報われないシンデレラと母とピアノ

◄ 1 2 3 ►
母とピアノ

魔法使いがまた私の目の前に現れる。
「せっかくのチャンスを棒に振るなんて…君はなんて愚かなんだ。幸せになりたいんじゃないのか?」
魔法使いは怒っている。私はあらかじめ用意していた言葉を言う。
「私は所詮、この程度の人間なんですよ。」
魔法使いはため息をついて言う。
「空気を読み、自分が1番安全な方法を選択することは人間のいいところでもあり悪いところでもある。ぼくには到底考えられないけどね。後悔はないのかい?」
後悔。この言葉を聞いて胸がジワリとする。もし後悔をしていないなら、過去のことを思い出すことはないだろう。魔法使いのことを考えたりしないだろう。自分でもわかっている。私は後悔をしているのだ。しかし後悔をしたところで何も変わらない。変えることはできないのだ。
「後悔はしてないです。むしろ踏ん切りが付いて…」
「ぼくに嘘は通用しないよ。」
あっさりと本音を見抜かれてしまい私は俯いてしまう。
「後悔しているんだね。君はまだ変化に対する希望を捨て切れていない。」
そんなことは自覚していることだ。言われなくてもわかっている。
「…私はこの数日ずっと考えていました。どうして私は変われなかったのか。望んでいたのになぜ叶わなかったのか。…今までの言動や行動、見たり聞いたりしたこと、周りの環境によって今の私はできているのです。『変わる』というのは私の過去を否定することだと思うんです。そんなことまでして過去を変えたいとは思いません。私にも誇れる思い出はありますから。」
一呼吸おいて。
「私には母がいました。もう顔はぼんやりとしか覚えていませんが、綺麗でとても優しかったです。母はピアノが弾けました。母のピアノは繊細で柔らかく暖かかったです。そんな母にピアノを教えてもらったのが私の一番の思い出です。その後母は病気で亡くなり今のお姉様に拾われました。それからの私の生活は酷いものになりましたが、私の中には母のピアノが永遠に生き続けています。私はそれだけで十分幸せなんです。」
私は笑う。折り合いを付けたように。あきらめたように。
「…そうか。君は変わらなくても幸せなんだね。ならぼくはもう何も言う必要はない。ただ、1つだけ報告はさせてもらおう。今日は何があるか知っているかい?今日は王子様の結婚パーティーなんだよ。出席できなくて残念だったね。さよなら。」
その言葉を聞いた瞬間胸が音を立てて鳴る。内臓がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような感じがする。もう王子様は私の元に現れない。もうダンスを踊ることもできない。
「ま…待ってっ!!」
反射的に魔法使いを引き止めたが、ごちゃ混ぜになった感情は行き先を失ってしまう。
「…あっ…えっと…その…」
魔法使いはまたため息をつく。
「全く…君は本当に世話の焼ける人だ。」
そう言うと私を繋いでいた鎖は解かれ、服はいつの間にかドレスになっている。
「この後どうするかは君次第だ。かぼちゃの馬車はもう用意してあるよ。」

報われないシンデレラと母とピアノ

報われないシンデレラと母とピアノ

報われないシンデレラとワルツ 報われないシンデレラと魔法使いの続きです。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted