ラジオ人生相談

 わたしどうしてもあなたに聞いてほしいことがあるの。実はたかしさんのことなんだけど、なんか最近帰りが遅いときがあって、大抵おそくなるときには電話してくれるんだけども、たまに連絡もくれない日もある、わたしそんな時でもちゃんと起きて待ってるの。自分の鍵でドアを静かに開けて入ってくるたかしさんを玄関までいって出迎える、そんな時彼はわたしをみて少しきまり悪そうにするの、でもわたしからなにも聞かないから彼もなにも言わない。
 どこかで飲んできた。スーツのにおいでわかるの、そういうお店のにおい。すこし強くなったたかしさんの体臭に混じってタバコとお酒と夜のお店の匂いがスーツに染み付いてる、ずっと家にいるわたしにはその匂いがとてもいやで、そんなたかしさんがなにか汚らわしいもののように思ってしまう時があるの。でもわたしがいやなのは外で飲んで帰ってくることじゃなくって、だって仕事の付き合いとかいろいろあるんだと思うし、そういう事はしょうがないって思うけど、連絡くらいはしてくれてもいいじゃない。 いつ帰ってくるのか、もしかしたら、もう帰ってこないかもしれない、ひとりで待っているとそんなことばかり考えてしまって、不安でたまらないの、わたしに赤ちゃんが出来なかったことも彼、不満だったんだろうな。こうしてわたしが家でひとりでいるあいだ、たかしさんはわたしには見せない顔をしてどこかでお酒を飲んでいる。   だからやっぱりあの時たかしさんの携帯を見たのは間違いじゃなかった。

  なんの連絡もなく遅く帰ることが続くようになったある日に、飲んできた彼は出迎えたわたしにただいまも言わずに、すぐにお風呂に入ると言い、わたしの顔も見ずにいってしまった。ひとり残されたわたしが玄関に置かれたままの彼の鞄を持ち上げようとしたその時、鞄の中から携帯のメールの着信を知らせる短い振動音が聞こえたの。 その晩わたしたかしさんに何度も電話してたのに、電話は留守電になるしメールの返事も全然なかったんだけど、そうか、たかしさん鞄に携帯入れっぱなしだったから気がつかなかったんだ、彼がお風呂から出たらすぐにわかるようにリビングのテーブルの上に置いておいてあげよう、そう思ってわたしが鞄から携帯を取り出すと、その彼のグレー色の携帯のメールの着信を知らせるランプが点滅していたの。わたしは今まで彼の手帳や携帯を勝手に見るなんてことなかったから、すこし迷ったけど、でも着信のランプが点滅するのを見つめていると、わたしの目にまだ残っている、さっき彼が帰ってきた時に見せたばつの悪そうな、それなのにどこか開き直った態度でわたしを見た、あの顔がわたしにそのメールを開かせたの。

 携帯勝手に見て彼おこるだろうなって思ったけど、届いていたそのメールが アキという知らない名前の女の人からだったから、わたしは廊下に立ちすくんだまま、その女の人からのメールから目をそらすことができなくなってしまったの。そのまま玄関で彼のメールボックスをすべて見ている間、どの位の時間が経ってたのか、お風呂から出てきたたかしさんが廊下で携帯を見続けるわたしに気づき、なにか言おうとしてたみたいだったけど、わたしはそのまま彼の前でその浮気相手からのメールを読みつづけていたの。

 結局その女の人からのメールはきちんと保存してあるだけでも5件はあった。日付はちょうどわたしが流産したあとから始まっていて、消去したのもあったかもしれないけど、ぜんぶ同じ人からのだった。問いつめるわたしにたかしさんは、仕事仲間とたまに行く店の女の人からだからって、別に何でもないって、ただそれだけ、別に取り乱したり、言い訳したり、そんなこともせずに、わたしが彼の携帯勝手に見たことにもただ、心配することないよって言うだけで、それ以上なんにも言わない。

