ヘイゼル・パーセルの旅日誌

ヘイゼル・パーセルという変わり者の学者の旅の話。
彼は旅の目的も告げないまま、突然所属していた研究機関を飛び出した。

一体何が彼を苦難の旅へと向かわせたのか?

ヘイゼル・パーセルの旅日誌 その1

ヘイゼル・パーセルは旅の途中だった。
クラウゼという広大な森林の中。雪で辺り一帯の針葉樹林や岩、地面、全てのものが白く染まっていた。
ヘイゼルはアマンゼンと呼ばれる種族である。身長は130センチほどだが、ヒト型種であるアマンゼンの中では高身長な方だ。もじゃもじゃの多すぎる黒い髪。伸ばし放題のヒゲに、道中の汚れが染み着いた皮の大きなバックパックに毛皮の服。
疲れた表情で雪の上をザックザックと歩いていく。彼の前の道が途切れ、ガケになっていた。

 ヘイゼルの前に広がるガケは思いの他高くはなかった。下にはまた同じような深い森林が広がる。大きなため息を一つつくと、肩に食い込んだバックパックを無造作に降ろす。中から使い古された望遠鏡を取り出しのぞき込んだ。
 はるか遠くまで広がる無限とも思えるような森、さらに森。
ヘイゼルは上着の内側から巻物になった地図を取り出す。地図を眺め眉をヒソめると、また上着の中にしまいこむ。
 「半日も歩けばローワンゾの黒い森が見えるはずなんだが」
どうやら道を間違ったようだ。クソッ、シリルの町で買った地図が全くのいい加減じゃねぇか。これのせいでくたばったらお笑いにもならんぜ。
 ヘイゼルはバックパックの中から干し肉を取り出し噛みつくと強引に引きちぎる。
 「なんだありゃ」
 ガケの下の森の中を巨大な白い毛むくじゃらの何かが二本足でノッソノッソと歩いている。両肩から伸びた長い腕。片方の手には死んだヘラ鹿を握っているのだが、巨大なヘラ鹿がまるでウサギか何かのようだ。
 巨大な獣がこちらをちらりと振り向く。とっさに身をかがめるヘイゼル。心臓はバクバク。脂汗が額に滲みでる。
獣の顔面は醜悪な猿のような顔。口からは凶悪な牙がのぞく。
あんなのに見つかったら、殺されて今日の晩飯になっちまう。
大猿からはガケ上になっているこちらはどうやら見えないようだ。そのままどこかへ歩き去る。
 学者ではあるが、色々な場所を旅してきたヘイゼル。大概の危険には遭遇してきたが、今回ばかりは足の震えが収まらない。
注意深くガケの下をのぞき大猿がいない事を確かめたヘイゼルは早々にこの場を立ち去ることにした。
 やっと足に力が入りだしたその時である。目の前の巨大な木が大きく揺れ頭から雪がドサっと落ちてくる。体や頭から雪を払い頭上を見上げる。おおきな鳥でも止まったのか?いや、そこには木に触れた巨大な手があった。人差し指から小指までの四本の指と親指が離れた猿の手。黒い肌の手の平はゆうにヘイゼルの体ほどもあった。
全身に緊張が走る。意識が体を抜けそうになるのを必死に押さえ背後を振り返るヘイゼル。
 そこには先ほどガケ下で見たのと違い、黒の斑が入った模様の大猿がいた。大猿の口から内蔵の熱気が呼吸と共に白く吐き出される。光る黄色い醜悪な目をこちらに向けると、鳴き声とも言語とも付かない音を発する。
「くそっ!」
 ヘイゼルは逃げ出した。持てる力を全て使って。どこに逃げるか?実は腹がいっぱいでこっちを追ってこないんじゃないか?どうすれば助かる?色々な事が頭の中を十分に考える事もできないまま巡る。
ヘイゼルは逃げ足には自信があった。アマンゼンの小さな体は大男のロートルの前ではとても武力ではカナわない。しかし、その小さい体は弾丸のように素早く走る事ができた。この能力でくぐり抜けた苦難も数知れない。
しかし、それでさえ同じヒト型に対して、である。森の生き物に対して、ましてやあんな化け物に通用するか大いに疑問が残る部分がある。

 どこまで走っただろうか。小川を二本渡り小さな岩壁を三回ほど登った。息も絶え絶え。心臓はこれ以上は無理だとばかりに悲鳴をあげていた。徐々に血がめぐる脳味噌で辺りを見回すヘイゼル。
 先ほどと同じような雪景色。針葉樹林や岩。大猿はいなかった。その場にへたり込むヘイゼル。息が落ち着くのを待った。

 耳を澄ます……風が葉を揺らす音。鳥のさえずり。遠く小川の流れる音。安堵のため息をつくとその場に寝転がるヘイゼル。

 ヘイゼルが天を仰ぐと、頭上から黒斑の大猿が黄色い目で覗きこんでいた。息を弾ませる事もなく平然と。
あまりの驚きに今度は全く体が反応することができない。
「う……あ……」
死を覚悟した。

すると大猿は手に持っていたバックパックをヘイゼルの隣に落とす。どうやらヘイゼルは置いてきてしまっていたようだ。そして死んだウサギも落ちてきた。
何がなんだか解らないヘイゼル。ぎこちなく大猿を見上げる。
大猿の片手にはヘイゼルが噛みついていた干し肉が握られていた。
言葉とも鳴き声ともつかない、先ほどのような声。明らかにヘイゼルに向かって言っているようだ。
訳も解らず「わ、解った」とばかりに首を縦にぶんぶんとふるヘイゼル。
大猿をその様子を見るといずこかへ音もなく飛び上がる。気づくとその巨体はすでに遠くへ移動していた。
あっと言う間に大猿は視界から消え失せる。
「助かった……のか?」
ヘイゼルは暫くその場から動く事ができなかった。

ヘイゼル・パーセルの旅日誌

文章表現もなにもかにも始めましてなので、おそらく何もかもむちゃくちゃだろうと(笑)

ただ、書くこと、想像すること表現することは楽しいなと改めて思いました。

ヘイゼル・パーセルの旅日誌

ヘイゼル・パーセルは身の丈130センチほどの小男。彼はアマンゼンという小人種である。 学者という身でありながら一人旅を続けていた。 クラウゼという果てしない森が続く場所。雪の降り積もる場所でヘイゼルは巨大な大猿と出会う。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-02

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