冬枯れのヴォカリーズ vol.4

冬枯れのヴォカリーズ vol.4

 日曜日の新宿というのが、私は好きだ。

 サラリーマンも、OLも、学生も、みんなその日は自分の身分を解放して、ただの男や女になって買い物をし、遊ぶ。そんな雰囲気が、街全体にあふれているからだ。

 そして姉も、今日は一人の女になってやってきた。普段仕事の時はいつも一つに束ねているという髪の毛をおろし、学校には絶対に履いて行けないジーンズを履き、結構明るめの口紅をしている。

 サザンテラスにあるアフタヌーンティーに行った。

 二時過ぎだったが、店内はとても混んでいて、待ち合いの椅子にしばらく座って、20分ぐらいしてようやく通された。

 姉の美香は、埼玉の川越で、長澤さんという人と同棲している。長澤さんは今日、大学時代の友人とサッカーの試合を観に神宮に行ったのだそうだ。来るとき一緒で、試合が終わるまで新宿で過ごすことにしたとのこと。試合は14時キックオフ。

 一番奥の窓側の席に通され、思わず二人ニッコリ顔を見合わせる。

 メニューを見ると、前から知ってはいたがやはり値段は高めで、迷っていると、姉が、

「理美、今日はおごりだから。好きなの頼んでいいわよ」

 と言ってくれたので、遠慮なくケーキセットを頼むことにする。

 店内は圧倒的に女の人が多かった。すぐ右隣には、私ぐらいの大学生風の女の子二人組がいて、ランチからずっと長居しているらしく、テーブルにはパスタが少し残った大皿があり、小声で話し込んでいる。
 大きな高島屋の紙袋を隣に置いて、話に花を咲かせている左隣の四人は、成城学園あたりに住んでいるに違いないマダムたちだ。

 姉と私は、一通り近況報告をし合い、それから実家の話になった。

「お母さん、今は元気だけど、油断はできない状態だと思うの。いつ再発してもおかしくはないわ。再発したら万が一、ね…わからないでしょ。だからね、お姉ちゃん来年早々結婚式をしようと思ってるの。長澤とは学生時代からの長い付き合いだし、同棲して半年経つけれど、これと言って問題もないし、お姉ちゃんも今年で26だしね。お互い仕事も落ち着いてきたし、長澤は栃木の人だけど、母のことを話したら、結婚式は福島で挙げようって言ってくれたの」

 姉の結婚の話を聞いて、羨ましくもあり、また少し淋しくもあった。松崎とのことは、結局話さずじまいだった。


 

冬枯れのヴォカリーズ vol.4

 ご拝読、ありがとうございました。

冬枯れのヴォカリーズ vol.4

都内の女子大に通う、理美の、大学生活の日常を描く、恋愛小説。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-10-28

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