わたしが流産したときと一緒、あの時もなにも言ってはくれなかった。初めての妊娠だったからすごく不安だったけども、たかしさんはすごくよろこんでくれて、付き合ってきて初めて彼に対して少し誇らしいような気持ちになったの。 でも7週目になっても心音が確認出来ずに、エコーの結果、赤ちゃんのはいるはずの部屋がからっぽだってわかったの。お医者さんは初めての妊娠だしよくある事だって言ってたけど、わたしは悲しくて、それに彼に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。手術をした後、彼はわたしのからだを気遣ってくれたけど、子供が出来てなかったことは避けるように、なにも言わなかった。

 お休みの日にもたかしさんから、あのいやな匂いがする時がある、普段着でいる彼のからだから、あの夜のお店の匂いがする、そんな時にはリビングに飾ってある写真立ての中の、結婚前のふたりが、まるで他人のように思えてしまうの。信じなきゃって思っても、あのメールの女の人のことが頭から離れない。たかしさんに、どうしてって聞きたい、もうわたしはたかしさんのとなりにいないのかな、あの写真の中のふたりはどこへいってしまったのかな。寝る前、まぶたのうらに、たかしさんと女の人が一緒にいる姿がみえる気がして、こわくて目を閉じたくない。
あの日から、考えたくないことばかり思いえがいてしまう。
たかしさんはその人のことをなんて呼んでいるのだろう。

 いかないで欲しいって言わなきゃ、このまま何も言えないままでいたら、何もできないまま彼はわたしから離れていってしまう。この部屋でただ彼の帰りを待つことしか出来ないわたしはなにも出来ず、いつか本当に彼がこの部屋に帰ってこなくなる日がくる、でもそんな事をたかしさんに言ってもただやさしく否定するだけで、それで終わりなのはわかってる。だから、その女の人にもう会わないで下さいって言わなきゃ、たかしさんをとらないでって。 

 最近ひとりでいる間、いつもラジオをつけているの。そうしてるとひとりぼっちじゃないような気がする、他にもひとりでこれを聞いてる人がいっぱいいるんだろうなって想像すると気がまぎれるっていうか、誰かの声が聞こえるとちょっと安心するの。 それに悩みとかを相談する番組とか聞いてると、自分自身の不安を少しのあいだ忘れられる、会ったこともない他人の悩みをわたしも一緒に考えてみたり、そんなことをしてひとりを過ごしてる。
もしかしてわたしも相談してみたら、ちょっと勇気がいるけど、話を聞いてくれるかな、たかしさんよりは、なにか言ってくれるかな。


「あなたの旦那さん別に心配ないよ。 だいいち別に浮気してる訳じゃないと思いますよ。 そういう店は客にまた来て下さいってメールだすのよ、商売だから。別になんでもないことですよ。 旦那もそれわかって行ってると思うよ。男は外でそういう遊びするのもたまには必要よ。それで、あなたはその店のオンナに旦那と別れて欲しいって言いたいって、別に付き合ってるわけじゃないんだし、それに、そんなことしたらかえって向こうのオンナに馬鹿にされますよ、誰があんたの旦那なんかにって言われるのがオチですよ。向こうのほうが割り切ってるし、そんな店でもてるのはよっぽどの金持ちだよ。 旦那が帰りが遅いのはあなたにも問題があるんじゃないの。 家で暗くなってんじゃないの。誰だってそんなかみさんがいる家に帰りたくなくなるよ。旦那がしゃべってくれないなら、自分からしゃべりやすくするように心がけなきゃ。 家では明るい妻になりなさい。自分から明るくすれば自然と向こうから心を開いてくれるよ。とにかく明るく、明るくね。」


 確かにたかしさんとあの女の人とはなんでもなかったのかもしれない、でも、それをもう一度彼に確かめるのはわたしにはできない。こんどのことは、わたしがたかしさんを疑ってしまったのがいけなかったんだ。わたしがたかしさんのことを信じてあげること、それがこれからのわたしたちには必要なんだと思う。 あの先生が言うように、明るく、明るくなって、たかしさんを迎えてあげなきゃ、そうすれば、このからっぽの部屋も、なにかで満たされるかもしれない。


