A or D
小説の出だしみたいなものだけ思いついたので。ここからは続かないっす(ヾノ・∀・`)
「雨が降っていたんですよ」
その男は、なんの感慨もなくそう言った。
「そうなんだ」
俺は、なんの感情もなくそう答えた。
「だからね、傘をさして道を歩くんです。すると、目の前に人間が現れたんですよ」
台本を棒読みするかのように淡々と語る男をちらりとみて、
俺は湯気を立てるコーヒーをすすった。
「とても綺麗な人だった」
断言したその言葉に、少し興味を惹かれる。
マグカップを置き、指を組んだ手をテーブルの上に乗せ、男を見据えた。
「それは、男? それとも、女?」
にこりと笑ってそう問うと、男は10秒ほど思案して
「分からないなぁ」
と答えた。
「見たんだろう?分からないなんてことは無いんじゃないかい?」
さらに問うと、つい先程まで無表情だった男の眉間に小さく皺が寄った。
「・・・・・・天使、だったのかもしれないね」
「――天使? 」
「そう。天使」
天使には性別ってものがないでしょう?
そう続ける男の顔は真剣そのものだったので、おもわず笑ってしまった。
「ひどいですね、こちらは真剣だというのに」
「くっ・・・・・・はは。いや、失礼。バカにするつもりは無かったんだけどね」
ただただ面白かっただけさ。
そう付け加えて、またコーヒーに口をつけた。
「そういえば、あの人は羽を持っていた気がしますね」
思い出したかのように、男が言う。
「なるほど。天使の羽ってわけだ。さぞかし美しかっただろう? 」
今度はマグカップを両手で包むように持って、再び男に問いかけた。
「ええ。とても綺麗な、黒い羽でした」
――黒い羽?
「は?黒? 天使の羽ってのは、白いものだろう?」
「はい。そうですね」
眉間にしわを寄せていた先程と違い、表情をピクリとも動かさない男。
「・・・・・・そんな天使がいるものなら、ぜひ一度会ってみたいね」
苦笑い混じりにそう呟くと、
「何を仰っているんです? ――貴方がそうであるのに」
目の前の男が、笑って、俺を指差していた。
・・・・・・は?
何を言っているんだこの男は。
その爽やかな笑顔で。
呆然と目の前の笑う男を見つめていると、空から何かが降ってきた。
ふわりふわりと舞うそれは、手の中のマグカップの中に静かに落ちる。
黒い液体に浮かぶそれは、
天使のソレか――――悪魔のソレか。
A or D