報われないシンデレラと魔法使い
魔法使い
「毎日毎日言われ放題やられ放題。なんてかわいそうな人なんだろう。君はそれで本当に幸せかい?」
あの夜会にお姉様が出掛けた後、家事をある程度済ませ自室に戻って休憩しようとしたその時だった。階段に小さな子供が座っていた。顔のほとんどを包帯で隠しているが目は大きく綺麗な翠色をしてるのが印象的だった。
「あなたは誰?どうやって入ってきたの?お父さんとお母さんは?」
「ぼく?ぼくは魔法使いさ!哀れなあなたを救いにきたのさ。」
少し暇だったので私は付き合うことにしました。
「まぁ!魔法使いさんなんですか!とてもかっこいいですね!」
魔法使いはギロリと私を見つめた。
「信用していないだろう。まぁ…いきなり子供の姿で魔法使いだと言ったって信用できないか…」
魔法使いはそう言いながら台所に行きかぼちゃを手に取りました。
「見せた方が話が早いだろう。」
その瞬間、魔法使いの持っていたかぼちゃは姿を消した。
「外を見てごらん。」
外にはなんとかぼちゃの馬車がありました。
「凄い!これ本当にあなたがやったの?」
「あぁ、もちろんさ。このくらい造作もない。」
魔法使いは続けて言った。
「もう一度言うよ。君は本当に幸せかい?君は運のいいことに容姿に恵まれている。それなのに好きでもない『お姉様』の言いなりで…それじゃあただの家畜だ。こんなところでくすぶっていてどうする?君はもっと幸せになれる人だ。ぼくはチャンスを持っているのにそれを使わないような人がとても嫌いなんだ。」
突然現れた魔法使いと名乗る子供に説教を受け正直不愉快ではあったが、理解できることはあった。たとえこれがただの夢だったとしても彼は私の平凡な日常に現れた非日常、変化のきっかけである。この時の私は少しだけ気が大きかった。夢でも構わない、「変わりたい」と本気で思っていた。
「…私は幸せになりたい。変わりたい。変わって、お姉様を見返してやりたい!どうしたらいいの?」
「それが君の願いだね、わかった。それならこれからお城に行って夜会に出ようじゃないか!」
「夜会に?そ、そんな急に…私ドレスなんて持ってないし…」
「そんなの障害にならないよ。」
魔法使いはそう言って指を鳴らした。すると私の着ていた服がみるみるドレスに変わっていった。
「すごい!これなら夜会にも行けるわ!」
「見違えたね。ぼくの呪いが解けていたなら真っ先に求婚していただろう。でも、注意してね。その魔法は12時になったら解けてしまうからね。」
「わかりました。ありがとうございます!」
「さぁ、行ってくるんだ!」
私は屋敷を飛び出した。
12時過ぎ。魔法の解けた私を魔法使いは迎えに来てくれていた。そして片方だけ脱げた靴を見て
「君にしては大胆なことをしたね。」
そう言って笑った。全て見抜かれていたのだ。私は恥ずかしくなり俯いてしまいましたが、その時の私の顔は鏡を見なくてもわかる。私も笑っていたのだ。
王子様が私の村を尋ねてから2日が経った。私はお姉様に散々お叱りを受け、手に鎖を付けられ、閉じ込められてしまった。今の私を見たら魔法使いは何と言うだろうか。何を言っても私はこう返すつもりだ。
「私は所詮、この程度の人間なんですよ。」
「全くだよ、君は本当につまらない人間だ。」
報われないシンデレラと魔法使い