 なあ、どう思う、あれからアキちゃんやらしてくれないんだよ、あれからって、はじめの金渡してからだよ30万、やらしてくれないっつーか、アフター誘ってもなんだかんだ言って全然来ないし、やれるやれない以前の問題なんだよ、やっぱ堕ろしたあとって出来ないのかな、そこらへんよくわかんないけど、だってそんなこと直接聞きにくいし、店で聞けないじゃんそんなこと、お店にはぜったい秘密だよーって言ってたし、それにアキちゃん金渡したあとにメールで、お店休んでた期間の罰金があるからもう20万欲しいって言ってきたんだよね、それってもう20万渡すまではやれないって事なのかよ、始めに渡した金も奥さんに内緒で貯めてたやつなんだけど実はそれ、アキちゃんと一緒に住むための資金だったんだよね、まあ俺も家庭があるからずっと一緒にってのは無理だけど、二人で金出し合って小さなアパートでも借りてさ、普段はアキちゃんが住んで、それで俺が店行く代わりにそのアパートで会えば今より二人の時間が増えるじゃん、アキちゃん週末店出てるから、週の初めに2、3日は行くようにして、そしたら俺も土日は家で過ごしてさ、ちょっと体力的に大変かもしれないけど、アキちゃんだって昼間デザインの学校通って夜キャバで仕事してるんだから俺もがんばらないと、ってその計画の事はまだアキちゃんには言ってないんだけどさ、いつ言おうか迷ってるうちにこんな事になっちゃって、とりあえず、20万はちょっと待ってって言ってあるんだけども、金ないから店にも前みたいには通えなくなってきちゃってて、週末とか家いるとすげー会いたいんだけど、小遣い少ないし、がまんしてるんだけどさ、家で妊娠してる奥さん相手に酒飲んだって面白くもなんともないじゃん、奥さんもやっと出来た子供だからすげー気使ってて俺もよかったねっていってるんだけど、正直ダブルでくるとは思わなかったよ。

 初めアキちゃんから大事な話があるから会いたいってメールあって、向こうから誘ってくるのも、昼間会うのも初めてだったからなんかいい予感しながら待ち合わせのカフェ行ったらアキちゃん、俺の顔見るなり泣き出しちゃって、ずっと生理こなくて怖かったんだけど今日病院行ってきたら、やっぱりそうだった、どうしよう、しゃくりあげながらそんな事言うから俺、初めよく聞こえなくて、え、って聞き返すとアキちゃんあのぱっちりした大きな目からぽろぽろ涙こぼしてる、店のドレスもかわいいけど、普段着のアキちゃんはやっぱ新鮮で、今日くる前に会ったらすぐ、普段着もかわいいね、って言おうって思ってたんだけども、そんな状況じゃないみたい、なんか他の客が変な顔でこっち見てるし、とりあえず落ち着こうって、だいじょぶだからね、つってもこんなこと初めてだから俺だって泣きそうだったんだけどさ、迷惑かけてごめんなさい、下向いて肩ヒクヒクさせて泣き止まないアキちゃん、そんなのアキちゃんのせいじゃないよ、俺がわるかったんだよ、酔っぱらってちゃんとコンドームしなかったからだよね、きっとあの時だよ、それがいつの事か思い出せないしそんなの毎回だったような、それに俺まだアキちゃんとそういう関係になってそんなに長くないからそんなにやってないような気もするけど、そんなの長いとか短いとかじゃないよね、現に奥さんとはずっとやってても全然出来なかった訳だし、欲しいと思ってても手に入んなかったり、欲しくないものがすぐ出来ちゃったり、人生思いどおりにいかないね、なんてそんなことアキちゃんには言えないから、どうしようか、とか言いながら俺も黙っちゃってお互いにその言葉をどっちが先に言うかじりじりしてる感じ、ついにアキちゃんのほうからとりあえずお店休む間の分も会わせて30万下さいって、もう泣いてなかった。

