハは…はぁ。」。敬太はあまりゲームが好きではない。
「まあ、な・・・。」

「よし、明日敬ちゃんの家で一緒に設定からはじめよう!」
「えええ、俺んちで…」
「今日は疲れたな…早く帰って寝よう!おやすみ敬ちゃん!」
それは俺のセリフだと突っ込む間もなくダッシュで家に向かう鷹。
「お、おやすみ…」

そしてこの瞬間、何の変哲もない土手から二人の人生に関わる、謎多き世界、「ドルフィン」の本当の物語が始まった…。

海豚 ~dolphin~

海豚 ~dolphin~

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-08

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