白雪姫だった頃
「白雪姫みたいだね」そう言われたのは、小学校1年生の時だった。
「白雪姫みたいだね」
そう言われたのは、小学校1年生の時だった。
図工の授業で、紙とかビニールとか折り紙とかで、
テーマを決めて自分の衣装を作って発表する、という内容だった気がする。
私は美術の学校を行ってただけあって、手先が昔から器用だった。
通知表で算数は○や△でも図工は六年間常に◎だった。
私は薄い黄色の模造紙や水色の模造紙、白い半透明のビニールなどを使って
器用にレースやちょうちん袖を作った。
そして大きい赤いリボンを頭に乗せた。
当時私がどんなテーマで作ったのかは覚えていない。
ただ、絵本の中のようなドレスが着たくて夢中で作ったのだ。
今はトイザらスで簡単に変えるプリンセスドレスも
私が子供のころにはなかったのだ。
そして完成し発表をしたんだと思う。
その時に、背の順でいつも一番後ろ同士だったけど
あまり話したことがなかった古宮君が
タコのような真っ赤な顔をして
「白雪姫みたいだね」
と笑顔で話しかけてきた。
私はうれしくなって、帰り道に白雪姫気分で歩いたのを覚えている。
そして家に帰ってそれをもう一度着て、お母さんに
「今日ね、白雪姫みたいって言われたの!」
と鏡の前でクルクルと回って見せた。
何回も何回もその言葉を思い出して、うれしくていっぱいだっだのを覚えている。
初恋なんてたいそうなものじゃない。
もっと淡くて、ソーダの泡みたいにすぐに消えてしまうような感覚。
でも、あの頃私は白雪姫だった。
幸せで夢にいっぱいでディズニー映画の白雪姫の挿入歌
「いつか王子様が」を歌った。
あれから何年たったろう。
もうとっくの昔に私は白雪姫じゃないことに気づいた。
あの時のような純粋でキラキラしたものなんてひとつもない。
いつか王子様がなんて何年たっても現れるわけもない。
失った痛みの傷も、自分で絆創膏を貼って前に進んでいる。
もう、白雪姫じゃない。
白雪姫だった頃