 思うんだけど、もしかしたら俺以外にも男がいるんじゃ、だとしたらホントに俺の子か、アキちゃん人気だから会ってる最中でもよく携帯鳴ってるし、どれがただの客か男かなんてこっちはわかんねーじゃん、初めて先輩に連れられてあの店行った時からアキちゃん結構人気あるほうだったし、レギュラーじゃないくせに指名いっぱいだったから、それ思うと俺なんかと付き合ってくれたことが奇跡だったのか、俺はっきし言って先輩みたいに遊んでなかったし、金も使えないのに、そんな俺のこと好きって言ってくれるって事はアキちゃんが結構真剣に俺の事考えてくれてるってことにつながるんじゃねーの、客としてじゃなくさ、そう思うとアキちゃんの事疑ったらかわいそうだけど、でもそれならやらしてくれなくなったっつーのはおかしーし、前まではアキちゃんだって結構乗り気だったっていうか、乗り気ってそっちの意味での乗り気ってのもあんだけどもさ、向こうから腰動かしてきたり、言わなくても終わった後に口できれいにしてくれたり、うちの奥さんが全然そういうのダメだから、俺初めてだったんだよそんな積極的な娘、俺のして欲しい事わかってくれてるっつーか、本当の自分見せれるっつーか、奥さんだと俺がしたい事とかバカにされそうで、そんなことしたがるなんて、異常、考えらんない、なんて言うんだろうし、考えらんないって言ったって、現にそれをしたいって思ってる俺がいるんだから、だからさ、そんな目で見なくてもいいじゃん。

 それにしても俺、最近全然仕事してない気がする。朝、営業車で会社出たはいいけど、いっつもなんか考えてて、どっか停まってぼーっとしてたり、アキちゃんとホテルで撮った2ショットの写メ眺めてたりしてるとすぐ昼になってる。ひとりで考えててもなんも出ないけど、他人に相談するっていっても先輩ぐらいしかいないし、でも先輩なんかに言ったらバカにされそうだしな。 結局キャバクラの罰金って言ってた20万、あれ払ってさ、ちょっといいところ、かっこいいとこ見せなきゃダメなのかな、そうしなきゃずっとおあずけってことなのかな、20万ぽんって渡してさ、それでその時言おうかな、アパートのこと、すぐには無理だろうけどさ、二人でコツコツ貯めてけばすぐだよ、ほら目標があるっていいじゃん、アキちゃん、うんって言ってくれるよね、彼女の気持ちに応えてあげなきゃ、しっかりしてるところを見せるんだよ。まあ、とりあえず借金だな、カードでキャッシングして、奥さんにその分の明細の言い訳考えなきゃ。
こんなとき車のラジオ聞いてると落ち着くよ、昼間のラジオっていいよね、のんびりしててさ、癒される、しゃべってる人達がみんないい人でさ、特に人生相談、相談者はバカばっかで笑えるんだよ、それをなんかの先生みたいのがバッサリ、冷静でさ、気持ちいいんだよね。
つーかさ、悩んでる人って結構いるんだな。


 「結局あなた何をしたいの? その女と一緒になりたいの? だってあなた家庭あるんでしょ、奥さん子供産まれるんでしょ、それはどうするの? どっちもうまくやろうなんて、そんなの無理に決まってるでしょ、あなたそんなに経済力あるの? 下手なことするとどっちもなくす事になるよ。それに商売の女が客に真剣になるはずないでしょ、向こうが真剣になるほどあなたがお金持ちなら別だけどさ、あきらめなさい、奥さんがかわいそうだよ。それに他に男がいるか知ったところでどうなるの? きっとその男のほうがお金持ってるんじゃないの? あなたがその女の事好きなのはわかったけどさ、その為にこつこつ貯金してたんだものね。でもその気持ちをね、ただ見せつけるだけじゃだめよ、相手が本当に喜ぶことを考えなさい。男には息抜きも必要だからさ、たまにそういう店で気晴らしするのもいいじゃない、その時にね、その娘にお金使ってあげなさい、それが一番喜ぶわよ。とにかくバカな考えは捨てなさいね。その女だってあなたが破綻するのなんて望んでないわよ。とにかく今は奥さんを大切にしなさいね。子供が生まれたら考えが変わるかもしれないわよ。」


