勇者時給900円〜
ふとしたことから勇者となった雄二。理解できないまま放り込まれたその先で、波乱万丈の生活を送ることとなった。
※不定期更新で執筆させて頂いております。なるべく早いペースでできればとおもってはおりますが、ご理解とご協力宜しくお願い致します。
求人募集
大学をでて大手電機メーカーに就職して2年。なんの夢もなくただ平凡な毎日を送っている。
大凪 雄二
なんの変化もない毎日に飽き飽きしてきた。もっと刺激のある人生を送りたいと思うようになった。
「仕事辞めようかなー」
仕事中ボソッと呟いた言葉に隣のデスクの同僚の由美がそれを聞いて振り向いた。
「本気で言ってんの?他いっても今の時代大変だよ。この会社にいた方がいいよ」
今の時代確かに厳しい。給料なんて今と比べると減るのは間違いない。税金もあがるしなんのメリットもなかった。
けど、それ以上に俺は刺激が欲しかった。今自分は生きている、他の人と同じじゃなく自分だけみたいなものが欲しかったのだ。
その日の帰り、由美と飲みに行った。たまにこうして二人で飲んで上司の愚痴を言い合うのだ。
「本当に辞めるの?」
そんなに気にすることなのか?関係ないことじゃないか。
「辞めようかなー」
軽い気持ちで言ってる俺に対し、えらく真剣に聞いてくる。そんなに会社に貢献してるわけもなく、普通にやることだけをやってるだけなのに。まぁ怒られる回数はちょっと多いけど・・・。
その日はずっと由美はいつもと違っていた。なんだかいつものように飲む雰囲気ではなかったのか、早々と店を後にし家路に着いた。
次の日、全く仕事に行く気が起きずにいた。しかし今月は出費が多かったため出勤しないとマズイ。少し遅刻にはなるが渋々身支度をし、家を出た。
フラフラと歩く後姿は周りから見れば情けないだろう。すでに仕事の始まってるはずの時間にスーツを着た男がフラフラと歩いているのだから。
毎日変わらない生活、ちょっとした変化が欲しい。
「こっちから行ってみるか」
通ったことの無い狭い路地に足を踏み入れた。数十メートル進むと小さな空き地に出た。
「行き止まりかよ・・・」
結局来た道を戻るしかないのかと思った。空き地を見渡すと隅のほうに一枚の張り紙があるのに気付いた。こんなところに誰が張ったのか、気になったので近寄って見てみることにした。
急募!勇者 時給900円~!!
「・・・は?」
唖然とし、子供のイタズラか何かだろうと思った。しかし、チラシの下の方にはちゃんとした会社名に住所、電話番号まで書かれている。
更にこんなことも書かれていた。
同時 魔法使いも募集 その他相談可 社員登用制有り
「なんだこの中二全快のような内容は・・・。けど社員って、これ仕事なのか?」
全くもって理解し難い内容のチラシだ。
けどちょっと楽しそうと思ってしまったのだ。今の生活に不満を抱いていたので、普通じゃ完璧に怪しくて相手にしないだろうこのチラシでも、今の俺にとっては魅力を感じたのだった。
そのチラシを剥ぎ取り、軽い気持ちで書かれている番号に電話してみることにした。もしかしたら本当にただのイタズラかもしれない。そんなことを思いながらも携帯を取り出した。
・・・rrr、rrr、rrrガチャッ
「お電話ありがとうございます。株式会社クエストカンパニーでございます」
(・・・繋がっちゃったよ!!)
心で叫んだ。
「あ、あのー張り紙を見たんですけれども」
「はい、ありがとうございます。勇者募集の張り紙ですね。応募は勇者でよろしかったですか?」
恐る恐る言ってみると、ハキハキとした女性の声で答えてきた。
「えっと、はい」
(何言ってんだ俺!流されて話進めてんじゃねーよ!)
「大変助かります。現在勇者が無断欠席を続けてて困っていたところでして。すぐにでも面接をさせて頂きたいのですが、ご予定はございますでしょうか?」
「え、これからですか?」
なんともまあ仕事が早い。電話の相手はもう面接の予定を言ってきた。
仕事も行く気が起きないし、今日くらい休んでもいいだろうと思い返事をした。
「わかりました、大丈夫です」
会社には一本電話しとけば問題ないだろう。
「ありがとうございます。それではチラシに書かれている住所までお越し頂けますでしょうか」
「はい、これから伺います」
そう言い残し電話を切った。
勇者時給900円〜