フィリック
プロローグ
2011年10月27日
「ねぇねぇ、みんな。イチゴプリン買った?」
給食中に、関崎明日奈がクラスに問う。クラスメイトからは「あっ、まだ買ってない」と焦る者や、「ホントに効果あるのか?」と明日奈に聞き返す者などさまざまだ。
実は彼女、1週間ほど前から、10月28日に彗星が地球に衝突する。衝突しなくても宇宙人がやってきて私達を殺す。でも、イチゴプリンを渡すと友好的になる。と、クラス全員に話していたのだ。
「そんなことありえないって」
明日奈の後ろの席であるにもかかわらずそう漏らしたのは中尾隆であった。
「ホントにそうなんだって」
それを聞きつけ、明日奈が鷹司に言い返す。しかし、隆はムシをして給食を食べ続ける。明日奈は諦めてほかの者の所に行った。
「まぁ、信じられないよね」
隆の隣でこう囁いてきたのは、生徒会長でもある西村あかりだ。彼女も信じない派の一人である。
「あっ、そういえば今日が発売日だったな」
今日は、隆が楽しみにしていた、ゲームの新作の発売日である。
「でも1日しかやれないね」
「それを言うなよ」
あかりも隆も信じてはいなかったが、それをギャグに使うくらいのセンスはあった。
「んっ、もうこんな時間か。速いな」
時計の針は11時を指している。
隆は、無事に手に入れたゲームのプレイ中だった。
「そろそろ始めないと、間に合わないな……」
隆は、趣味で小説を書いている。この時期は毎年、出版社の開催しているグランプリに応募する作品を書いている。今年は忙しかったせいか、例年より書くのが遅い。
自室に行き、パソコンに向かうとキーボードを叩く。
しばらくして顔を上げると、日付が変わろうとしていた。
「そういえば今日だったな」
ふと、明日奈の言っていたことを思い出し、外に出てみた。外にはどこにも変わったところはなかった。寒くなってきたので戻ろうとすると、空に一筋の光が走った。驚いて目を凝らしてみると、その後も何度も光が走った。そして最後に、今までと比べ物にならないほど大きな光が地平線にゆっくりと向かっていった。
「まさか……ウソだろ……!?」
2011年10月28日のことだった。
1-1
目覚めた隆の目に飛び込んできたのは、どこまでも続く大空だった。いつもの朝と違う光景に不信感を抱き、辺りを見渡そうとするが体が動かない。
「ったく、何なんだよ……」
諦めて大空を見ていると、足音が近づいてきた。
「おーい、こっちだこっち」
隆は誰なのか疑問に思ったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「……なんだ、加藤か」
足音の正体は、近所に住む、加藤祐樹だった。祐樹と隆は毎朝登下校する、幼馴染という仲だ。
「何やってんだ、中尾?」
「見てわかんねぇのか、バカやろう。早く助けろ。動けねぇんだ」
祐樹はヤレヤレとためいきをつくと、面倒くさそうに隆の体の上にのる瓦礫をどかし始めた。
まわりは大地震が起きた後のように、瓦礫の山ができていた。
「さてと……これからどうする?」
隆はあぐらをかくと祐樹にそう聞いた。
「どうするっていっても……そういえば中尾の家族は?」
「今助け出されたばかりだろ。それに生きてたとしても瓦礫の下だ、助けられない。お前の方は?」
「しばらく探してたけどいなかった」
あっさりとした答えだった。
「じゃあどっかに避難してるんじゃないか?」
地震のあとのような状態。避難していると考えるのが妥当であった。
「ここら辺の避難所は……学校だな」
そう言って立ち上がると、二人の通う向ヶ原中学校へ向かった。
フィリック