 人に何言われても結局自分だからさ、相談しても無駄って事あるよな、まあ、あの先生に全部は言わなかったんだけどさ、堕ろした事とか、金の事とか、でも言ったって同じだし、逆に決心ついた気がする。この20万は渡して、だって困ってるんだろうからさ、渡す時にちゃんと確かめてみよう、アキちゃんの気持ちを。それからだな、奥さんにこの事話すの。なんかさ、あとでバレた時に言い訳するの、めんどうになってきちゃってさ、もしバレてその時にいろいろ言われたら俺、イライラして奥さんのこと殴っちゃいそうなんだよ。
それにあの先生、客のこと好きになったりしない、なんて言ってたけど、そんなこと言い切れないじゃん、実際アキちゃんは俺の事好きだって言ってたんだしさ、あとはどれだけ真剣に考えてくれるかなんだよ。
俺は今、言いたいんだよ、もう我慢できないんだよ、あとのこと考えて今したい事我慢するなんて、したくない。男がいるか、いないかなんて、もう関係ない、アキちゃんなら、俺の事、わかってくれるんだよ。


 ごめんねこんな時間にどうしてもあなたに話したいことがあって、そううちの旦那のことなんだけど最近なんかあやしかったっていうかたまに夜遅く帰ってきたりして仕事の付き合いとかいってるけどあんまり信じられない感じでまあこれっていうものもなかったからなんも言わなかったんだけど実はこの前こっそり見ちゃったんだよね携帯、旦那が風呂はいってる時に、そしたらやっぱりあったんだよオンナからのメール、なんか一日おきにきててアキでーす、この前はちょーたのしかったよ、とかこんどいつ店にきてくれるのーとか、バカじゃねーのなにがアキだよ、なんかキャバクラみたいな感じのところのオンナからみたいで、あいつ仕事の付き合いでなんていってたのに一日おきにメールくるなんてけっこう通ってるみたいで、それに最初のメールの日付みるとわたしが子供産むんで実家に帰ってた時期からだったりしてさ、昼間ラジオでよく人生相談とかやっててそれでいってたけど男は奥さんが妊娠中に浮気する率が高いって、それ聞いてた時にはそれほどなんにも感じなかったけどたしかに最近家帰ってきてもろくに話もしないし疲れてるのはわかるんだけど休みの日くらい子供の面倒みてくれたっていいじゃん、自分は家から出て気晴らし出来るんだしわたしに家のこと全部押し付けて自分はなんにもしないわけなんだから、それにあいつこの頃あんまり求めてこないし仕事で疲れて眠いのはわかるしわたしだって子供の世話で忙しいからそんな気になんのは最近少なくなったけどさ、前はあいつ毎晩求めてきたのに今は一緒に寝てるだけでもうこっち向きたくないみたいっつーか、ほんと子供できてから愛情っていうのが感じられないっていうかまあ子供はかわいいみたいでちょっとはかまってくれるけど家かえってきてもつまんなそうな雰囲気出してて疲れてんのはわかんだけどわたしが子供のこととか家のこととか聞いて欲しいのに全然聞く気ないっていうか、すぐやな顔してちょっとも聞きたくないみたいでわたしが子供と家の事全部やってんだから少しは愚痴聞いてくれたっていいわけでしょそれにひとが子供産むんで死ぬほどんときに自分はそんなとこ行ってオンナと会うなんて信じらんなくて、とにかくそのメール見つけてから言おうかどうしようか迷ったんだけどこっちも勝手に携帯見たっていうのもあったしでもどうしても言いたくて次の日旦那が会社から帰ってきてすぐ問いつめやったのメールのこと、そしたら案の定あいつ勝手に携帯見たことに文句言いはじめて、プライベートな事だからとかなんとかいってて確かに勝手にみたのは悪いけどいけない事してるのはそっちなんだからさ、そしたらやっぱりキャバクラのオンナからのメールだってさ、はじめなんかごまかそうとしてたけどあいつそうとう焦ってて言い訳見つかんなかったみたいで、そこは初め仕事の仲間といった店でそのあとたまに行くようになっただけだって、ただの気晴らしにいってるだけだっていうんだよ、お前がそんなとこまで詮索するなっていうんだよ、別に詮索ってただ聞いただけなのにそんなふうにいうなんてって思ったけど、お前がそういうふうに俺の生活を束縛するから、だからそういう店にいって気晴らしをしなきゃいけなくなるんだとかいっちゃって、そんなこっちが悪いみたいに言われてもだってわたしはただこのメールのオンナとの事が聞きたかったのに、肝心の事が反対にわたしが責められることになっちゃって、そんなこと言い張ってる旦那みてたらなんかダルくなってきちゃって、それまで言いたかった事とか、メールの事だけじゃなくてさ、聞いてほしかった事とかがなんかわたしの中からすっぽり抜けちゃったみたいになって、なんも何も言い返す気もなくなって、それでその晩はなんかこっちが引いたみたいな感じでおわったんだけども、あれからあんまりあいつとちゃんと話さなくなったっていうか、普通の話しててもどっかで、裏切られた、ってことが頭からはなれなくて、お互いのケータイに貼ってある同じプリクラ、前に子供と3人で撮ったやつなんだけど、よっぽど引き剥がしてやろうかと思ったんだけど子供も一緒に写ってるしそれも出来なくて、とにかく子供子供って思ってわたしだけのこの子になるべくあいつを近よらせないようにしてみたりして、でも頭の中では何度も何度もあの晩あいつのいった事を思い返してたりして、このままあのひとに反論できないままいつかまたなんでもなかったように今までみたいな生活に戻っちゃうのかもって思うとすごいむかついてきて、あいつが正しいわけじゃないのにさ、なんでわたしのほうががまんしなきゃなんないのかっていう、そこが納得いかないじゃん、かといってこのままじゃどうしようもないから、だれかに相談っていっても旦那に浮気されたなんてかっこわるくて友達には話せないし、かといってこのままあいつをのさばらしとくのも許せないし、それでいままであんまり家族に相談なんてしたことなかったけど実家の兄さんに話してみることにしたんだけど、兄さんは実家に子供産みに帰ってるときにわたしがいかに大変だったか知ってるから事情を話すと一度家に帰ってこいって、男はそういう気になる時があるものだから、実家に帰ってきて少しあいつの頭を冷やしたほうがいいって、こっちのことは心配ないからいつでも帰ってきていいって言ってくれて、その時はそのまますぐに子供と一緒に荷物まとめて帰ってやれって思ったんだけど、でもこの家出るってちょっとどうかなーっていうのもあって、もしかするとこの前浮気のこといってたあのラジオの人生相談だったらなんて言うんだろーって考えてみたりもしてみたり、だって実家帰んのもいいけどそのあとあいつが自分が悪かったって言いながら、オンナとはもう切れたからって言いながら実家に土下座しにあやまりにくるかなって、そんな事ありえないような気がするし、結局少ししたらこのまま、わたしからこの家に帰ってくる事になって、そしたらまだわたし納得しないままあいつもあやまったりしないままでもとの生活に戻ってっちゃうんじゃないかなってそれってまだ全然うやむやなままじゃん、って考えるとやっぱりあの人生相談はなんかすっきりするようなこと言ってくれるんじゃないかって、このままわたしが泣き寝入りしなくてもいいような事言ってくれるんじゃないかなって思って、次の日番組聞いて電話番号メモしといたんだよね。


「あなたの旦那さんのそれ、そんなの浮気じゃないですよ、浮気のうちに入らないですよ。 で、あんたはどうしたいの。 旦那がそのキャバクラの女にもう会わないようにさせたいの? でも別にその女はあんたの旦那と付き合ってるわけじゃないでしょ。また来てくださいってメール出すのは、あなた、それは向こうも商売だからで店として売り上げあげるためには客をつなぎとめとかなきゃなんないでしょ。だから女の子からメール出させるのよ。 別にそのメールの女があなたの旦那を好きだからじゃないのよ。 あなた旦那にそんなにお小遣いあげてないんでしょ。かわいそうにそんなお小遣いじゃろくに遊びにいけないんじゃない? それにあなたがのこのこ荷物まとめて実家のお兄さんの所に帰っていってごらんなさい、そりゃお兄さんからしたらかわいい妹だからすぐにでもって言ったんだろうけど、あっちの奥さんがどれだけ迷惑かよく考えてみなさいよ。あなたは別れたいわけじゃないんでしょ、旦那も子供はかわいがってるみたいだし、旦那だって家庭こわしたい訳じゃないだから。 とにかく、男はいつでも遊びたいものだし、そういう男の心理をあんたがわかってあげなくっちゃ。 今回のことはとりあえず見逃してあげなさい。 あなた家の中で暗い顔して旦那の帰りを待ってるんじゃない? 旦那に愚痴ばっかりこぼしてるんじゃない? 家では明るい妻になりなさい。 自分がおおきな気持ちになって、ちょっと飲みに行くくらいはしょうがないわねってゆるしてやりなさい。 家で文句ばっかり言ってる妻からは誰だって逃げ出したいわよ。 これから子供も大きくなってくるんだから、とにかく明るく、大きな心でね、がんばっていい家庭をつくっていくことだね。」


 結局あのラジオの先生がいってたのは、あの先生は、わたしが原因だっていうの? わたしひとりが我慢して、その上何もなかったみたいにあいつが帰ってくるのを馬鹿顔して明るく出迎えなきゃなんないっていうの? わたしが浮気されたのにすべて忘れろって? それですべてうまくいくって? 浮気されたって文句いうのがまるで世間知らずみたいに言いやがったあの先生、奥さんと子供がいるダンナを誘惑したキャバクラのオンナをかばいやがったあの先生、うちのダンナが遊ぶ金もないしょぼい男みたいにいいやがったあの先生、
あいつは外で発散して、いったいわたしはどこでぶちまけりゃいいんだよ、赤ん坊にぶちまけりゃいいのか? 
おまえが言わなきゃいけないのは、がんばってるわたしが悪いんじゃない、ダンナが一方的に悪い、ってことだろ
とにかく
わたしは
絶対に間違っていない。


  「悩みのない人なんていないわ、誰でもいろんな悩みを抱えて生きていると思うの。それをひとりで考え込んでいても、なかなか答えは見つからないものなの、それを誰かに聞いてもらって、いろいろな意見を聞いてみることで気持ちがほぐれるて、そのうちになにかが見つかるかもしれない。
起こってしまったことをくよくよ考えていてもなかなかそこから抜け出せないものだから、誰かに話してみて、いろいろな考え方を聞いてみるのも大切なの。
 大抵の人は自分自身の中でその悩みの答えを知ってる、ただそれに気づかないだけなの、私の仕事は相談者の人が自分自身の中に答えを見つけるお手伝いをしてあげること。私の回答に満足な人も不満な人もいると思うけど、あとはその人の人生だから、その人なりの選択をするしかないの。一生自分の中にある答えに気づかない人もいるし、気づいていても気づきたくなくて、そのままの人生を過ごす人もいるわ。人にはそれぞれの生き方があるからね、それがその人自身の決断ならば、それでいいと思う、それがその人が選んだ道だから。」


 どうしてもわたしがあなたに聞いてほしかったこと、それはわたしにとっては大切な、あのときのわたしの気持ち。
明るさでいっぱいになった、新しいわたしたちの部屋にはもういらない、あの時のさびしかったわたし。
それは、新しい毎日の中で、忘れてしまうように消えていってしまう、そんなあのときのわたしの気持ち。
そんな気持ちが大切だなんて、きっと笑われることなんだと思う、でも、わたしは忘れたくない。
今はわかる、
それは、あの写真がわたしには何よりも大切だっていうこと、
これだけはあなたにわかってほしかった。

ラジオ人生相談

ラジオ人生相談

「あなたの悩みはなんですか?ひとりで悩んでいませんか? だれかに相談すれば、あなたの中に何かが開けるかもしれませんよ!」

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted